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1990/10/26 読売新聞朝刊
[WHAT&WHY]国連憲章と憲法の関係 国際情勢激変で矛盾も(解説)
 
 自衛隊の国連軍参加問題で、政府は「現国連憲章のもとでは参加できない」との見解を明らかにし、ひとまずこの問題は決着した。しかし、同時に将来国連軍が創設された際の再検討にも含みを残している。政府見解の周辺にスポットを当ててみた。
(解説部 田中 政彦)
◆視野の広い論戦期待
問い 国連平和協力法案の協力隊と国連軍はどういう関係なの?
答え 協力法案では国連平和協力隊をつくってそれに自衛隊を参加させることになっているが、協力隊の任務は「武力行使を伴わない」停戦監視や選挙管理、物資輸送、医療活動、被害住民の救援等とされている。
 ところが、国連軍の場合は「国際の平和及び安全の維持または回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる」(国連憲章四二条)とし、そのため加盟国は「必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用させることを約束する」(同四三条)となっており、武力行使が前提だからまったく別ものだ。
問い 協力法案と直接関係ないのに、なぜ今問題になるの?
答え 協力隊は国連の平和維持活動に協力するためのもので、広い意味では国連軍とも無関係ではない。国連軍はまだ正式につくられたことはないが、自民党の一部から「現憲法の枠内でも自衛隊の国連軍参加は可能」とする議論が持ち上がり、これに野党が反発して国会論議になっているわけだ。
問い 国連軍の場合、「武力行使を伴う」から、自衛隊の海外派兵になるんじゃないの。
答え この問題には二つの側面がある。一つは海外派兵にならないかという点。もう一つは集団的自衛権の行使につながるのではないかという点だ。政府は憲法九条の解釈として「領土、領空、領海を守るための必要最小限度の自衛力しか持てない」とし、海外派兵も集団的自衛権も憲法上許されないという立場をとってきている。
 しかし、わが国の国際的な地位向上と国際情勢の激変を踏まえて貢献策を検討する以上、従来の憲法解釈の枠を超えて見直すべきだというのが自民党執行部の考え方だ。
問い 自民党は具体的には何ていってるのかしら。
答え 海外派兵も集団的自衛権も憲法上、明文で否定されているわけではない。一方、憲法九八条では「国際法規は、これを誠実に順守することを必要とする」とされており、国連の要請にこたえないのは義務違反になる。
 憲法で禁止されている「武力行使を伴う」自衛隊の派兵は国権の発動としての派兵であって、国連の要請に基づくものはこれに当たらない。同様に国連の集団安全保障の枠組みで行う自衛隊の国連軍参加は集団的自衛権とは次元が異なる−−これが自民党の主張の概略だ。
問い 国際法規の順守義務と憲法はどっちが優先されるの?
答え 学界でも両説あって、ここで詳細を説明できないが、憲法と国連憲章の関係でいえば、国連中心主義をとるわが国の場合、論理的にはこの二つが矛盾するはずはないということになる。
 ところが、現実には国連軍参加問題のように国連憲章の要請に応じようとすると、「憲法上、問題が残る」。
 矛盾を内包したままの例としては日米安保条約がある。同条約が集団的自衛権に抵触しないのは、日本が他国に攻められたら米国は救援にくるが、米国が攻撃されても日本は救援の義務がないという片務性にある。対ソ戦略上、日本を自陣に引き寄せたかった米国と、わが国の平和憲法の枠組みとの接点が、この極東条項に集約されているわけだが、わが国が経済大国になり米ソが和解した今日、こうした“ゆがみ”が現状のまま放置され続けるだろうか。
問い 今後、国連との関係をどう考えたらいいのだろう。
答え 日米安保体制に変化(例えば在日米軍の大幅削減など)が生ずれば、日本の安全保障政策は根底から見直す必要が出てくるかもしれない。日米関係を基軸とする基本方針を堅持するのは当然としても、国連とのかかわり方については、もっと掘り下げてみる必要があるのではないか。
 厳密な法解釈論争を否定するつもりはないが、国家戦略といった視野の広い論戦も期待したいね。それこそ政治家の仕事だと思うんだが・・・。
 
 
 
 
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