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2005/01/19 毎日新聞朝刊
社説:国連とODA 数字に右往左往するな
 
 アナン国連事務総長の諮問委員会「国連ミレニアム・プロジェクト」が、安保理常任理事国入りを目指す先進国は2015年までに国民総生産(GNP)の0.7%を政府開発援助(ODA)に充てる目標を達成すべきだとする最終報告書を公表した。日本政府は戸惑いを隠せないでいるが、右往左往せずに国連改革への地道な努力を続けるべきだ。
 このプロジェクトは貧困撲滅などに取り組むことを誓った2000年9月の国連ミレニアム宣言に基づいて設置されたチームだ。報告書は先進国と途上国の双方に対する提言をまとめたが、その中で常任理事国入りを目指す国の、ODAのGNP比0.7%達成目標に触れた。
 今回、安保理常任理事国入りを目指しているのは日本、ドイツ、インド、ブラジルなどだ。報告書は名指しは避けているものの、「先進国」という表現で事実上、日本とドイツにODAの大幅増額を求めたものといえる。
 しかし、0.7%という目標は日本とドイツにとって容易な数字ではない。現在のGNP比ODA予算額は、日本が0.2%、ドイツが0.28%だ。日本にとっては8100億円(04年度一般会計)のODA予算を10年後に3兆5000億円に増額するという非現実的な案であり、これを常任理事国入りと関連づけるのはおかしい。
 日本は1954年にODAを開始して以来50年間で185カ国・地域に総計2210億ドルを供与してきた。90年代を通じて世界一を誇ってきたが、01年に米国に抜かれた。財政危機の下でODA予算の削減を余儀なくされたからだ。
 各国のGNP比ODAをみると、スウェーデン0.7%、ノルウェー0.92%、デンマーク0.84%と北欧諸国が高い。これは、GNPの規模が日本より小さいから比率だけでは比較にならない。
 それより、報告書の問題点は米、英、仏といった現常任理事国について「0.7%」目標に触れていないことだ。ODAのGNP比は米国が0.14%、イギリスが0.34%、フランスが0.41%で、いずれも0.7%に達していない。これでは、日本やドイツに対し常任理事国入りへの新たな壁をつくっていると受け取られてもやむを得ないだろう。
 アナン事務総長のもう一つの諮問機関である「ハイレベル委員会」は昨年、常任理事国を増やす案と準常任理事国を新設する案などの改革案をまとめたが、そこでは選出基準として国連分担金や任意拠出金での貢献を盛り込んでいる。この基準では分担金や任意拠出金がアジアでトップの日本は最有力候補と目されている。
 アナン事務総長は「ハイレベル委員会」の報告とともに、今回の報告も踏まえて勧告をまとめるという。平和憲法の下で常任理事国入りを目指している日本にとっては財政的貢献の持つ意味はもちろん大きいが、いたずらに「0.7%」という数字に惑わされることなく、日本の果たすべき役割を堂々とアピールしていくべきだ。
 
 
 
 
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