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2004/10/10 毎日新聞朝刊
[社説]安保理改革 米国を巻き込む機運作れ
 
 第59回国連総会の一般討論が終わって国際社会に強く印象づけたのは、全加盟国の8割近くが安全保障理事会の改革に触れ、安保理改革論議が近年にない盛り上がりを示したことだ。
 一般討論で安保理改革に言及した国は148カ国(昨年は107カ国)を数え、中でも常任理事国拡大を訴えた国は昨年(23カ国)の4倍近い84カ国にのぼった。改革論議は10年前から断続的に続いているものの、これまでは低調としか言いようがなかった。
 それが今期最大のテーマに浮上した理由は、イラク戦争と米国が主導する「対テロ戦争」にあったと言っていい。
 昨年秋の総会で、アナン事務総長が「我々は国連創設時に勝るとも劣らない重大な岐路に直面している」と危機感を表明し、有識者諮問委員会(ハイレベル委員会)に安保理改革のあり方を諮問したことも大きな契機となった。
 とりわけイラク戦争のように、安保理の深刻な亀裂を招いた問題では「(米国などの)単独行動を非難するだけでは十分でない。国家を単独行動に駆り立てる脅威や懸念に国連が正面から取り組み、集団的行動で対処する方策を示さねばならない」(アナン演説)と指摘したことが重要だ。
 テロや大量破壊兵器拡散などの新たな脅威に加えて、国際社会は貧困、社会・経済的格差、気候変動、伝染病、環境悪化などの「ソフトな脅威」にも直面している。国家間の対立や内戦、宗教紛争など古い型の脅威も決して消えたわけではない。
 国連がそうした多様な脅威に対処するには、一部の国々の突出を抑え、国際協調と集団安全保障の基本理念をどう発展させ、適合させるかにある。一般討論で登壇した各国指導者たちが訴えた内容もこの点に集約されていた。
 改革の具体化は容易でない。日本はドイツ、ブラジル、インドと4カ国グループ(G4)を結成して常任理事国入りに名乗りを上げたが、常任・非常任理事国を増やすにしても多種多様な案がある。拒否権の扱いをめぐっては、各国の思惑がさらに入り乱れる。
 だがどんな試案にせよ、米国を国連創設の理念に立ち戻らせ、国際協調の足場にしっかりと結び付けなければ、安保理が真の機能回復を果たせないのは間違いない。その場合、日本が問われるのは安保理改革に消極的な米国を強く説得し、協力させることだ。
 改革試案はハイレベル委の答申(12月)を受けて来年以降本格化する。日本は05年から2年間、非常任理事国に選ばれ、安保理改革を内部から促進する重要な役回りを担う位置につく。常任理事国をめざす「インターン期間」と言ってもいい。
 米国に擦り寄るだけの追随外交に終わるのか、それとも緊密な同盟関係を活用して米国を国際協調路線に引き戻せるか。日本に対する各国の視線もそこに集中するはずだ。日本政府は「安保理の機能回復」の原点を忘れずに、外交努力を発揮してほしい。
 
 
 
 
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