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III章 十和田湖に生息する生物
1)魚類
(1)魚類相
(1)魚類相
 十和田湖の魚類相に関しある程度まとまった報告としては、疋田・谷口8)、頼19)及び水谷15)があるだけである。断片的なものとして、青森県の淡水魚類相32)、秋田県の淡水魚類相24)、田沢湖の放流記録25)などに関連して記載しているものがある程度である。このほか、明治時代の半ば以降、現在に至るまで青森県及び秋田県の両県で実施している十和田湖に関する各種の調査においても、若干ではあるが報告されている。
 これら資料及び最近の現地調査に基づき得られた知見に基づき、十和田湖における魚類相を付表1に示す。十和田湖における魚類相は、これまでに放流記録がある魚種及び確認が1回限りのものを含め11科22属30種(亜種を含む)となる。このうち、現在も十和田湖において確実に生息が確認されている魚種は6科10属12種(亜種を含む)である。
 現在、第5種共同漁業権の内容魚種として種苗が放流されている魚種は、サクラマス、ヒメマス、コイ、ギンブナの4種である。このほか、ワカサギ、イワナ、ドジョウ、イトヨ、イバラトミヨ、ヌマチチブ、ウキゴリ、ジュズカケハゼについては、漁業者のふくべ網や両県の調査により普通に採捕されている。
 すなわち、現在の十和田湖における常在種は上記の12種であり、それ以外の魚種は偶発的に認められた種か、すでに絶滅した種であると推察される。
 
(2)十和田湖には在来魚はいたか
 十和田湖には、魚類が生息していたのだろうか。ここでは、放流事業が記録として残っている明治年間以前について考えてみよう。
 秋田県水産試験場2)では、「(銚子の瀧がある故に)魚類の遡上を妨げ、昔時より湖中、魚介を産せず」と記している。
 徳井33)は、1933年頃に完成したと考えられる法奥澤漁業組合長太田寛造著「十和田湖及蔦沼養魚沿革小記」を再録しており、その中に以下の文章がある(一部、読みやすいように書き直した)。
 「銚子ノ瀧・・・中略・・・があるから、如何なる魚類も上ることが出来なかったので、そのため幾万年前の大昔から周囲10余里のこの大湖に1尾の小魚さえも生息していなかったのである。これに移殖しようとすれば、イワナの如き沢水にすむ魚類の移殖はさほど困難でなかったと思われるのであるが、往事は・・・中略・・・敬虔な信仰心から、その神罰を恐れ誰ひとりとして、魚類の移殖を企てる者がなかった。」
 実際、魚類の遡上を妨げる銚子大滝の存在、あるいは、現在の姿になってから1000年から2000年程度しか経過していないことなどを考慮すると、基本的には湖内には魚類が存在していなかったと考えるのが妥当と推察される。
 これらのことから推察すると、十和田湖には在来魚は存在せず、現在生息が認められているすべての魚種が移入種ということになる。
 
・ヒメマス
 
写真:ヒメマスの成魚
北海道立水産孵化場主任研究員 小出展久氏提供
 
写真:ヒメマスの親魚
十和田湖産 全長約350mm 2003年9月撮影
 
 ヒメマスは、ベニザケの陸封型(湖沼残留型とも呼称する)で両者は同一種である。降海型であるベニザケは北米カリフォルニア以北、アジア側では択捉島以北に分布し、陸封型であるヒメマスの分布は基本的にはベニザケのそれと同一であるが、その周辺部にも生息している湖沼がある。ヒメマスの自然分布は、国内では阿寒湖及びチミケップ湖(網走川水系)だけであるが、現在は、移殖により支笏湖、中禅寺湖、西湖などにも生息している13)
 十和田湖については、疋田・谷口8)は、「1902年に北海道支笏湖より魚卵を湖畔子ノ口の簡易な人工ふ化場に移殖収容し、翌1903年4月に放流したのが最初である」としている。
 本種の生態、ふ化放流事業、漁獲状況などについては別の項目に報告しているとおりである。
 一方、秋田県水産試験場3)は、「紅鱒」卵を1929年1月23日に択捉島ウロモベツふ化場(一般にはウルモベツと呼称されるが、ここでは記載どおりとする)より620,000粒購入し、そのうち、十和田湖ふ化場に327,500粒を搬入し、302,614尾のふ化稚魚を得たことを報告している。また、同報告書において、86,832尾を飼育池、熊沢川及び夜明川に放流したとしている。前述のとおり、ヒメマスは本種と同一であるが、個体群ごとの遺伝的特性を考慮する必要があることから、この放流記録を再掲する。







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