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<患者の次のような問いかけにどのように対応するか>
・「私は少しも良くなっていない。そうでしょう?」患者の問いかけを真剣に受け止めて、患者が何を求めているのかをわかろうと努力すること。どんな問題も逃げ出さないで、関わっていこうとする姿勢。
・「あとどの位?」
 なぜ、患者は私にこの問いかけをしてきたのか?何を求めているのか?生存期間を教えて欲しいと言っているのではないかも。臨死時の不安、やりたいことがあるのか?その人と会話を続け、この問いかけをしてきた気持ちを看護職は理解して対応していく。
・真の病名を知らせていない患者が病名に関して問いかけて来たとき
 「がんではないかと考えておられるのですね。もう少し今、病気について考えておられることをお話くださいませんか?」
 すぐに病名を答えるかどうかを考えるより、患者の病気に対する考え(疑いの内容)を理解してから対応する
 
<患者のためにならないこと>
・救ってあげるという感情
 患者の為に自分がいなければならないと感じてしまうこと
・誤った元気付け
 「がんばって」「大丈夫よ」「くよくよしないで」
※真の支援は、事実に基づくものでなければならない。例えば、痛みが出たら何をしたら良いか具体的な情報を与えて、その人の場合はどのような対処をするか話し合うほうが良い。
・助言の仕方
 患者の選択の場が狭まらないように助言して本人自身に考えてもらえるようにすること。指示をするのではない。
・看護者側に不安があり、話題を変えること。
・看護者の価値観で物事の判定をしないこと。
 
<医療機関における患者・家族と医療者とのコミュニケーションのバリア>
・専門用語の使用
・忙しくしていること
・患者に良くない情報をなにも伝えていないこと
・誰に相談して良いのか患者・家族はわからないで困っている
 
6. ターミナルケアにおける家族の支援
【家族ケアの目標】
 辛いことではあるが、患者の死を家族員ひとりひとりが受け取れるように支援する。
 患者の死が家族に与える影響は、患者の年齢、家族内でしめる患者の位置、関係性によって様々。
 家族が患者と望むかかわりを持ち、理解しながらそのプロセスを歩むこと、また家族の悲しみの感情を充分表現できるように支援する。
 家族が患者のケアを通して自分の人生を肯定的に思えるように支えていく。
 
【家族ケアの原則】
・看護者は家族に対して中立でいること
・課題を乗り越えていくのは家族。そこを支援する
・ありのままの家族の姿をまず、受け止めてからケアが始まる
・信頼関係の確立
・様々な家族の形があるということを理解しておく
 
【家族アセスメント】
患者の全体のアセスメントと同様に家族アセスメントを通して家族を(看護者として)理解し、がんによって変化した(発生した)家族の抱える課題に対してケアを提供していく。
 
図3-1 カルガリー家族アセスメントモデルのカテゴリー構成
 
<ケアの実際>
(1)家族のために面接時間をとる。
 相談を受けると共に家族の感情表出を促す。
 家族の病状の理解はどうか?心理プロセスは?
 医療者への要望など
(2)家族の疲労への配慮 休息を促す
(3)充分に患者の病状の疑問に答える
(4)ケアへの参加を促し、心残りのないようにする。ケア方法の助言。
(5)看取りに対する心の準備
(6)看取りのとき 感情表出を促す
 
7. 遺族の心
悲嘆:死がもたらす喪失を基にした深い心の苦しみの感覚
 悲嘆のプロセスは当然の人間の反応
  「親がなくなるときは過去を失い、配偶者がなくなるときは現在を失い、子供がなくなるときは未来を失う」という言葉がある。
死別による心理的な危機をどのように乗り越えられるか・・・大切な家族をどのように看取ったか、その後の生活の仕方や適切な支援者、社会的な支援があるかどうかで左右される。
<遺族支援のポイント>
・気持ちを充分出せるように感情表出を促すような関わりが必要。
・看護職としては、新しい生活がうまく出来ているかどうかを尋ねたりする。(食事はどうか、夜は眠れているかなど)
<スタッフの喪失体験>
・デスケースカンファレンスやスタッフ同士で気持ちを表現しあう。
・時に同行訪問も支えになる
 
8. 私たち看護職が自分自身を大切に!
 
9. 看取りのときまで自宅で住民の方々をサポートできる在宅ケアのシステム整備
 
 
<推薦図書>
1. 阿部薫 監訳:フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際, 南江堂, 1999
2. ミルトン・メイヤロフ(田村真ほか訳):ケアの本質, ゆみる出版, 1993
3. 森山美智子編集:ファミリーナーシングプラクティス, 医学書院, 2001
4. ターミナルケア編集員会編:がんの症状マネジメントII, 三輪書店, 2001
 
心に残る看護
 
最期の言葉を聴き取るということ
 
中山 康子
 
 がん治療の目覚しい発展はこの病気とともに長期生存できる可能性を飛躍的に延ばした. しかし,その一方で再発がんの療養者と家族に対しても,私たちは再発という病状とともに生きる生活の変化や心理変化に気を配り,その人が価値を置いてきた生き方がその病状のなかでもできるよう看護の手を積極的に差し出す.
 ときに悲しいことであるが,深くかかわった進行がんの患者さんの終焉に私たちは立ち会う. 皆さんはこのとき,どんな看護をしておられますか?
 進行胃がんで入院されていた70歳代のクリスチャンの男性の看取りのとき,夜勤の担当だった私は呼吸のリズムが変わり始めたことを確認して付き添っていた妻に看取りが近いことをお話し,子どもたちに連絡を取った後,妻と二人で本人を見守った. うわごとのように何か単語をおっしゃるが妻は全く聞き取れない. 私が代わって彼が何を言おうとしているのか聴き取ることに専心した. 彼の口から漏れる言葉でやっと聞き取れた言葉が「重い・・・」. 何が重いのか妻にも私にも全くわからなかった. 本人の身体にかかっているのは薄いタオルケット1枚. そしてしばらくして「眩しい」. まだ夜明け前で窓の外は薄暗く,部屋の明かりはいつもの間接照明だけだった. 一応,部屋の明かりを消してみた. その数分後,静かに息を引き取られた.
 
(カット:柴田玲子)
 
 1ヵ月後,妻が病棟にしっかりとした表情でご挨拶に来られた. 「あのときの主人の言葉,わかったんです. 夫は天国に行ったんです. 重かったのは天国の石の門を主人が開けるときだったんです. 石の門を開けると向こうからまぶしい光が来たのだと思います. だから眩しいって言ったんです. 主人が天国に行ったとわかって,私は本当にホッとしました」と力強くお話しくださった. 看取りのとき,妻では聞き取れなかった本人の言葉を真剣に聞き取ろうとした私の行為は看取りの看護のひとつの行為と確信した.
 20代の女性のこともお話しよう. 彼女は肺がんの進行のため呼吸も不安定になった時期,私と一緒にベットサイドにいる夫に向かって何か言いながら首をかしげる素振りをした. 何か夫に尋ねているようだが全く声になっていないので,夫も私も見当もつかず困ってしまった. 呼吸力も弱くなりかけているこんなときに何を夫に尋ねているのだろう私も真剣だった. 会話は体力的にもう難しい・・・. 筆談や文字盤が使える集中力はすでに彼女には残っていなかった. 彼女の心に向かって「何を言おうとしているの!」と私は自分の心の中で叫んだ. 彼女の顔をじっと見つめていたら“あっ”と気がついた. 「Aさん,ご主人に私のこと愛してる?って聞いたの?」彼女は目を閉じたままゆっくり微笑むような口元をつくってしっかりと頷いた. 私はホットして夫に「だ,そうです. 奥さんの大切な質問だからちゃんと答えてあげてね. 私は部屋から出ていきますからね」と退出した. 彼女のそれが言葉での最後のコミュニケーションになった.
 私たち看護師は人の最期に立ち合わせてもらう. その時期に語られる言葉は死後の世界を生者に知らせてくれるメッセージであったり,この世でいちばん大切なことを示していたりする. 1例目の患者さんのように一見,了解不能なメッセージもあるが,深く考えると意味があることが多い.
 一般病棟で死期が近づいた人に了解不能な言動があると,せん妄と診断されるという. たとえそのような医師の診断があっても,看護をする私たちは,その人のそのときの行動や言葉に何か意味があるのではないかという視点で命を終えようとする人を見守りたい. それが最後の瞬間までその人を尊重する看護の姿勢であると思うそして多くの患者さんの終焉のときには遺族だけでなく私たちにも贈られるメッセージがある. そこにはこれから生きる者に有用なメッセージが含まれている. 貴重な場面に立ち合わせてもらう私たちはそれを今後は社会一般の人たちに伝えていかなくてはならないのではなかろうか. がん看護に携わる私たちの役割は私のなかで次々と膨らんでいく. 看取りの看護を体験されている皆さんはどう思われますか?
(元日本看護協会看護研修学校教員)
 
8巻3号(2003 May/Jun)がん看護







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