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2004/09/16 産経新聞朝刊
【主張】死刑廃止論 これが潮流とは思えない
 
 大阪教育大付属池田小で児童八人を殺し、教師を含む十五人に重軽傷を負わせた宅間守死刑囚(四〇)が十四日死刑を執行された。判決確定から約一年、通常からみれば異例の早さだが、刑事訴訟法は「死刑は判決確定から六カ月以内に執行しなければならない」(四七五条)と明記してある。この死刑執行は本来、異議を申し立てたり、抗議する対象ではない。
 ただ、池田小の被害児童の遺族にとっては、最後まで宅間死刑囚の“謝罪”のことばが聞けなかっただけに、改めて悲しみと、むなしさが襲ったであろうことは想像にかたくない。
 死刑制度の廃止を求める国会議員や、民間団体などは、宅間死刑囚の死刑執行で死刑存廃議論がたかまると予測しているようだが、果たしてそうだろうか。
 最も新しい内閣府の平成十一年九月の世論調査によると死刑廃止派は8.8%にすぎず、存続を支持する人は79.3%にのぼっている。この傾向はそれ以前の調査もほぼ同じである。最近は凶悪犯罪の多発を背景にむしろ存続派が増えるのではなかろうか。
 過去には、僧侶という立場から「宗教上の信念に基づき執行命令書に判を押すのを断る」と“職務放棄”を宣言した法相がいたこともあって平成元年十一月以来三年四カ月間死刑執行が行われなかった時期があった。
 この“空白期間”を破ったのが時の法相、後藤田正晴氏で「裁判官に重い役割を担わせているのに行政側の法相が執行しないということでは国の秩序は保てない」と死刑廃止論者やこれを支持するマスコミの抗議に対し堂々と反論した。正論だと思う。
 また死刑廃止論に関連して絶対に仮釈放のない「終身刑」を死刑の代わりにしたらとの意見があるが、この考えには賛成できない。なぜならば、絶対に出所がかなわない収容者がなにを考えるか。自暴自棄になってどんな行動にでるかわからない。
 世論の反対を押し切って死刑を廃止したフランスでは、終身刑の囚人が凶暴化したため看守の組合が看守の数を倍にしてくれなければ、自分たちの命が守れないとストライキを起こした。このことが終身刑の欠陥を十分に示唆している。
 
 
 
 
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