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私はこう考える【死刑廃止について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1993/03/07 産経新聞朝刊
【オピニオンアップ】再び死刑問題を論じる 解説委員 飯田浩史
◆予想を超す国民の関心
 死刑−この嫌な響きをもつテーマにあえて取り組んだのが昨年十月二十五日付、本紙朝刊のオピニオンアップ「死刑廃止が抱える問題」と題する拙稿。以来読者からの賛否両論および月刊誌からの原稿依頼、掲載された原稿に対する意見など筆者の予想をはるかに上回る反響があった。
 それだけ国民の間に表には出ない関心があったということもいえよう。そこで直接筆者に届いた「意見」「批判」の趣旨を紹介、あわせて筆者の意見や、新たに分かった問題点も付け加えさせていただく。
 前回のオピニオンアップに対する反響の特徴は圧倒的に拙論に反対、死刑制度の廃止を望んでいる人が多かったことだ。だがまったく個人的立場での意見はなく、宗教活動や民間の国際的人権擁護組織アムネスティ・インターナショナルの活動をしている人、あるいは「死刑に反対する教員組織」などに属する人々で、死刑制度廃止を求める主な理由は「復讐で悲しみは癒(いや)せない」との趣旨がほとんどだった。
 一方、筆者の「廃止論者には被害者・遺族に対する思いやりが希薄だ」とする趣旨に賛同、あるいは理解を示した読者の場合は、個人としての意見を披歴しており、とくに雑誌に筆者の記事が掲載された後は廃止論者からのはなく、トータルでは廃止論を上回った。
 感謝しなければならないのは、現職裁判官二人から手紙をいただいたこと、二月末現在で五十八人いると推定される死刑確定囚の動向を知り得る立場の法務省幹部から電話で貴重な意見を寄せられたことである。
◆えん罪と存廃論は別次元
 まず、裁判官からの手紙で筆者が開眼、反省させられたことは「死刑制度存続で最も困難なことは、誤判の場合取り返しがつかない。これを防ぐためには“針の先ほどの疑義があれば疑わしきは被告人の利益に、の原則に従って無罪とすべきだ”」との筆者の主張に対して「えん(冤)罪はたとえ死刑でなくてもあってはならないこと。当人にとっては死刑と同等の苦しみを与える場合もある。この究極的な人権侵害と、刑事政策上の制度的問題である死刑存廃論議を同次元で論ずるのは間違いだ」との意見である。
 死刑廃止論者が根拠の一つにあげている「えん罪の場合取り返しがつかない」との主張につい惑わされていた筆者は不明を恥じると同時に「針の先ほどの・・・」の主張は潔く撤回する。
 なぜならば「あらかじめ発生することが判っていて観察、記録の体制がとられていたわけでもない過去の事実、しかも通常隠されようとする犯罪事実を後から集めた証拠で再現しようとすれば、針の先ほどの疑義があるのはむしろ普通だ。しかもそれらの疑義がどこまで許されるのか、合理的な数値で表現することなどできそうもない」という謙虚で率直な裁判官の意見に対し、筆者の“針の先”の考え方は裁判制度そのものの否定につながると反省したからである。
 法務省幹部からの電話は「最近死刑の執行がなく、外部から死刑がなくなるらしい、との情報を得た死刑囚から“自分たちは助かるらしいが・・・”と質問を受け刑務官が答えに窮している」との指摘である。
 心からの反省と自分が手にかけた被害者への贖罪(しょくざい)の気持ちから明鏡止水の境地に到達していた死刑囚も、生への希望がわいたとたん心の落ち着きを失い、贖罪の気持ちが薄れたようだ、との見解だ。
◆刑の長期化が招く問題点
 仮に死刑が廃止された場合、現在の法制のように死刑に相当する凶悪犯に十五年程度の服役で仮釈放も可能な無期懲役でよい、と考える人はまずいまい。昨年一年間で死刑が確定した四人のうち二人までが前に幼女を乱暴して殺害したり、別れた妻と義母を殺傷して無期懲役の刑を受けながら、仮釈放になってすぐ同じような殺人を繰り返した。さらにそのうちの一人は二人を殺す凶悪犯であり、つい最近最高裁で死刑がほぼ確定(判決訂正を申し立て中)した連合赤軍事件の二被告とともに、をいかなる理由でも社会復帰させることは、被害者だけでなく国民感情としても許されまい。
 とすれば実質的な刑期を長くすることになるか、文字通り仮釈放のない無期懲役になる。こうした刑期の長期化、無期化が一九八一年に死刑を廃止したフランスでは、早期釈放の希望がない服役囚の心を荒(すさ)ませ脱獄事件や暴動が多発、死刑復活論議さえでているという。
 先の裁判官は、幸いまだ死刑の求刑は受けたが、死刑判決を下したことがないというが、凶悪事件を裁いていて感じたことは「どんな凶悪犯も、自分の死を直視した時には人間らしい心と尊厳を取り戻すようだ」という。筆者も過去の幼児誘拐殺人の犯人のケースを思い出し、けだし名言だと思う。死刑廃止と刑期の長期化を図る時には、こうした人間の尊厳についても十分考慮されねばならない。
 司法の一翼をになう日本弁護士連合会が最近刑法の口語化案を発表したが、死刑の廃止でなく適用する罪の削減を求めている。筆者も殺人、強盗殺人を除けば適用除外には賛成だ。
 
 
 
 
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