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1999/11/28 毎日新聞朝刊
死刑容認、79.3% 5年前より5.5ポイント増える−−総理府世論調査
◇オウム事件など影響?廃止要求は8.8%
 総理府は27日、死刑制度に関する世論調査の結果を発表した。死刑を容認する国民は79.3%で、廃止を求める意見は8.8%にとどまった。5年前の前回調査に比べると、死刑制度を容認する人が5.5ポイント増えており、オウム真理教のサリン事件や和歌山の毒物カレー事件をはじめ、凶悪犯罪が相次いだことが影響したとみられる。
【小林 雄志】
 調査は今年9月、全国の成人男女5000人を対象に実施した。回収率は72.0%。1956年以来、同様の調査はこれで7回目。死刑の是非に関しては、初回から5回目までと6回目以降で設問が異なり、単純に比較できないが、死刑容認派が高率で推移しているのは事実で、政府はこれを死刑制度存続の有力な根拠としてきた経緯がある。
 今回の結果を見ると、死刑について「場合によってはやむを得ない」が79.3%で、94年調査の73.8%から5.5ポイント増えた。逆に「どんな場合でも廃止すべきだ」は8.8%で、前回の13.6%から4.8ポイント減った。「分からない・一概に言えない」は前回比0.7ポイント減の11.9%だった。
 「やむを得ない」と答えた人に、その理由を複数回答で選んでもらったところ、「凶悪犯罪は命で償うべきだ」(49.3%)などが、ほぼ前回並み。「廃止すれば被害者や、その家族の気持ちがおさまらない」は48.6%と前回に比べて8.2ポイント増え、被害者の心情を重視する意識が強まっている。「凶悪な犯罪を犯す人は、また同じような犯罪を犯す危険がある」という答えも45.0%で、前回から11.1ポイント増えた。
 これに対し、「廃止すべきだ」と答えた人が挙げた理由は(1)国家であっても人を殺すことは許されない(44.3%)(2)生かして罪を償わせた方がよい(38.9%)(3)裁判に誤りがあった時に取り返しがつかない(37.3%)の順に多かった。
 ただ、死刑廃止派も、廃止の時期については見解が分かれた。「すぐに全面廃止」は42.1%で、「だんだん減らし、いずれ廃止」の52.2%を下回った。
 死刑制度が犯罪を抑止する効果について聞いたところ、死刑を廃止した場合、凶悪犯罪が「増える」と予測する人が54.4%で過半数。「一概には言えない」は32.4%、「増えない」は8.4%だった。
◇終身刑への移行を
 土本武司・帝京大法学部教授(刑事法専攻)の話 刑罰は国民の正義感情によって立つべきだ。世論は極めて重要で調査は意義がある。しかし、死刑に関しては、絶対的に廃止あるいは存置すべきだという議論はもう古い。被害者感情も満足させられる代替措置として、将来は終身刑の採用が考えられるが、まずは、死刑判決は裁判官の全員一致を必要とし、必ず控訴・上告する制度にすれば死刑判決は0件に近づき、終身刑採用に移行できるのではないか。
◇設問に問題ある
 菊田幸一・明治大法学部教授(刑事法専攻)の話 たとえば終身刑など死刑に代わる制度を導入した場合の存廃を尋ねれば、死刑を存続すべきだという回答は少なくなるはずで、設問自体に問題がある。国連人権委員会は日本政府に対し、死刑廃止に向けて世論をリードすることを求めており、政府はこれまでのように世論調査を根拠に廃止は時期尚早というのではなく、国家として人を殺さないことを明確にすべきだ。
 
 
 
 
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