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1991/07/20 毎日新聞朝刊
世界の86カ国で死刑廃止 92カ国では存続、日本は80年以降14人執行
 
 一九八九年十二月に国連総会が採択した「死刑廃止条約」が十一日、ようやく発効した。効力を持つのに必要な十カ国の批准が得られたためだ。アムネスティ・インタナショナルの調査によると、死刑を全面的もしくは事実上廃止している国は現在、八十六カ国。昨年は、民主化の波を受けた東欧など八カ国が加わった。条約発効によって国際世論は廃止に向け加速度を増すと予想されるが、一方で犯罪抑止を理由に世界の半数以上が依然、この「国が人を殺す」制度を適用しているのも事実だ。過去五年間に約八千五百人が死を宣告され、七千六百七十三人が生命を奪われた。
(外信部・根本太一)
◇11日に条約発行運動に拍車も
 死刑廃止条約は、世界人権宣言など、国連が採択した二十三本目の人権に関する宣言・条約。前文で「死刑の廃止が人間の尊厳の向上及び人権の漸進的発展に寄与する」と基本理念を掲げ、締結国は死刑廃止のためのあらゆる措置をとり、管轄内にいる何人も処刑しないと定めている。
 採決では、すでに廃止していた欧州や中南米諸国など五十九カ国が賛成し、日本、米国、中国やイスラム諸国など二十六カ国は反対。他の七十三カ国は棄権または欠席した。賛成票を投じた国は、死刑制度が犯罪抑止に効果的という説を否定している。
 アイスランド、オーストラリア、スペインなど十カ国が同条約を批准、コスタリカ、ノルウェー、ベルギーなど十二カ国が署名している。
 各国に廃止機運が高まったのは四八年の世界人権宣言以降。廃止を検討する国が徐々に増え、国連が八〇年にベネズエラで開いた「犯罪防止に関する会議」で初めて死刑問題を論じると、拍車がかかる。
 八一年五月、現職のジスカールデスタン氏を破って仏大統領に就任したミッテラン氏は「自由社会の人間が、他人の生命に対して絶対的権限を保持することを認められるのだろうか。罪人の死で犠牲者の死は償えるものなのか」と問いかけ、「私の良心に照らして、断固死刑に反対する」と宣言した。
 この時、フランスの世論調査では、廃止論者は四一%。五二%は「死刑は累犯防止の保証」「殺人鬼の人権より、被害者や遺族のことを考えるべき」などの理由で、根強く存続を求めていたが、ミッテラン大統領は世論を押し切り、議会も賛成三百六十三、反対百十七で大統領を支持。死刑の代名詞とまでいわれたギロチンの歴史にピリオドを打った。
 八九年にチャウシェスク大統領夫妻の銃殺刑を最後にルーマニアが社会主義国として初めて死刑を廃止。同年以降、チェコスロバキア、ハンガリーなど他の東欧社会主義国もこれに続き、さらに「遅れている」とされるアジアのネパール、カンボジアも“人権先進国入り”した。
 ソ連も死刑廃止条約に賛成票を投じ、廃止を検討中。米国では北部の十三州が廃止している。
 現在、全面的に廃止した国は四十四カ国。通常犯罪にのみ廃止(軍法による犯罪、または戦時のような特殊状況下の犯罪には死刑を適用)が十七。過去十年以上、通常犯罪について死刑の執行をしていない事実上の廃止国二十五。(一部植民地を含む)
 世界のほぼ半数は死刑をやめた。
 一方で、九十二カ国が依然、死刑制度に固執している。
 日本は「世論の多数はまだ死刑の存続を希望している」との理由で条約に反対した。八〇年以降の死刑執行数は計十四人。国連中心主義をとなえる一方で、国連が採択した二十三の人権に関する宣言・条約のうち、批准したのは七本。国連開発計画(UNDP)発表の「人間の自由度」では十五位にランクされている。昨年は二十二年ぶりに執行数ゼロを記録したが、五十人の死刑確定者にとって「待つ」ことに変わりない。
◇実際の処刑、膨大な数に イラクなど不明
 アムネスティ・インタナショナルが調べた死刑執行数は、アムネスティが知り得た限りの数字によるもので、情報が不十分だった共産圏や軍事政権下では政治、思想犯まで含めれば、実際の処刑数は膨大になるという。中国の天安門事件の犠牲者やカンボジアのポル・ポト政権下の虐殺の正確な数は不明。「廃止先進国」中南米でも七六―八三年のアルゼンチン軍政下に一万五千人が行方不明。イランと戦争中のイラクでは毎年数百人が死刑を執行されたとされる。
◆アムネスティ・インタナショナル
 政治囚への公正な裁判、拷問や死刑の廃止を求め、六一年に創設された国際的市民運動。言論や思想、皮膚の色などを理由に不当に捕らわれた人を「良心の囚人」とみなし、百五十カ国、四十四支部で、約百十万人がその解放を目指し活動している。七七年度ノーベル平和賞、七八年度国連人権賞受賞。本部(国際事務局)ロンドン。
 
 
 
 
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