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1987/07/28 読売新聞朝刊
「水」新時代、前途は多難 ダム完成に25年も/水資源白書(解説)
 
 首都圏では水不足が続いているが、国土庁は二十七日まとめた「日本の水資源」(水資源白書)で、わが国は「新しい水の時代」を迎えつつあると強調している。
(社会部 伊藤 哲朗)
 「米国の対日報復のあらしが一息ついたと思ったら、今度は水がないなんて・・・」。三洋電機の半導体事業本部(群馬県大泉町)の関係者はボヤくことしきりだ。
 首都圏での水不足が続く中、同事業本部では、平日の増産が思うように進まないため、土、日曜返上の生産体制に入っている。ハイテク産業を担う半導体は、洗浄などあらゆる工程で大量の水を使う。三洋の大型工場が林立する群馬県大泉町の東京製作所でも、半導体部門が使う水の量は同製作所全体(日量二万六千トン)の六五%にも達する。
 半導体の需要好転で増産しようにも、群馬県地方は渇水で工業用水も三〇%カットが実施されている。そこで、他の事業部門が休みで、断水の恐れのない土、日曜に半導体部門だけは出勤し、増産に当たっているというわけだ。
 二十七日発表した水資源白書で、国土庁は、二十一世紀に向けて「新しい水の時代」が到来すると指摘、水の多面的な価値が再認識されるようになると強調している。半導体、医薬品産業など先端産業では、発展とともに高品質で多量の水が必要になり、さらに首都圏を中心としたオフィスビルの需要増によりビル用水の使用量もこれからますます増加するとみる。一例だが、第四次全国総合開発計画(四全総)では、首都圏での新しいオフィスビルが床面積で約四千ヘクタール必要になるとしており、これだけで年間一億トンもの水需要が増える計算だ。
 しかも、ウオーターフロント構想の計画推進で、人工的なせせらぎを作るなど環境用水、親水の確保もこれからはますます重要になると予測、白書は「水と人との関係を改めて見直す時代が来た」と、水資源行政への新しい視野の必要性を強調している。
 それはそれで良いのだが、現状は、先の三洋電機の例で見るようにお寒いかぎり。
 白書では、今回の異常渇水には触れていないが、六十一年にも東海以西で渇水が発生、二百四万人が被害を受けるなど「過去十年に一回の規模の渇水が最近では四年に一回生じるようになった」と指摘。その対策として、渇水専用ダムの建設などを盛り込んだ全国総合水資源計画を現在策定中としているが、ダム建設も調査から完成まで二十五年以上かかるだけに「計画を実施に移したとしても二十一世紀に間に合うかどうか」(国土庁幹部)との本音も。
 当面、新築ビルには水の再利用をはかる中水道を義務付けるなど、積極的な都市政策が必要だろう。学校プールや公営プールが中止になる一方で、ホテルや遊園地のプールが営業するのでは「新しい水の時代」もウソ寒い。
 
 
 
 
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