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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/07/24 毎日新聞朝刊
[クローズアップ2002]ダム建設中止、手法で明暗
 
 長野県の田中康夫前知事は、二つのダムの建設中止を決定、県議会から不信任を突き付けられて失職し、再出馬して「脱ダム宣言」の信を問う。ダム建設か取りやめか。選挙は住民投票の側面さえ持っている。国から手厚い補助を受ける公共事業。だが、ダムをめぐって揺れているのは、長野だけではない。
【冨所卓也、根本太一】
◇住民も議会も猛反発−−宮城
◇知事に対し問責決議−−徳島
■筒砂子ダム(宮城)
 21日、宮城県鹿島台町の「鎌田記念ホール」。1000人以上が集まった住民説明会で、浅野史郎知事に住民が声を荒らげた。「住民の命をどう考えているのか。筒砂子ダムの建設休止は絶対に認められない」
 筒砂子は総額800億円をかけて2013年完成を目指していた治水などの多目的ダム。実施調査がほぼ終わって基礎設計に入る段階で、28億円を費やした。ところが、知事は昨年末、計画休止の方針を固めた。
 県債残高は約1兆3200億円と過去最高に達し、税収不足も財政を圧迫していた。「すでに着工している他の五つのダムの完成を優先させるため、いったんやめ、状況の好転をみてから再開するしかない」
 反発は痛烈だった。県議会は2月定例会で事業続行を採択した。長野県議会が田中前知事への不信任を決議した日の翌6日、浅野知事は自身のホームページにこう書き留めた。「ヒトゴトではないというような気がする」
■吉野川可動堰(徳島)
 公共工事をめぐる汚職事件で収賄罪に問われた円藤寿穂(としお)前知事の初公判を翌日に控えた18日、徳島県議会が大田正知事に対する問責決議案を賛成多数で可決した。吉野川可動堰(ぜき)問題を含めて「発言にブレが多く、優柔不断さが県民の利益を損ねている」が理由だった。
 円藤被告の辞任に伴う4月末の選挙で民主、共産、社民の推薦を受けて当選。可動堰の事業中止を公約通り打ち出した。可動堰は県が国に建設を要請したものの、00年の与党3党見直しで計画は「白紙」となっている。
 知事は、可動堰について「反対姿勢を変えるようなら知事でいる資格はない」と言う。
 しかし、県議会は知事野党が圧倒的で、知事は予算人事案件などの対応に追われている。国への事業中止の正式要望をいまだに行えず、「中止の意思決定は事業主体の国からすべきだ」と主張している。
◇協調模索で揺れ続け−−栃木
◇説明重ねて合意得る−−鳥取
■東大芦川、南摩ダム(栃木)
 栃木県鹿沼市を黄色のステッカーを付けた車が走る。「福田知事にイエローカード 公約を守れ」。市民団体が2月、1万枚を作成した。
 福田昭夫知事は00年11月に875票差で当選した。勝手連が支える田中・前長野県知事の選挙スタイルをまね、同市内での東大芦川と南摩の2ダム事業の全面見直しを訴えた。相手候補は共産を除く各党相乗りで5期を目指した現職だった。
 だが、「田中(前)知事のようにはやらない」と脱ダム宣言に否定的な見方を示した。昨年5月、福田知事が下した判断は、東大芦川ダムは「2年程度の結論留保」、南摩は「規模を縮小して推進」だった。市民オンブズパーソン栃木の秋元照夫事務局長は「議会に寝返った」と憤った。
 県議会はダム事業の継続を求める決議を可決し、対決姿勢を鮮明にしていた。計画から37年間の苦悩の末に建設反対から容認に転じた水没地域の住民も、継続を訴えた。下流域の水不足対策も課題だった。
 知事は、鹿沼市の隣の今市市の市長時代に「規模縮小でダム推進」を打ち出し、その後「反対」で知事選に臨んだ経緯がある。そして再び「縮小、推進」。知事の言い分は「公約は『見直し』で『中止』とは言っていない」だ。
■中部ダム(鳥取)
 ダム建設中止が受け入れられた例もある。「自民党から共産党まで、みんな賛成してくれた」。鳥取県の片山善博知事は5日、日本記者クラブの講演で、誇らしげに語った。
 片山知事が00年4月に中止したのは、計画から27年がたっている県営中部ダム。当初事業費140億円の見積もりが、見直しで230億円に跳ね上がっていた。代替案の河川改修事業ならば78億円ですむ。財政状況に加え、知事が地元説明会を開いて総額4億8000万円の補償を提示するなど約1年2カ月をかけて昨年6月に合意した。
 自民党県連の川上義博政調会長は「詳細な資料を示され合理的な説明を受けて納得した。地元の振興策も出されたから反発は収まった」と振り返る。知事は「代替案も含めて徹底した情報公開に努めた」と、県議や地元首長らへの説明責任について田中前長野知事との違いを強調した。
◇情報公開不足で紛糾−−長野
 ダム建設見直しの動きは、昨年2月の田中前長野県知事の「脱ダム宣言」以前から起きている。95年には、長良川河口堰(ぜき)問題を教訓に建設省がダム等事業審議委員会を設置。00年には、自民、公明、保守の与党3党が見直しを勧告し、国と道県が一挙に46基の中止を決めた。これまでに国も含めて計78基のダム建設の中止・休止が決定、または見込まれている。
 背景には(1)「都市住民の税金が地方に回されている」という批判が高まった(2)右肩上がりの経済を前提とした水の需要見通しに甘さがあった(3)事業の見直しで、河川改修の方が安く治水できることが分かった――などの事情があった。
 しかし、長野だけでなく4県でダム見直しが論議を呼んだようにダム建設を求める声は依然根強い。ダムには巨額の建設費による経済効果だけでなく、治水や利水といった必要性もある。議会や住民に対する説明責任を怠ると、感情的な対立にまで発展する。
 成田憲彦・駿河台大法学部長(日本政治論)は「田中前知事の方向性が間違っているとは思っていない」としたうえで、田中前知事と長野県議会の対話が行われず、不信任まで進んだことについて「政治手法が未熟だということは否定できない。政治は調整の技術。田中前知事は知事室をガラス張りにしたが、ダムについても情報公開すべきだ」と指摘した。
 
 
 
 
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