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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2001/11/26 毎日新聞朝刊
熊本県の川辺川、ダムなしで治水可能「大洪水、しのげる」−−民間報告書に注目
 
 国の熊本県・川辺川ダム計画に対し、「球磨川の治水はダムなしでも約70億円の河川改修工事で可能」とする報告書を民間研究グループが今月初めに発表し、注目を集めている。国土交通省八代工事事務所(熊本県)の防災業務計画書にも、その指摘を裏書するデータがあった。報告書の内容が正しいなら、ダムによる環境悪化を避け、古里の景観もほとんど壊さず膨大な公費節約ができる。ダム着工への最終関門となる漁業補償案の審議の場、球磨川漁協総会は28日に迫っている。
【福岡賢正】
◇わずか70億円の河川改修で十分
 急流下りで知られる球磨川。川辺川はその最大の支流だ。98年度には環境庁(省)が「水質日本一」に認定した。体長30センチを超えるアユも多い。それだけにダム計画はまず、川の水質悪化、水温低下、瀬と淵(ふち)の消失、河口干潟の浸食などをもたらす――として、反対の声にさらされた。
 また治水・かんがい・発電に大別されるダムの目的も、発電はダム湖に沈む発電所の合計出力を補う程度で、かんがいは受益農家が「水は足りている」と主張しているため、計画の根拠は治水だけになっていた。
 それを揺さぶったのが今回の報告書だ。まとめたのは学者、技術者、市民らでつくる川辺川研究会。これまでかんがい事業なども検証している。
 報告書は「現行の河川改修計画に部分的な堤防のかさ上げなどを加えれば、ダムを造らないまま国が球磨川治水の目標とする80年に1度の大洪水をしのげる」と結論づけた。この結論は、国の公表資料だけに基づいて治水を洗い直したものだけに衝撃的だった。
 しかも追加工費の見積もりは、川辺川が球磨川に合流する人吉市周辺の堤防の1メートルかさ上げに約20億円、中流域の宅地や堤防を1〜2.5メートルかさ上げするのに約50億円の計約70億円。
 ダム建設に伴う道路の付け替えなどに既に費やされた1614億円と、ダム本体完成までに必要な1036億円の計2650億円と比べ、ごくわずかな投資で済む。
◇防災計画書で国も裏付ける
 また、治水対策地区の人口や資産の9割近くが集まる下流の八代市周辺は、国が安全に流れるとする毎秒7000立方メートルを超す水が流れた82年の洪水でも、水位は堤防より2.62メートル低かった。これまでに行われた改修の成果だ。そのため報告書は「80年に1度の大洪水を流せる流下能力が八代では既に備わっており、堤防強化以外は不要」とした。これに対して国は、八代の治水が数十億円の工事で対応できることを認めたものの、「流下能力の計算には川幅が狭くなったり、障害物で流れがせき上げられたりする不等流への考慮が不可欠。報告書はそれをしていない」と反論した。
 だが、実は報告書には不等流対策への言及もある。「洪水時に水位上昇の著しかった場所を部分的に掘削すれば対応できる」というのだ。また、人吉の宅地の多くは高い場所にあり、越流しても堤防決壊や家屋流失の恐れは少ない。このため報告書は「堤防の余裕高は市民の選択にゆだね、水害に強い街づくりを官民一体で進める」ことも提案している。
 ダム建設の是非を巡って、国と報告書の主張は対立しているが、国交省八代工事事務所が毎年発行している「防災業務計画書」に研究会の主張を裏付ける計算式が載っていることが判明した。
 H‐Q式と呼ばれ、水位(H)と流量(Q)の実測値から両者の関係を求めて二次関数にしたもの。時々刻々水かさが増して流量を測定できない大水時に、水位から流量を推定することができる。その98年度版の人吉と八代の式をもとに、80年に1度の大洪水で流れると国が主張する流量からその時の水位を逆算すると、八代は現状の堤防に十分の余裕があり、人吉も現在の堤防を1.1メートルかさ上げすればよいことが導き出される。
◇国の補償案巡り、28日に漁協総会
 熊本県も、ダム湖に水没する五木、相良両村もダムの本体着工に同意しており、ダム建設で侵害される法的権利を持ちながら、まだ着工に同意していないのは漁業権者の球磨川漁協だけだ。
 国交省は昨年9月に漁業権も含めた強制収用の手続きに着手している。ただ、漁協との話し合い解決を望む県知事の意向もあり、国の補償案を受け入れるかどうかを決める漁協の総会の行方が注目されている。
◇新しい方向性出した−−高橋・東大名誉教授
 岐阜県・長良川河口堰(ぜき)計画などで国側の理論的支柱となってきた河川工学の最高権威、高橋裕・東京大学名誉教授は、川辺川研究会が公表した報告書について「将来の治水計画の方向性を示す内容」と評価した。毎日新聞の取材に対する主な発言は次の通り。
 「河川法が改正されるなど、河川行政は大きな曲がり角にあるが、現に進んでいる計画は急には変えられない。この報告書は下流の八代、上流の人吉、中流部と分けてダムとの関係を洗い直しながら河川計画を再検討するという従来なかった視点を示したことで、計画を変えるための方向性を出した。新しい河川法自体がそれを求めている。これからの治水は流域の都市計画や街づくりと結びつけないといけない」
 「(大水時に水位が極端に高くなった場所の)部分的な掘削の効果は河川のベテランなら知っている。ただ数式化しにくいため、治水計画には取り込んでこなかったが、それではダメだと報告書は指摘したのだと理解する。これも新しい方向への重要な視点だ」
◇川辺川ダム
 熊本県相良村に建設予定のアーチ式ダム。計画発表は1966年。貯水量1億3300万トンで、同県五木村の中心部など391ヘクタールが水没する。
 
 
 
 
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