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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1994/07/21 毎日新聞朝刊
[社説]長良川訴訟 環境保護に理解の浅い判決
 
 長良川河口堰(ぜき)の建設に反対し、流域住民が水資源開発公団を相手に、工事着工前の一九八二年、岐阜地裁に提訴していた工事差し止め訴訟に二十日、「差し止め請求棄却」の判決が出された。
 河口堰自体は四月にほぼ完成している。すでに水門を閉じ、水をためる湛水(たんすい)試験も行われた後での「差し止め棄却」の判決は時期はずれも甚だしい。仮に「工事差し止め」の判決が出されていたとしたら、一体どうするのか。
 米国ではダム建設反対の市民たちが、行政訴訟にしばしば勝訴して自然保護運動を前進させた。日本では行政の施策の違法性を訴えても「訴えの利益なし」とされて実らないのが実情である。従ってこの訴訟は地域住民二十人の人格権と環境権の侵害に対する民事訴訟の形をとらざるを得なかった。行政と市民の民主的な関係の深浅の度合いを物語る日米社会の落差であろう。
 判決は植生を復元し、魚道を設けることで「環境への重大な影響は避けられる」とし「河口堰は公共の利益をもたらす」と判断している。このような内容の判決に至るまでに、提訴から十二年間も費やしていることにも疑問を感じる。裏を返せば、数々の問題提起に対し、被告の水資源開発公団側の反証が十分な水準になかったからではないか。
 実際、水資源開発公団が環境影響評価の判断材料とした「木曽三川河口資源調査」の内容には欠けている部分が多い。九一年に行われた追加調査でも水管理の安全性や洪水、高潮など災害への対策面で十分な証明がなされているとは言い難い。
 さらに、被告の水資源開発公団、建設省は、裁判に手間取っている間に環境影響評価をやり直し、追加しながら同時に河口堰工事を進めてきた。
 環境影響評価とは、工事の変更、中止を含む「事前調査」である。工事を続けながら影響評価を同時に行うというのは強引な“工事ありき”の態度にほかならない。環境影響評価の常識に反する行為であることを、判決で指摘してほしかった。
 判決が指摘した河口堰による治水、利水の公共の利益もさることながら、本流にダムを持たない最後の自然河川・長良川の生態系を評価し、科学では計量することができない優れた自然景観を維持することも公共の利益である。
 流域住民がこの訴訟で人格権、環境権を主張した背景には、景観のように数字や科学で評価し切れない自然環境の文化的な価値を大切に守っていこうとする気概がうかがえる。だが、判決がよって立つ「法律と科学」は、残念ながら環境のもつ広く深い意味をとらえ切ることができない。「長良川河口堰建設をやめさせる市民会議」などの批判に応え、建設省は調査委員会をつくり、流域住民や市民組織、地元自治体と河口堰がもたらす環境・安全面の問題点を一年がかりで検討する。
 「循環」「共生」「参加」を柱に、十二月に閣議決定される「環境基本計画」がめざす環境保全型社会のルールに照らし、恥じることのないよう、徹底した調査と検討を望みたい。その際に判決が被告側に安全性の立証と環境影響評価を義務づけている点を評価し、強調しておきたい。
 河口堰そのものは出来たが、利水のための取水口と導水管の工事は未着工である。長良川河口堰問題に決着をつけるのはこれからである。
 
 
 
 
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