2003/08/20 朝日新聞朝刊
委員会を無駄にするな 淀川のダム(社説)
住民に意見を求めておきながら、それとは反対の方針を押し通そうとする。これが国土交通省のやり方なのか。
国交省は琵琶湖・淀川水系の河川整備計画に、住民や専門家の意見を反映させようと、第三者による委員会を設けた。その淀川水系流域委員会は今年初め、計画中や周辺工事などが始まっているものも含めて「ダムは原則として建設しない」という提言をまとめた。
ところがその後、国交省は淀川水系の五つのダムについて、「水の需要を見直すなどし、事業の調査・検討をする」としながらも、「現段階では建設が有効」とする文書を委員会に示した。
これでは、委員が反発するのは当たり前だ。国交省は今秋にも整備計画の原案をつくる。もし、このまま提言が生かされなければ、「何のために委員会をつくったのか」という不信感は一層高まるだろう。
委員会は提言で、流域の自然環境を守るよう求めた。すると、国交省は「琵琶湖の生態系に悪影響を及ぼしている水位低下は、ダムによって抑制できる」と言い出した。治水や利水に加え、あとからダムの目的を付け加えたのだ。
5ダムでは本体工事に先立つ周辺道路整備などに、これまで計約1900億円の事業費がつぎ込まれている。だから今さらダムはやめられない、ということだろう。
長崎・諌早湾干拓、熊本・川辺川ダム、徳島・吉野川可動堰(ぜき)・・・。その必要性に疑問が出されながら、止まらない公共事業が多い。国交省が2年前に淀川委員会をつくった背景には、こうした公共事業に対する批判の高まりがあった。
委員会は、これまでに全体会合や部会の会合を計100回以上開き、公開の場でさまざまな議論を重ねてきた。
提言は、ダム建設が許されるのは、他に有効な代替案がないことが客観的に認められ、しかも住民の合意が得られた場合に限る、と厳しい枠をはめた。
この原則が満たされない場合は、たとえ事業中のダムであっても中止するという基本姿勢を国交省は明確にすべきだ。
国交省がただ「聞き置く」という姿勢をとるのでは、せっかくの提言も生きない。委員会の意見が整備計画に反映されたかどうかを検証する仕組みも必要だ。
提言が出た後、ダム予定地では「先祖代々の土地を明け渡したのに」と住民集会を開いて「早期完成」を決議したところもある。一方で、「計画が出て20年たっても、意見が割れる。ダムは本当に必要なのだろうか」という住民の声も聞かれる。
委員会は、こうした住民の不安に応えるため、ダム建設に頼らなくても地域が自立できるように「地域自立支援法」といった社会的、財政的な支援措置も必要ではないか、という議論を始めている。
国交省は提言を尊重すべきである。
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