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文化芸術の振興に関する基本的な方針(平成十四年十二月十日閣議決定)抜粋
まえがき
 平成13年12月、文化芸術振興基本法(平成13年法律第148号)(以下「基本法」と言う。)が施行された。
 この基本方針は、基本法第7条第1項の規定に基づき、今後おおむね5年間を見通し、文化芸術の振興に関する施策の総合的な推進を図るために定めるものである。
 本基本方針の第1においては、文化芸術の振興の基本的方向として、文化芸術の振興における国の役割を明らかにするとともに、特に重視すべき方向性と留意すべき事項について定めている。第2においては、第1の基本的方向を踏まえて講ずべき基本的施策について定めている。
 なお、本基本方針は、諸情勢の変化や、施策の効果に関する評価を踏まえ、柔軟かつ適切に見直しを行うこととする。
 
第1 文化芸術の振興の基本的方向
1. 文化芸術の振興の必要性
 文化は、最も広くとらえると、人間が自然とのかかわりや風土の中で生まれ、育ち、身に付けていく立ち居振る舞いや、衣食住をはじめとする暮らし、生活様式、価値観など、およそ人間と人間の生活にかかわることのすべてのことを意味するが、文化を「人間が理想を実現していくための精神活動及びその成果」という側面からとらえると、その意義については、次のように整理することができる。
(1)人間が人間らしく生きるための糧、(2)共に生きる社会の基盤の形成、(3)質の高い経済活動の実現、(4)人類の真の発展への貢献、(5)世界平和の礎
 このような文化の意義にかんがみると、文化の中核を成す芸術、メディア芸術、伝統芸能、芸能、生活文化、国民娯楽、出版物、文化財などの文化芸術は、芸術家や文化芸術団体、また、一部の愛好者だけのものではなく、すべての国民が真にゆとりと潤いの実感できる心豊かな生活を実現していく上で不可欠なものであり、この意味において、文化芸術は国民全体の社会的財産であると言える。
 したがって、個人、民間企業・団体等、地方公共団体、国などそれぞれが、自らが文化芸術の担い手であることを認識し、相互に連携協力して、社会全体で文化芸術の振興を図っていく必要がある。
 
2. 文化芸術の振興における国の役割等
(1)国の役割
 文化芸術活動は、国民がこれを通じて創造性を発揮し、培い、個性を伸長し、自らの啓発を図ろうとする自発的、自主的な営みであり、文化芸術の享受もまた、国民自らに帰するものである。
 この点を踏まえ、文化芸術の振興における国の役割は、文化芸術活動の主体である国民の自発的な活動を刺激し、伸長させるとともに、国民すべてが文化芸術を享受し得るための諸条件を整えることを基本とするものである。
 このため、国は、自ら諸条件の整備を図るとともに、地方公共団体の取組を促進し、また、個人や団体の活動としての限りがあるところに必要な手を差し伸べることなどにより、全体として文化芸術の振興が図られるよう所要の措置を講じていく必要がある。
 このことを前提としつつ、国の役割を整理すると、「文化芸術の頂点の伸長」と、「文化芸術の裾野の拡大」を基本とし、「文化遺産の保存と活用」、「文化芸術の国際交流」及びそれらを支える「文化基盤の整備」に集約される。
 このような取組を推進することにより、新たな文化芸術が創造され、それが将来的に我が国の顔として、世界に親しまれる文化芸術となり、世界の文化の発展に資するよう努めていく。
 
(2)重視すべき方向
 上記(1)の国の役割を踏まえ、将来の我が国の顔となる文化芸術を創造していくため、次の事項を重視して、取り組んでいく。
i)文化芸術に関する教育、ii)国語、iii)文化遺産、iv)文化発信、v)文化芸術に関する財政措置及び税制措置
 
(3)地方公共団体及び民間の役割
 地方公共団体は、自主的かつ主体的に、国との連携を図りつつ、それぞれの地域の特性に応じて、多様で特色ある文化芸術を振興し、地域住民の文化芸術活動を推進する役割を担っている。
 地方公共団体が、文化芸術の振興を図るに際しては、それぞれの文化芸術の振興のための基本的な方針等に基づき施策を進めることや、広域的な視点から、各地方公共団体が連携して文化芸術の振興に取り組むことが望まれる。
 
3. 文化芸術の振興に当たっての基本理念
 文化芸術の振興に当たっては、基本法第2条に掲げられた次の八つの基本理念にのっとり、施策を総合的に策定し、実施する。
(1)文化芸術活動を行う者の自主性の尊重
(2)文化芸術活動を行う者の創造性の尊重及び地位の向上
(3)文化芸術を鑑賞、参加、創造することができる環境の整備
(4)我が国及び世界の文化芸術の発展
(5)多様な文化芸術の保護及び発展
(6)各地域の特色ある文化芸術の発展
 各地域において人々の日常生活の中ではぐくまれてきた多様で特色ある文化芸術が我が国の文化芸術の基盤を形成していることにかんがみ、地域の人々により主体的に文化芸術活動が行われるよう配慮するとともに、各地域の歴史、風土等を反映した特色ある文化芸術の発展を図る。
(7)我が国の文化芸術の世界への発信
(8)国民の意見の反映
 
4. 文化芸術の振興に当たって留意すべき事項
 文化芸術の振興のための施策を講ずるに当たっては、各施策の枠を越え、横断的に以下の事項に留意して、取り組む。
(1)芸術家等の地位向上のための条件整備
(2)国民の意見等の把握、反映のための体制の整備
(3)支援及び評価の充実
(4)関係機関等の連携・協力
 文化芸術の振興に関する施策を推進するに当たっては、関係府省間の密接な連携・協力体制を整備し、総合的かつ一体的な推進を図る。
 また、関係機関、地方公共団体、関係団体等との連携を深め、効果的に施策を推進していく。
 
第2 文化芸術の振興に関する基本的施策
1. 各分野の文化芸術の振興
(3)伝統芸能の継承及び発展
 我が国古来の伝統芸能は、長い歴史と伝統の中から生まれ、守り伝えられてきた国民の財産であり、将来にわたって確実に継承され、発展を図っていく必要があることから、次の施策を講ずる。
・伝統芸能が有する歴史的・文化的価値の理解・普及を図るとともに、公演等への支援を行う。その際、我が国の文化芸術の向上の牽引力となる実演家団体が実施する国内外の公演活動に対する支援を重視するとともに、伝統的な音階や技法を用いた新作公演活動の展開も図られるように配慮する。
・国立劇場、国立能楽堂及び国立文楽劇場における公演や、各地域における普及のための公演を推進する。
・伝統芸能の所作や楽器に触れる体験をする機会の提供を通じて、伝統芸能に親しむ人々の拡大を図る。特に、子どもたちが伝統芸能を身近に親しむことができる機会の充実を図る。
・伝統芸能の表現に欠くことのできない用具等の製作・修理等に必要な伝統的な技術の継承及び原材料の確保を図る。
・ユネスコ(国連教育科学文化機関)の「人類の口承及び無形遺産の傑作宣言」を通じて、世界的にたぐいのない価値を有する我が国の伝統芸能を世界に発信する。(4)芸能の振興
・「文化芸術創造プラン」による芸能の創造活動への重点的な支援や、関係団体の育成などを図る。
・広く国民に芸能が親しまれるようにするため、幅広い活動に対して、「芸術文化振興基金」などによる助成を行う。
 
2. 文化財等の保存及び活用
 文化財は、我が国の歴史の営みの中で自然や風土、社会や生活を反映して伝承され発展してきたものであり、人々の情感と精神活動の豊かな軌跡を成すとともに、現代の我が国の文化を形成する基層となっている。今日の社会構造や国民の意識の変化等を踏まえ、新たな課題にも積極的に対応することが求められていることから、次の施策を講ずる。
・建造物・史跡等の文化財の周辺環境や文化的景観、近代の科学・産業遺産、生活用具等の歴史的な価値を有する我が国の文化的な所産などの保存・活用方策について検討を進める。
・生活、教養、嗜好等に関する技能・技術に関し、特に、消失のおそれのある民俗技術について重点的に調査や記録作成の措置を進めるとともに、その特性や実態に応じた保護方策について検討する。
・有形文化財(有形民俗文化財を含む)について、その種別や特性に応じて計画的に保存・修復を進める。また、保存施設等の整備、建造物の安全性の向上、防火安全対策、伝統的建造物群保存地区をはじめ文化財集中地域等における総合的な防災対策の検討など、防災対策の充実を図る。その際、科学的な調査研究の成果を生かした取組を推進する。
・無形文化財(無形民俗文化財を含む)について、伝承者の確保・養成や、用具の製作・修理など、保存伝承のための基盤の充実を図るとともに、記録映像等の活用を図る。
・伝統的な様式表現を伴う身体文化について、適切に保存及び活用を図る。
・文化財の保存技術について、選定保存技術制度の活用等により、その保存を図る。
・「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」に従い、地方公共団体等と連携して、我が国の文化遺産の登録推薦を進めるとともに、登録後の文化遺産の適切な保存を図る。
・国民が文化財を理解し、親しむ機会の充実を図るため、文化財の特性や保存に配慮しつつ、情報通信技術や様々な映像技術など多様な手法も用いて、公開、活用を推進する。特に、史跡等については、必要に応じて史実に基づいた復元等の整備を行うことにより、国民に分かりやすい形での公開を促進する。
・子どもたちが、学校や地域において継続的に文化財を学習、体験できる機会の充実を図る。
・文化財の保存及び活用に当たり、地方公共団体、大学、専門的機関、NPO(民間非営利組織)・NGO(非政府組織)などの民間団体の活動や、文化ボランティア等の自主的、主体的な活動との適切な連携協力を促進する。
・独立行政法人文化財研究所が、科学的・技術的な調査研究に基づく保存修復において我が国の中心的な役割を果たすことができるように、その充実を図るとともに、同研究所や大学等における文化財の保存修復等に関する研究水準の向上及び人材の養成に努める。
 
3. 地域における文化芸術の振興
 地域における多様な文化芸術の興隆は、我が国の文化芸術が発展する源泉となるものである。全国各地において、国民が生涯を通じて身近に文化芸術に接し、個性豊かな文化芸術活動を活発に行うことができる環境の整備を図る必要があることから、次の施策を講ずる。
・地域住民の文化芸術活動への参加を促進するための機会や、各地域における公演・展示等への支援を行う。
・都市と農山漁村の共生・対流の推進の視点も踏まえつつ、各地域の歴史等に根ざした個性豊かな祭礼行事、民俗芸能、伝統工芸等の伝統文化に関する活動の継承・発展や、生活・生業に関連して形成された文化的景観の保護を図る。
・地域の特色ある文化芸術や、豊かな自然を生かしたまちづくりなど地域に根ざした文化芸術活動を促進する。
・地域の文化芸術活動の指導者や地域の文化芸術団体の育成を図るとともに、地域間の文化芸術の交流を促進する。
・「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(平成9年法律第52号)に基づいて、アイヌ文化の振興を図るとともに、アイヌ文化の伝統等に関する知識の普及及び啓発を図る。
 
4. 国際交流等の推進
5. 芸術家等の養成及び確保等
6. 国語の正しい理解
7. 日本語教育の普及及び充実
8. 著作権等の保護及び利用
9. 国民の文化芸術活動の充実
10. 文化施設の充実等
(1)劇場、音楽堂等の充実
(2)美術館、博物館、図書館等の充実
(3)地域における文化芸術活動の場の充実
 国民が身近に、かつ、気軽に文化芸術活動を行うことができる場の充実を図るため、次の施策を講ずる。
・各地域の文化施設や公民館等の社会教育施設について、地域の芸術家、文化芸術団体、住民等が円滑に利用しやすい運営を促進する。
・学校施設については、学校教育に支障のない限り学校教育以外の利用が認められていることや、学校教育に利用される見込みのない余裕教室や廃校施設については、様々な用途への転用が可能となっていることを踏まえ、地域の芸術家、文化芸術団体、住民等の公演・展示や練習の場として、また、文化芸術作品等の保存場所としての利用を促進する。
・学校や、文化施設以外の施設など様々な場について、地域の芸術家、文化芸術団体、住民等による文化芸術活動での幅広い利用を促進する。
(4)公共の建物等の建築に当たっての配慮
 
11. その他の基盤の整備等
(1)情報通信技術の活用の推進
(2)地方公共団体及び民間の団体等への情報提供等
 地方公共団体、芸術家等、文化芸術団体、NPO、NGO、文化ボランティア等が行う文化芸術の振興のための取組を促進するため、次の施策を講ずる。
・国内外の文化芸術に関する各種の情報や資料、特色ある取組事例等を積極的に収集し、提供する。
・国内外の文化芸術関係者等が、国の文化芸術の振興に関する施策の内容や、国内外の文化芸術に関する各種の情報、専門的知識等を把握することができるよう、情報通信技術など様々な方法を活用して、積極的に提供していくとともに、相談、助言等の窓口機能の整備を図る。
・地方公共団体、芸術情報プラザなどの文化芸術団体等による情報提供のための取組を促進する。
(3)民間の支援活動の活性化等
(4)関係機関等の連携等
(5)顕彰
(6)政策形成への民意の反映等
 
「文化を基調とした地域再生に関する研究会」設置要綱
1 趣旨
 景気の低迷や、過疎化の進行等により地域社会が崩壊の危機に直面しているなか、特色ある伝統文化の保全・継承等により地域の活性化を図っている事例がある。この研究会では、具体的な事例等も踏まえ「文化」を基調とした地域再生の手法について調査・研究を行う。
 
2 名称
 本研究会の名称は、「文化を基調とした地域再生に関する研究会」(以下、「研究会」という。)とする。
 
3 調査研究内容
 平成11年度から実施されてきた地域伝統芸術等保存事業について、これまでの評価と今後に向けた考え方を整理するとともに、地方公共団体における地域伝統芸能等の保存・継承、振興の取り組みや、全国各地の地域の祭礼、伝統行事等について調査・研究を行う。
 また、調査結果をもとに意見交換を行い、文化を基調とした地域再生手法の推奨事例の選定や今後の取組に関する提案を行う。
 
4 構成等
(1)研究会の構成員は、別紙「委員名簿」のとおりとする。
(2)研究会に座長1名を置き、委員の互選によりこれを定める。
(3)座長は、会務を総理する。
(4)研究会の会議は、必要に応じ、座長が招集する。
 
5 その他
(1)平成15年8月11日に発足し、年度内にとりまとめを行う。
(2)研究会の庶務は、財団法人自治総合センターにおいて処理する。
(3)この要綱に定めるもののほか、研究会の運営、その他研究会に関し必要な事項は、座長が定める。







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