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4 カウンシルタックスの地域間格差
 税収の地域格差については、表2のバンドHを見ると、ロンドンが5万3,000戸(1.7%)、サリーやケントといった保守党が非常に強く、富裕層が多く居住しているイングランド南東部では3万戸(0.9%)と、評価額の高い資産が多く、反面、ニューカッスルに代表される北東部はバンドAの4万ポンド以下の評価額の低い資産が59%を占めているという状況(ロンドンでは3.5%)にあり、地域によって極端なバラツキがあり、このことが後述の財政制度にも非常に大きな影響を与えている。
 
表2 イングランド各地域におけるカウンシルタックス価格帯別課税資産数
(単位:千戸)
Local Government Financial Statistics England 2002」(副首相府)
 
 税額の決定方式については、税収額なり税額というのは、各自治体の歳出予算によって決定されるものであり、具体的には、各自治体の歳出希望額から、国から交付される歳入援助交付金(レベニュー・サポート・グラント、RSG)、前述の国から人口割で配分される事業用レイト及び国からの補助金を合計した依存財源を引いた残額をカウンシルタックスで賄うこととされている。
 このため、国からの依存財源が一定であるとすれば、歳出を増加させればカウンシルタックスによる税収を増加させないと予算を組むことができないというシステムになっている。
 このことから、ロンドンの近郊の自治体といった富裕な地域の自治体においては、当該団体の予算に占めるカウンシルタックスの割合が高く、仮に100の予算のうち20をカウンシルタックスで賄っているとし、一方、イングランド北東部といった貧困な地域においては、カウンシルタックスで10しか賄っていないとし、この両者が予算を100から110に上げるとすると、単純に言えば、引上げ分は全てカウンシルタックスによることとなるため、北東部は、カウンシルタックスを10から20へ2倍としなければならないのに対し、ロンドン近郊では、20から30への1.5倍で足りるということで、伸び率が大きく異なることとなる。このようにカウンシルタックスの歳入に占める割合が低ければ低いほど、予算を引き上げたときのカウンシルタックスの増加率が高くなることをギア効果(gearing effect)という。
 
5 イギリスの地方税財政制度
 我が国の地方財政対策に類するものがイギリスにも存在しており、それを含めてイギリスの税財政制度を見ると概ね次のとおりである。
 まず、事業用レイトは人口割で決定され、補助金はそれぞれ実施する事業の必要性に応じて決まることから、これらを所与のものと仮定する。RSG(歳入援助交付金)の決定方式については、
 
[RSG=標準支出査定額(SSA)−事業用レイト−標準カウンシルタックス税額(CTSS)×課税資産数]
 
となり、SSAが日本の地方交付税における基準財政需要額に相当するものであるが、このCTSSについては、
 
 
とされている。このTSSは標準支出総額であり、日本における地方財政計画の歳出総額類似のものであり、TSSから国からの依存財源の総額を差し引いた残額をカウンシルタックスで賄うという考え方から、その残額を全国の課税資産数で除したものがCTSSである。また、この全国の課説資産数は全ての資産がDバンドに属するという前提で算定されている。(なお、これらのSSA、CTSS、TSSという用語は保守党が生んだものであり、労働党政権への移行に伴い、03年からFSS、ANCT、TASと名称が変更されているが、以下、便宜上従来の用語を用いる。)
 SSAの総額は、2002年度まで抑制基調にあった。表3を見ると、97年度はSSAの総額が430億ポンドであり、地方団体の実際の支出総額(NRE)が450億ポンドで、その乖離はそれほど大きくはなかったが、これが近年拡大しており、02年度では40億ポンドに至っている。これにより、地方自治体が実際にカウンシルタックスに依存する割合が大きくなっていることから、CTSSと実際の地方自治体の課税額も大きく乖離している。
 
表3 SSAと地方団体の実際の支出総額(Net Revenue Expenditure, NRE)の推移
(単位:百万ポンド)
  1997年度 1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度
SSA 43,716 46,049 48,238 50,317 52,590 53,570
NRE 45,430 47,855 50,730 52,658 55,839 57,634
NRE-SSA 1,714 1,806 2,492 2,341 3,249 4,064
「Local Government Financial Statistics England 2002」(副首相府)より作成
(注)2001年度及び2002年度のNREの数値は予算額。
 
 表4において、97年度にCTSS、国が標準と考えるカウンシルタックスの税額が591ポンドであったところ、その時点で既に地方自治体の平均課税額は688ポンドであり、すなわちCTSSを上回って課税しないと歳出が賄えない状況にあったが、これが02年度には、CTSSが769ポンド、平均課税額が976ポンドと、200ポンド以上の差となり、乖離が大幅に拡大した。
 
表4 CTSSとカウンシルタックス平均課税額の推移の推移(単位:ポンド)
  1997年度 1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度
CTSS(a) 591 635 665 696 731 769 1,037
平均課税額(b) 688 748 798 847 901 976 1,102
(b)-(a) 97 113 133 151 170 207 65
 
 この乖離を解消するための労働党政権の対応策を図示したものが、図1である。aからの線がNRE、一方、bからの線のSSAは、それよりも低い伸びであったものであり、このため、aとbの乖離が拡大し、02年度で40億ポンド(アとイの差)となっている。最も単純にこの乖離を埋めるためには、RSGの総額を一気に40億ポンド増額することが考えられるが、実際上困難であり、現実には、CTSSについて、02年度で769ポンドであったのものを、03年度に1,037ポンドに引き上げることとされた。これほどのCTSSの引上げは、これまでなく、図1においても、毎年少しずつ引き上げられていたものが、今回一気に引き上げられたものであることを、ウからキの急な傾きによって示している。2003年度の平均課税額は、1,102ポンドであったが、このCTSSの引き上げにより、両者の乖離は65ポンドに縮小したところである。
 
図1
 
 この結果、カウンシルタックスの税額は、表5のとおり、上昇することとなった。リバプール市は従来から、カウンシルタックスのウェイトが高かったので、このCTSSが上がってもそれほど影響はなく3.9%の上昇にとどまったものであるが、ワンズワース区は極めてカウンシルタックスのウェイトが低かったことから、CTSSの大幅な引上げに伴い、RSGが大幅に減少し、その減少分を全てカウンシルタックスで穴埋めするため、5割近い増という大幅な増税となっている。
 このように、国のマクロでの地方財政の運営が変化すると、それに伴い、地方税(カウンシルタックス)の負担が大きく変動するものであり、ワンズワース区は極端な例としても、わが国においては、歳出総額から地方税等を差し引いた不足額が地方交付税で措置されていることとは、基本的発想が異なるものといえる。
 
表5 カウンシルタックス上昇の実際の例
価格帯(バンド)  リバプール市(3.9%の伸び) ワンズワース区(45.5%の伸び)
2002年度 2003年度 2002年度 2003年度
A £757.59 £787.24 £265.59 £386.51
B £883.85 £918.46 £309.85 £450.93
C £1,010.13 £1,049.66 £354.11 £515.35
D £1,136.39 £1,180.87 £398.38 £579.77
E £1,388.93 £1,443.28 £486.91 £708.61
F £1,641.45 £1,705.70 £575.43 £837.44
G £1,893.98 £1,968.11 £663.96 £966.28
H £2,272.78 £2,361.74 £796.76 £1,159.54







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