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イングランドのカウンシルタックス
―税としての特徴と財政制度における特質―
前在英国日本国大使館一等書記官 溝口 洋
1 はじめに
 カウンシルタックスは、イギリスにおける唯一の地方税であり、イングランド、また、スコットランド、ウェールズにおいても、同じ制度のカウンシルタックスが実施されている。カウンシルタックスの前身はコミュニティー・チャージ(人頭税)であり、それが廃止され、93年から施行されている。これ以外の地方税は一切存在せず、従来からイギリスの地方税の税目は1種類というのが伝統になっている。
 イギリスは地方自治が非常に進んでいるというイメージで捉えられているが、実際は全く異なっており、イギリスほど中央集権的で、国民が地方自治というものに注目していない国というのはあまりないのではないかというのが3年間滞在した実感である。地方税がカウンシルタックスしかなく、また、そのカウンシルタックスの税収も少ないことも、このことに潜在的に影響しているのではないかと思われる。
 地方自治に関しては、統一地方選挙という形で毎年行われる地方選挙は注目されるが、それは地方自治体のパフォーマンスを評価する場ということよりも、むしろロンドンの中央政府のパフォーマンスを評価する場、ブレアが行っていることに問題があるから、労働党が支配している議会の自治体に反対票を投じるといった場として、注目されているものと思われる。
 すなわち、イギリスにおいて地方自治が発達しているとか、国民が地方自治に対して重大な関心を持っているというのは若干誤った見方と言える。スコットランドとかウェールズといった地域となると話は別であるが、例えばイングランドにおいて、個別の地方自治体にどれだけ住民が関心を持っているかといえば、あまり関心は高くないのが実態ではないかと考えられる。
 
2 事業用レイトの国税化
 カウンシルタックスの創設に至る経緯を敷衍すれば、まず、90年に事業用レイトが国税化された。従来、イギリスにはレイトという地方税があり、これが居住用の資産に対するドメスティックレイトと、事業用の資産に対するノン・ドメスティックに分かれており、これらが併せてレイトという1つの地方税であったが、居住用レイトについて、実際に家を占有、使用しているにもかかわらず、レイトを負担している割合が少ないということを保守党が問題視し、人が住んでいる以上きちんと税金を払うべきであるということから、これに代わってある意味乱暴ともいえるコミュニティ・チャージ(人頭税)がサッチャー政権により導入された。
 コミュニティ・チャージは、イングランドでは90年から、スコットランドでは1年早い89年から導入され、このため、スコットランドでは1年早く大問題となったものであるが、その際、地方税であった事業用レイトの国税化が併せて行われた。これは、サッチャー保守党政権から見ると、地方自治体というのは歳出をとめどもなく増大させていくものであり、その財源について、選挙権のない納税者である法人に対して安易に事業用レイトの増税という形で押しつけていくことが問題とされ、国税として国が一律に課税することとし、実際の税の徴収は地方自治体が行い、それを国にプールし、人口割で各地方自治体に配分するというものである。
 現在の労働党政権は、保守党よりは地方自治に理解があると言える政権ではあるが、この事業用レイトを再び地方税に戻すといった議論は全く見られない。唯一、最近の取組みとしては、ビジネス界と地方自治体が一緒にビジネス環境を整えて行くといったプロジェクトを行う場合には、それに要する財源に充当するため、事業用レイトの引上げを行い、引上げ分は国に納めることなく、当該地方団体が直接収納できるという仕組み(ビジネス・インプルーブメント・ディストリクト)を作ることとし、そのための法案が、現在、議会で審議されている。早晩、この法案が成立し、そういった制度ができるものと思われるが、これを除けば、カウンシルタックスが唯一の地方税であり、事業用レイトが国税であるという状況に変化はない。
 
3 カウンシルタックスの概要
 カウンシルタックスの課税対象は居住用資産であり、日本の固定資産税では資産を土地と家屋とに分けて考えているが、カウンシルタックスでは、土地という考え方はほとんど存在しない。人が住む資産であるから、毎日野宿でもしていない限り建物があるのが当然であり、人が住んでいる空間一帯に課税するという考え方に立って、課税対象としては居住用資産として土地と家屋を一体のものとして捉えている。一方、事業用レイトについては土地という考え方があり、例えば青空駐車場となっている土地については、その土地を駐車場事業というビジネスに使用しているということから、事業用レイトの課税対象とされている。
 なお、事業用レイトについては、日本の固定資産税とは異なり償却資産には課税されず、また、農業用の土地についても、課税されない。
 また、カウンシルタックスの納税義務者は占有者であり、日本の固定資産税のように所有者に対して課税するものではない。空き家の場合には所有者に対して課税されるが、いわゆる別荘については、日本の場合は、通常は居住していないということから住宅に係る特例が適用されず、固定資産税が軽減されないが、カウンシルタックスでは、逆に住んでいないのだから50%の軽減が受けられるといった仕組みとなっており、同様と思われている税であっても、日本とイギリスとの課税についての考え方が異なっている面が表れている。
 また、人頭税の場合には、例えば一家が両親と18歳以上の子供1人であれば、3人分を払わなければならず、このことに大きな痛税感があったが、カウンシルタックスでは、大人が2人で居住するということを基本とし、3人居住していようが、4人居住していようが、2人が居住するときと税額は変わらない仕組みとなっている。さらに、例えばシングルペアレント、母1人が子供を育てているような場合には、大人が1人しか住んでいないということから、25%の軽減が受けられるといった仕組みとなっている。この背景としては、カウンシルタックスは資産税と人頭税の要素を併せ持った税であり、50%が資産税であるとすると、居住用資産が存在することで50%の負担、残りの50%が人頭税あるいは住民税的な要素で、2人に対して50%であるため、1人であれば25%、すなわち25%軽減するという、ごく単純に言えば、そういった考え方があると思われる。
 カウンシルタックスの税額については、日本の固定資産税のように、課税標準×税率により算出するものではなく、居住用資産をその評価額に応じた価格帯に位置づけることにより税額を決定することとされている。表1のとおり、価格帯(バンド)は、資産評価額4万ポンド以下のAから、資産評価額32万ポンド以上のHという8段階に区分されている。居住用資産をこのバンドのいずれかに位置付けるものであることから、厳密な1ポンド単位での評価額を算出することなく課税ができるため、評価を非常に簡便に行うことができ、事務が効率的であると保守党がカウンシルタックスを導入したときに喧伝されていた。日本であれば、そうは言ってもきちんと評価しなければならないということになると思われるが、そこがイギリスのおおらかなところと考えることもできるのではないか。
 
表1 カウンシルタックスの価格帯と税額の比率及び具体の例
価格帯
(バンド)
資産評価額
(ポンド)
税額の比率 リバプール市 ワンズワース区
A 40,000以下 6 £757.59 £265.59
B 40,001〜52,000 7 £883.85 £309.85
C 52,001〜68,000 8 £1,010.13 £354.11
D 68,001〜88,000 9 £1,136.39 £398.38
E 88,001〜120,000 11 £1,388.93 £486.91
F 120.001〜160,000 13 £1,641.45 £575.43
G 160,001〜320,000 15 £1,893.98 £663.96
H 320,000以上 18 £2,272.78 £796.76
 
 このようにバンドに応じて税額が決定されるため、税率という概念は存在しない。法律で定められているのは、バンドとバンド区分毎の税額の比率、すなわち、Aバンドを6とすれば、Hバンドは、その3倍の18ということである。
 カウンシルタックスの比較に当たっては、標準となるDバンドの税額の多寡で、その自治体の税が高いとか、低いとかが議論されるが、表1を見ると、リバプール市のDバンドの税額が£1,136で、£1=200円とすると、リバプール市が最も税額が高い自治体ではないが、日本円で二十数万円ということとなる。これに対して、ロンドンのワンズワース区では£400ポンドを下回っており、3倍近い開きがある。このようにカウンシルタックスの負担は、自治体によって大きく異なっている。ちなみに、リバプール市は、自由民主党が支配(議会で多数を占めているという意、以下同じ)をしている自治体であり、ワンズワース区は、保守党が支配している。カウンシルタックスを論ずる場合、税額が低い自治体はどこかというのが取り上げられるが、このワンズワース区と、ロンドンの中心のウエストミンスター区の税額が低く、両区とも保守党の牙城であり、保守党支配下の自治体のカウンシルタックスは、伝統的に税額が非常に低く抑えられていると言える。
 逆に税額が最も高い自治体は、セッジフィールドであり、ここはブレア首相の選挙区の自治体であり、労働党の支配下にあるが、リバプール市よりも若干高い税額を設定している。
 このように、カウンシルタックスについては、各自治体がDバンドの税額をそれぞれの財政状況に応じて定めるというシステムになっており、財政需要に応じて自治体が税額を決定できる仕組みになっている。
 このため、自治体の歳出を増加させれば、自動的にカウンシルタックスも増額されることとなるが、安易なカウンシルタックスの上昇は許さないということで、84年、保守党政権時代にキャッピングというシステムが導入された。すなわち、予算にキャップを被せ、対前年度で一定以上予算が伸びた場合、一律に予算の増加を抑え、これによりカウンシルタックスの上昇が抑えられるというシステムが採られた。
 現在のブレア首相の労働党政権は、保守党政権で導入されたキャッピングを廃止したと言っている。確かに法律上は、画一的なキャッピングシステムは廃止されたが、依然としてロンドンの中央政府は、自治体のカウンシルタックスの上昇を抑える権能を有している。保守党政権時代のキャッピング制度は廃止されたが、広い意味でのキャッピングというのは依然として維持されているというのが実態で、ブレア政権は地方自治体に非常に優しいのでキャッピングは廃止されたと言われることがあるが、それは事実とは言えないであろう。
 また、現在課税が行われているカウンシルタックスの評価額については、91年4月、93年に初めて課税するために実施された評価による評価額がそのまま用いられている。その後、ロンドンを中心に、相当程度の住宅価格の上昇があったので、不公平も生じてきているはずであるが、依然として評価替えは行われていない。
 現在の労働党政権は、最低10年に1度は評価替えを行うことを義務付けることについて、前述のビジネスレイトと同じ法律案に盛り込み、現在、この法律案が議会で議論がされている。これが成立すると、07年から新しい評価が行われるということになる。いつから新しい評価で課税するのかは、今のところ分からないが、いずれにせよ、日本のように3年に1度といった頻度での評価替えは行われていない。このあたりにも、おおらかなイギリスの国民性が表れているのではないか。
 なお、評価は、自治体ではなく、国(内国歳入庁)が行うものであり、評価の方法は、居住用レイトはいわゆる賃貸価格方式であったが、現在のカウンシルタックスの91年の評価は、売却価格を推定して行うという方法で行われた。
 徴収については、市町村(ディストリクト)が行うものである。イングランドの地方制度は多少複雑で、いわゆる2層制の地域と1層制の地域が混在をしている。基本的に、地方部は2層制になっており、カウンティが日本のいわゆる県に相当し、ディストリクトが市町村に相当するものである。若干ロンドンについては例外はあるが、バーミンガム、マンチャスター、リバプールといった産業革命を担ったような大都市については、1層制となっており、メトロポリタン・ディストリクトという自治体ですべての業務が行われている。その他、日本でいえば中核市のような存在ともいえる、ユニタリー・オーソリティーというものがあり、例えば、ポーツマス、ブリストルといった中規模の都市についても1層制となっており、1層制の場合は当該自治体がカウンシルタックスを徴収することとされている。
 ロンドンについては、バラと呼ばれるロンドン特別区が32あり、その上にグレーター・ロンドン・オーソリティー、大ロンドン市がある。86年にサッチヤー政権に廃止された大ロンドン市は、グレーター・ロンドン・カウンシル(GLC)であったが、日本語では、いずれも大ロンドン市となるが、現在は、グレーター・ロンドン・オーソリティー(GLA)であり、これをいわゆる地方自治体に分類するかどうかは若干議論が分かれるところである。すなわち、GLAは、基本的に対住民サービスを直接提供しないものであり、間接的に、例えば、いわゆるロンドン警視庁(スコットランドヤード)の予算統制権などを有しているが、基本的には国の内務省の管轄下に警視庁は入っている。実際上、ロンドンの居住者が、GLAの存在を実感するのは、ロンドンの中心部に車で入るとき、1日5ポンド、約1,000円を支払う、いわゆるコンジェスチョン・チャージ位であり、通常の生活でGLAの存在を実感することはないといえる。
 GLAの予算の財源は、国からも相当交付されているが、基本的には、32のバラとシティーという基礎的自治体に財源の調達を依頼し、バラやシティーが自らの財政需要にGLAの財政需要を上乗せして、カウンシルタックスを徴収することとされており、これは、カウンティとディストリクトとの関係でも同様である。
 現在、GLAの市長はケン・リヴィングストンであり、元労働党所属の下院議員であるが、同党の中でも左翼的な傾向が強く、歳出を膨張させていく傾向のある人物である。リヴィングストンがGLAの市長に就任し、一番最初の予算は国が作成し、それをGLAが実行したものであるが、2年目以降はリヴィングストンが予算編成を行い、それによると各バラがカウンシルタックスを大幅に増税せざるを得ないという状況となり、そのような増税はとても住民に説明ができないということから、各バラが、労働党も保守党もなく一致団結して反対し、予算の上昇を抑えたということがあった。
 なお、カウンシルタックスの徴収形態は、プリセプト(prescept)と呼ばれている。







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