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第6章 NGOの社会的意義
 NGOの現状や課題、可能性についてこれまで概観したが、そもそもNGOは日本の社会の中でどのような役割を果たしうるのかについて6章では検討する。国際協力NGOは多様な分野で活動しており、その存在意義も多面的に検討する必要がある。NGOは単に途上国において国際協力を効率的に実施するためだけがその存在意義ではなく、日本の社会のあり方について鋭い警鐘を鳴らし、また市民に新たな意識を植え付ける意味でも重要な役割を果たしている。
 NGOが果たす多様な意義を以下に考察するが、そのことによってNGOの社会的必要性がより鮮明に浮かび上がってくる。
 
6-1. 途上国での効率的な援助・協力活動
 NGOの活動の重要性が世界的に認職されるようになったのは、従来の政府間における援助の実効性の限界が明らかになったことが背景にある。途上国の人々―とりわけ貧困層の人々―が貧困の状態から脱し、基本的ニーズを満たすことの出来る暮らしを享受できるためには、政府による政策と努力だけでは限界があることが明らかになった。
 多くのNGOは、政府の直接的な支援を受けることができなかった都市の貧困層や零細農民、女性、子どもなどに焦点を当て、そのような人々の中に入って支援を行ってきた。政府の手の届かなかった社会の底辺、片隅にまで手をさしのべてきたNGOの役割は大きい。
 例えば、NGOは、地域のニーズに即した小回りの利く、そして機動的な事業を行い得る。政府がともすれば、官僚主義、予算主義に陥り、即座に対応できず、融通のきく活動が行いにくいのに対して、NGOはニーズの変化に敏感に対応して柔軟な活動を行うことが出来る。
 また特定の地域や個人に焦点を当てたきめ細かな活動を行いうるのもNGOの特徴の一つである。政府であれば、広く平等に行きわたることを優先する結果、効果的な事業を行い得ない場合がある。また途上国においては行政の能力上の活動の限界があり、公的な活動をNGOが担うことがより効率的な開発を行いうることもある。また、国際協力NGOは、現地のNGOや住民組織などと協力しながら活動することによって、国境を超えた草の根レベルの人々の間の信頼と連帯意識を向上する上で寄与し得る。
 
6-2. 一般市民の途上国についての関心の喚起と理解の促進
 NGOの役割は途上国における活動に限定されるものではない。NGOの重要な役割として、日本の市民に対して途上国のさまざまな状況についての情報提供することによって途上国についての関心を呼び起こし、その理解の促進を行なうことができる。政府の広報機関やマスメディアでは伝わらない現地の人々の暮らしぶりやナマの声を伝え、途上国の課題を独自の視点で浮き彫りにすることも重要な役割である。
 またNGOはスタディツアーを行い、NGOの会員や一般市民に呼びかけて、NGOの活動が行われている途上国の現地を訪問し、日本の市民が直接、途上国の人々の暮らしぶりを体験できる機会を提供しているが、このような個人的なレベルで途上国を知る機会を提供し得るのもNGOの大きな役割の一つである。
 またNGOは、単に個人的な体験の供与だけでなく、日本人の途上国に対する支援や交流の希望を具体的な事業として橋渡しの役割を果たしている。途上国の苦境を聞いて何らかの支援を行いたいという日本人は多いが、自らが直接、支援を行える人は極めて限られている。NGOはそうした日本人の善意の寄付金や会費収入を活用して、途上国支援プログラムという具体的な形とすることができる。また途上国の草の根の人々と日本人との新たな交流の仲立ちをすることも可能である。
 また青少年の教育において総合学習が小学校から高校のカリキュラムに導入されるようになったが、グローバルな問題や途上国の人々の暮らしぶり、異文化理解などの面で、実体験を持つNGOのスタッフは貴重な知識や情報の提供者となり得る。すでに多くの地域では途上国の現状や異文化についての理解を深めるために、NGOのスタッフやボランティアが地元の学校に呼ばれて話をするケースが増えている。
 
6-3. ODAのあり方についてのアドボカシー
 政府が行う国際協力事業が引き起こし得る様々な問題、例えば環境上の影響や草の根の人々に対するマイナスの影響について、NGOが声を発し、政府の援助活動のあり方に警鐘を鳴らすことがある。民衆の実態を無視した政府の援助、とりわけ民主的な手続きが行われていない途上国においては、NGOが民主的な手続きを要求する上で重要な役割を果たしている。さらに、政府が重要視してこなかった「地球環境問題」や「ジェンダー」などの重要性を指摘したのもNGOである。その意味で、NGOは政府の行っている国際協力活動をチェックし、一国のみの利害を超えた国際協力のあり方を提示する役割を担っているといえる。
 
6-4. 新しいライフスタイル(経済、社会の仕組み)の提言
 多様な活動を行うNGOの中には、グローバルな社会、経済システムに対する批判や市場経済至上主義がもたらす社会のひずみや社会的弱者の存在に注目し、オールタナティブな社会システムを提言する団体がある。また「フェアトレード」など、途上国の農民や貧困層が生産するモノを直接輸入し、通常の経済取引ルート以外のルートを開拓することによって、従来とは違った経済交流の突破口を開いている組織もある。
 さらに、日本が資源などを輸入している途上国の人々の生活を身近に知ることによって、日本国内のエネルギーや資源の浪費に対して警鐘を鳴らし、環境に配慮した生活などを提唱する組織も多い。NGOは、現在の日本社会の経済中心の価値観に対してオールタナティブなライフスタイル、新しい生活の価値観を提示する役割を果たしている。
 
6-5. セクター、組織を超えた協力体制の仲介役
 一部の力のあるNGOは、自治体、企業、市民などのセクターの壁を超えて、途上国に対する支援活動を行うための調整の役割を果たしている。日本においては縦割り型社会のために、それぞれの組織、セクター間の交流がとぼしい。また政府機関もそれぞれが決められた役割を果たすことにのみ専念しがちで、全体の状況を把握し、総合的な解決のためのイニシアチブをとりにくい状況にある。NGOは、国際協力に関わる多くのアクター間の交流と協力を取り持つさらなる役割を果たす可能性を持っている。
 
6-6. 国際的非営利活動を目指す人材の雇用の場
 国際的な関心を持ち、グローバルなつながりを持って活動したいと考える青年は極めて多い。商社やメーカーで海外での勤務を希望するだけでなく、営利を目的としない公的な分野で国際的に活動したいと考える青年が増えている。
 また近年、数多くの大学で国際協力に関係する学部や大学院が設置され、国際協力に関わる人材の養成がなされており、国際開発高等教育機構のHPには国際協力に関連する24の大学院とのリンクが開催されている。日本人による国際貢献を支援するための教育機関の充実は望ましいことであるが、その卒業生が国際協力に従事する場として政府および政府関連機関、国際機関等での就職は、極めて限られているのが実態である。また政府機関よりも、より柔軟でグラスルーツ的な国際協力活動に従事したいと考える青年も多く、そうした活動に職業として携わることのできる場をNGOは提供しつつある。







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