日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 社会 > 成果物情報

東京財団研究報告書2004-7 国際協力NGO活性化の方策

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


第4章 NGOのマネジメントの課題
4-1. はじめに
 国際的に活動するNGOの活躍が毎日のように報道され、世界的にその存在感は日に日に増してきている。NGOに対する、市場の失敗、政府の失敗を補う役割を果たすものとしての期待が大きくなってきたことの現れであろう。一方で、NGOが様々な問題を抱えているのも事実である。その問題解決の糸口として、「政府」ないしは「市場」からNGOが学ぶべきことも数多くあるのではないだろうか。本章では、NGOが「市場」すなわち「営利組織(企業)」から学ぶべき点として、マネジメントを中心に取り上げ述べることとする。
 
4-2. 営利組織と非営利組織の接近
 営利組織と非営利組織が、まったく別なものと捉える人は、少なくなったであろう。営利組織は「利益」をあげるために活動し、非営利組織は「社会的使命」を達成するために活動すると、明確に別なもの考えることも多かったが、昨今では、それらは、非常に接近しきている。
 営利組織にとっての「社会的使命」がいたるところで取り上げられ、利益と同時に社会的使命の達成も重視されている。また、非営利組織では、社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)と呼ばれるような、「適正な利益」を上げ、その利益を使命達成のために使う動きもある。
 当然のことながら大きな違いもある。営利組織、非営利組織双方が「社会的使命」の達成が重要だとしても、アプローチは大きく異なる。営利組織が利益を中心に事業計画を立てるのに対し、非営利組織は社会的使命を中心に事業計画を立てる。また、営利組織は「顧客満足志向」だが、非営利組織は「社会満足志向」である。
 しかし、P.F.ドラッカーが指摘するように、営利組織、非営利組織のマネジメントは根本的に同じである。営利組織、非営利組織のマネジメントの違いは、「適用の仕方の違いにすぎない。直面する問題や課題さえ、大きな違いはない。」2と言えよう。
 
4-3. NGOにおけるマネジメントの積極的導入
A. NGOのマネジメント力の向上
 そもそも、マネジメントとは何であろうか?マネジメントの定義は様々に提示されているが、ここでは簡単に、「組織の使命を果たすために『人』『モノ』『金』『情報』を活用すること」としよう。
 P.F.ドラッカーは、マネジメントの役割として、「第一に、組織に特有の使命すなわち目的を果たすことである。第二に、組織に関わりのある人たちが生産的な仕事を通じて生き生きと働けるようにすることである。第三に、自らの組織が社会に及ぼす影響を処理するとともに、社会の問題に貢献することである。」3としている。ドラッカーのこの指摘に従うと、マネジメントは「事業」「組織」「関係」の3つの軸に分けて捉えることができる。そして更に、マネジメントで重要になってくるのは、マネジメントそれ自体の「評価」である。「事業」「関係」「組織」「評価」、この4つのポイントについてマネジメントを見ていこう。
 
B. 「事業」のマネジメント
 「事業」のマネジメントは、ミッションの明確化からスタートする。すなわち、「われわれの事業は何であり、何であるべきか」を定義するのだ。この問いから導きだされるのはその組織が目指す「現実」と「理想」の2つである。ほとんどすべての組織は、この現実と理想の間にはギャップがあり、このギャツプこそが解決されるべき問題である。ここで大事なのは、ミッションを明確にすると同時に、現実と理想との間にあるギャップ、すなわち「課題」を明確にすることである。
 課題が明確になれば、次に行うべきことは「仮説」の明確化である。その課題が「どうのようにしたら(How)」解決されるのか仮説を立てる。ここで注意しなければならないのは、「なぜ(Why)」その課題が発生しているのかに意識を向けることではなく、「How」に意識を強く向けることである。「なぜ」という問いは、知らず知らずに過去に向かって意識が向き、「原因」すなわち「犯人」を追い求める傾向にある。これに対して、「どのようにしたら」という問いは、未来に意識が向き問題解決をするための「方法」を追い求める。問題の原因を見つけ出すことが重要に思いがちであるが、あくまでも問題を解決することに強い意志を持つ。当然のことながら、その過程で原因についても考察する必要はあるが、原因が判明したからといって仮説を立てることをストップしてはならない。あくまでも最終的には方法を導き、「○○○という課題は、△△△によって解決される」というように仮説を立てる。
 「仮説」が明確になれば、次は「実行」である。この実行を着実に行うためには、具体的な行動計画が必要になる。行動計画を作るときの一番のポイントは、「時間」「方法」「実行者」を明確にすることである。この3つが明確になっていない行動計画は、決して実行されることのない夢にしかすぎない。行動計画でもっとも重要なのは、それを見たら「すぐに、誰にでも実行できる具体性」である。
 「実行」の後は「検証」である。仮説は正しかったのか?正しくないとするならば、どうすれば課題解決できたのか?もっと効率的に課題解決する方法はないか?などあらゆる側面から検証を続ける。検証が正しければ、最後に取り組んできた行動を「仕組化」する。よくあるのが、検証だけを行い満足し、忘れた頃に同じような課題が発生することがある。大事なのは、似たような課題を発生させないように問題解決のためにとった行動を組織の中で仕組化することである。
 
(図4-1)事業のマネジメントサイクル
 
ミッションの明確化(現実と理想のギャップの明確化)
 
C. 「関係」のマネジメント
 ドラッカーは「事業の目的について正しい定義はただ一つしかない。それは顧客の創造である」としている。4 組織にとっては、事業活動によって創造した「顧客」との関係を継続的に良好な関係を築くことが非常に重要になってくる。「顧客」というと、「商品・サービスを利用してくれる人」という狭く捉えることもできるが、ここでは、もう少し広く捉えいわゆる「ステークホルダー」として理解してみる。そしてこの「顧客の創造」という目的を達成するために「マーケティング」と「イノベーション」という2つの機能があるとドラッカーは指摘している。ここでは、「関係のマネジメント」という観点から「マーケティング」に絞って考えていきたい。
 NGOにとってマーケティングが必要な理由はなんだろうか? 一人の大富豪から巨額な寄付を得て問題解決することを目指しているNGOは少ないのではないだろうか。むしろそういった解決方法よりも、一人でも多くの人から小額の寄付を得て問題解決することこそが、NGOの大きな役割であろう。なぜなら、より多くの人々の意識変革の結果、引き起こされる寄付行為も含めた行動の集合により、社会的使命の達成を志向するのがNGOだからだ。より多くの人を巻き込み意識変革をもたらすためには、いわゆる「マーケティング」が非常に重要になってくる。NGOにとってのマーケティングは、理念の表明をし、適格に理解してもらい行動を起こしてもらうための活動に他ならずNGOの活動の根幹とも言えよう。
 
 NGOにとってのマーケティングは、営利組織のそれと比較して困難であると考えられることが多い。それは、受益者と費用負担者(寄付者)が異なるという対象の二重性からもたらされるものであろう。NGOの場合は、「顧客」を
1. 受益者
2. 会員、ボランティア
3. 支援者、支持者、寄付者
などのように3つのレベルにわけて考えるのが一般的である。ここが営利組織のマーケティングとは若干異なると考えられがちなところである。ところが、営利組織の場合もいわゆる顧客に対するマーケティングだけではなく、株主や取引先などに対して良好な関係を築くために様々な活動を行っており、これをステークホルダーに対するマーケティングと考えると、NGOのマーケティングとなんら変わることはないのである。「マーケティング」を「商品・サービスを購買してもらうための活動」と考えずに「ステークホルダーとの関係性を良好に保つための活動」と捉えることによって、より広くNGOでもいわゆるマーケティング論で述べられている数々の理論が活用可能になってくるであろう。
 
D. 「組織」のマネジメント
D1. 守るべき原則
 ドラッカーは、組織には「こうあるべき」という正しい構造は存在しないが、組織には守るべき原則があると指摘している。その原則とは、
1)組織は透明でなければならない。
2)組織は最終的な決定を下すものを必要とする。危機にあっては、その者が指揮をとる。
3)権限には責任が伴わなければならない。
4)上司はひとりでなければならない。
5)階層の数を少なくしなければならない。
の5つである。5
 この5つの原則をNGOの組織に照らし合わせてみよう。まずは第1の「組織は透明でなければならない。」。多くのNGOが年次報告書、ホームページ、メールマガジンでの情報公開を行っており、透明性を高めるための意識を強くもっていると思われる。透明性は、組織の外部に対して確保されると同時に、内部に対しても透明性を高めなくてはならない。外部に対しては、とにかく「取り組んだこと」「取り組めなかったこと」「取り組もうとしていること」そしてそれらに関係するお金の流れを徹底的に情報開示する。組織内部に対しては、意思決定プロセスの透明性に一番留意すべきである。意思決定プロセスの不透明感がある組織には、不平不満が溜まりやすく、モチベーションの低下につながる。
 
 第2、第3、第4の原則からは、共通して1つのNGOに対する教訓が読み取れる。それは、NGOであろうと、誰か一人が「経営者」として組織を牽引していく必要があるということだ。そしてその経営者には、権限と責任があり、最終的な意思決定を行うことが大きな役割として期待される。ボトムアップも重要であるが、時には強い意思と明確な方針を持ってトップダウンで指示・命令を行うことも必要である。
 NGOは、比較的階層が少ない組織構造のことが多いが、第5の原則からも学ぶべきことがある。組織の構成員の増加が、コミュニケーションの複雑化を招くということを意識しながら組織のマネジメントを行わなければならないということだ。構成員の人数が3人から6人に増えたとき、コミュニケーションの複雑さは同じく2倍にはならないのである。コミュニケーションの複雑さに注目するのであれば、点の数の増加ではなく、それらを結ぶ線の数の増加に注目すべきであり、3人から6人に増えた場合は、3から15、すなわち5倍に複雑さが増したと考えるべきである。すなわち、点の数nに意識を向けるのではなく、それを結ぶ線の数
 
 
を意識し、マネジメントするべきである。
 
(図4-2)3人から6人に増えれば、
線の数は5倍になる。
点の数 3
線の数 3
 
点の数 6
線の数 15
 

2 P.F.ドラッカー著 上田惇生編訳 『チェンジ・リーダーの条件』、ダイヤモンド社、2000年、115頁
3 P.F.ドラッカー著 上田惇生編訳 『チェンジ・リーダーの条件』、ダイヤモンド社、2000年、23頁
4 野田一夫監修・現代経営研究会訳 『現代の経営』上巻、ダイヤモンド社、1965年、47頁
5 P.F.ドラッカー著 上田惇生編訳 『チェンジ・リーダーの条件』、ダイヤモンド社、2000年、118頁







サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら

日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
2,697位
(35,139成果物中)

成果物アクセス数
3,149

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2022年9月24日

関連する他の成果物

1.WORKING PAPER 12. 「『専守防衛』策と日本の安全-自衛を全うすることが可能か-」
2.政策提言書「日台関係強化の為の6つの提言-良き隣人を再確認しよう-」
3.東京財団研究報告書2004-1 教員免許状取得希望大学生に対して障害児教育に関する知識、技能をいかにして身につけさせるか
4.東京財団研究報告書2004-3 安楽死合法化に向けて-オランダの安楽死法をベースに-
5.東京財団研究報告書2004-4 我が国の外周離島(外周領域)保全のあり方
6.東京財団研究報告書2004-5 外国犯罪の動向とその対策-若干の提言-
7.東京財団研究報告書2004-6 日本の近未来ビジョンと初等教育改革
8.東京財団研究報告書2004-8 電子自治体における情報活用-地方自治体における介護情報を事例に-
9.東京財団研究報告書2004-2 日本人の安全保障に関する新構想
10.平成15年度 社会貢献者の記録
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から