日本財団 図書館


2-1. マネジメントの強化
 NGOと営利組織のマネジメントは究極的には極めて似た活動であるといえる。NGOの持つ社会的使命を達成するために、NGOはマネジメントとマーケティングの手法を最大限に活用することが必要であり、以下のような点を考慮すべきである。
 
(1)NGOをマネジメントする上で、「ガヴァナンス」と「パフォーマンス」の2つの視点を重視すべきである。そしてそれらの状況を明確にするために、徹底した情報公開と評価の仕組みを導入することで、市民の意識・関心及び資金がNGOの活動に注がれるであろう。
 
(2)NGOにとってのマーケティングは「商品・サービスを購入してもらうための活動」ではなく、「ステークホルダーとの関係を良好に保つための活動」と捉え、マーケティングの理論を活用すべきである。
 
(3)NGOのとっての「顧客」には3者、つまり、サービスの対象者、会員・ボランテイアのメンバー、支援者・助成団体がいることを認職し、これらのステークホルダーとの関係の改善を意識して行うべきである。
 
(4)「取り組んだこと」「取り組めなかったこと」「取り組もうとしていること」とそれに関する資金の流れを、ステークホールダー及び一般社会に対し徹底的に情報公開し評価を受けるべきである。
 
(5)意思決定のプロセスが不透明である組織ではスタッフの間に不平不満が溜まりやすいので、内部に対しては意思決定のプロセスの透明化に留意し、誰が最終意思決定を行い、その責任を負うのか明確にする必要がある。
 
(6)社会的問題意識の高いスタッフが多いということに甘んじず、NGOスタッフのモチベーションを高めるために、金銭的報酬や地位的報酬以外に、コミュニケーション的報酬(例えば、果たした仕事に対するアクノレッジメントなど)に注目し、その報酬を供与することに積極的に取り組むべきである。
 
(7)NGOのマネジメント能力の向上には、企業のマネジメント経験者(定年退職者など)をCOO(最高執行責任者)などの立場で迎え入れ、次世代を担う若手がそのマネジメントスタイルを学ぶことが効率的である。
 
2-2. 地域社会との連携の強化
2-2-1. NGOと地域社会のアクターとの協力の推進
 草の根のNGO活動の強化のためには、市民団体、自治体、政府機関との間で地域連携が必要である。
 地域における草の根のNGOは、国際協力の強い目的意識をもち具体的に活動を行っているが、多くの場合、活動内容での他団体との協力関係はほとんどなく、会費やわずかな収益事業以外の収入もほとんどない状況である。人材交流や情報・資金提供などの機会を醸成するためには、自治体や政府機関との連携が望まれる。ヨーロッパに見られる地域主体の国際協力(CDI=Community-based Development Initiatives)は、こうした地域連携を基本としている。日本において、地域連携の中心的役割を果たすことができるアクターは国際交流協会である。(P59 図2-1を参照
 
2-2-2. 国際交流協会への財政的支援強化
 地域連携や情報の拠点としての役割を果たす国際交流協会をより強化すべきである。
 当初、地域の国際交流活動の中核となることを目的に各地に設立された国際交流協会は、国際交流団体が行う事業支援や諸団体のネットワーク作り、在住外国人に対する支援ばかりではなく、途上国からの研修生受け入れ業務、開発教育/国際理解教育の推進、国際協力活動の普及など、幅の広い活動を担うようになった。こうした国際交流協会の働きを再評価して地域がこれまで以上に支援を強化する必要がある。多くの交際交流協会は、県や市から投入された基本財産をもとに設立され、自治体等からの助成および事業受託によって運営されている財団法人である。近年の仕事量の増大にともなって、非常勤スタッフを採用するところもあるが、もとより財政的には緊縮の傾向にある。国際交流協会は「世界に開かれた地域の窓」である。行政ばかりでなく、地域の住民や諸団体が支援できる体制が必要である。国際交流協会が個人や団体から寄付を受けられたり、また、JAICAやJBICなどの委託事業を受け入れたりする仕組みが要請されている。
 
2-2-3. 開発教育/国際理解教育へのNGOの一層の取り組み
 市民団体間の地域連携形成には、開発教育/国際理解教育の場が重要な役割を果していることを評価すべきである。草の根のNGOはそれぞれ目的意識をもち独自の活動を展開しているため、活動面での他団体との関わりは多くない。そのような状況にあって他団体と協力し合って共にできる活動は、途上国理解を含む開発教育/国際理解教育を地域で実施することである。担い手たちが学校現場に出かけたり、地域でこうした場を設けることが人材育成や会員獲得につながるばかりでなく、広く国際協力に対する啓蒙・普及活動となるからである。実際、武蔵野市や福島県などでは、開発教育/国際理解教育を目的に、地域連携ができつつある。協会、NGO、学校の3者間による地域連携モデルが構築され、そのモデルが全国的に普及させることが期待される。
 
2-2-4. 地域NPOと国際協力NGOのパートナーシップヘの期待
 今日、地域において、まちおこし、福祉、環境、健康・スポーツ、国際交流などを目的に、多くの団体が活動しており、NPO法人として認定されるものも少なくない。こうした団体で活躍する人たちは、必ずしも国際的な意識を持っているわけではないが、地域活性化、スローフード、地産地消などの運動のように、グローバル化の中にある私たちの生活と無関係ではない。1980年より大分県で始まった「一村一品」運動は、地域活性化に貢献しただけではなく、ひとつのモデルとしてアジア地域を中心に広く模倣されるようになった。今では日本各地に見られる「道の駅」も、民間、自治体、JBICなどの働きにより、タイや中国に紹介されつつある。今までほとんど関わりがなかった、地域NPOと国際協力NGOがパートナーとなれば、地域に根ざした国際協力が期待できる。
 
2-3. 政府による新たなNGOへの支援策
2-3-1. NGOの持つ優位性を活用できる政府からの資金拠出システム
 途上国支援におけるNGOの優位性は、社会開発への草の根的なアプローチ、現地のニーズに即した臨機応変の対応など、様々な点があげられるが、その優位性を発揮するには活動の裏付けとなる資金支出の柔軟性が求められる。会計面での詳細にわたる報告の要求や硬直的な支援制度の結果、NGOのもつ上記のような優位性が阻害されている。欧米の政府と同様に日本政府も、人材育成やモニタリングなどソフト要素を重視した支援を行いNGOの能力強化につなげ、また一定事業に対する多年度にわたる支援を行い、成果を重視する姿勢に転換することが求められる。
 NGO・外務省連携推進委員会において、2003年7月25日にNGO側委員により提出された「日本NGO支援無償資金協力改善のための11の提案」は、日本のNGOの持つ潜在力を発揮するための政府資金の支出を中心に提案がされている。しかし、外務省が同年11月21日に行った回答の内容を見ると、予算の単年度主義は憲法上の規定で変更できない、また、制度が無償資金協力、すなわち贈与であるため「ハード中心」という原則は動かし難く、ソフト部分は全予算の30パーセントが目安になっていることなど、外務省としても、現在の対応がほぼ限界であることを説明している。これは、法律の枠内で動く政府機関としては、ある意味で当然のことと言わざるを得ないかもしれない。この状況を抜本的に変え、市民組織(NGO)が能力を強化し、その優位性をフルに発揮し、国際社会においてより大きな役割を果たす状況をつくっていくためには、新しい法律のもとに、新しいメカニズムをつくり上げる必要があろう。
 
2-3-2. NGOセクター強化のための「NGOチャレンジファンド」の創設
 現状の政府による財政的な支援の枠組みにおいては、6章で提示したNGOの6つの社会的役割のうち、途上国での効率的な援助・協力活動を行うことのみしか、NGOの価値は認識されていないといえよう。NGOの持つ多元的な役割に注目し、それぞれの部分に専門性を持つNGOを支援する政府のしくみが必要である。そのためには政府として日本のNGOセクター全体を強化することに本腰をいれることが必要であり、それを実現するための案として、新しく「NGO活動促進基金」(仮称)の創設を提言する。
 「NGO活動促進基金」(仮称)の概要は以下の通り。
 
目的:NGO活動の基盤強化と、NGOの優位性をフルに生かした事業の推進
基金の性格:国連内に設置された「人間の安全保障基金」と同様に、政府が上記の目的を実現するために、一定金額を拠出し、その運営管理をNGOの連合体に委ねる。
基金の財源:政府(総務省、外務省、その他)
当初基金:200億円(5年間の事業費、運営管理費に充当する)
*4年後に活動実績を評価して、第2次5ヵ年のための追加基金の規模を決定。
運営管理:独立した運営委員会を設置する。メンバーには、政府、企業、大学、NGO等の関係者より構成。責務は、「基金」の助成方針の決定、申請事業の選考と決定。
事務局:NGOの連合体に置く。
事業内容:
(1)“NGO活動基盤強化プログラム”
 以下のような活動に助成する
(1)広報、会員拡大
(2)開発教育/地球市民教育
(3)スタッフ研修
(4)事業のための基礎調査、評価
(5)海外での国際会議、セミナー等への参加
(6)他
 助成を受けた事業の内容と結果評価は公開する。
(2)“NGO海外事業チャレンジ・プログラム”
 以下のような条件のもとで、NGOの海外事業を助成する。
(1)単年度、多年度事業への助成を行う。
(2)一定の自己負担率を定める。
 (例、人件費を含む事業経費総額の20〜30パーセント)。
(3)会計結果は公開する。
(4)運営委員会が任命する第三者による評価を受け入れ、評価結果は公表する。
 
 以上の「基金」の事業については4年後に第三者による評価を行い、その結果に基づき、追加基金の規模を決定する。
 なお、「基金」の当初金額を200億円、年平均額40億円という金額は、郵便ボランティア貯金の最盛期の助成金額(平成7年度28億円、加盟者数は増えるものの金利の低下によって平成15年度には1億4千万円まで減少)を補填し、さらに約10億円を上積みした金額である。
 
2-3-3. 政府によるNGO活動の広報の強化
 市民がNGOについて知る手段は、その大多数がメディアであることは前述した通りである。あいにく、メディアを使うだけの財源は、ほとんどのNGOは持ち合わせていない。ここで次のような広報を提案したい。外務省が、スポンサーとなって、NGO活動の紹介番組を作成し、テレビで定期的に(毎週)放映する。番組内容は、現場で活躍するNGOスタッフの活動の様子、活動対象地域の住民の生活の様子、必要に応じて番組は、日本人スタッフと地域住民の間の人間ドラマなど物語にして織り込むことも考えられる。そして番組の最後に、NGO活動への募金を訴える。この場合、個々のNGOへの指定寄付を受け入れたり、または募金をプールして、年末にNGOからの申請に基づき、助成を行うことが考えられる。さらに、もし上記の「基金」が設立された後は、「基金」にその寄付金の運営は委託されることも考えられよう。
 
2-3-4. 国際協力に関わる政府ポストの公募制の創設とNGOへの調査・コンサルタント業務の委託など
 日本では政府とNGOセクター間で人事の移動がほとんど行われていないが、NGOセクターの発展のためには政府の一部のポストをNGO関係者に提供し、経験の場を広げる仕組みづくりが必要である。例えば、日本の在外公館では、専門調査員のポストが設けられ、現地のNGOとの窓口機能を果たせるが、このポストに就いているNGO関係者はまだ数名である。今後、このポストをNGO関係者にもっと広げる努力が求められるであろう。
 また、一部で始まりつつあるが、国際協力銀行(JBIC)や国際協力機構(JAICA)など政府の援助実施機関が、NGOの優位性や経験を活かして、事業発掘調査、その他コンサルティング業務をNGOに委託することも考えられよう。このとき支払われるコンサルタント料は、NGOにとって大きな収入になる一方、JBICやJAICAが必ずしも得意としていない、住民参加型事業の発掘に役立つと思われる。
 また、欧米においてNGOセクターが発展しているひとつの理由として、政府とNGOの間で活発な人の移動が行われており、政府とNGOとの組織面、待遇面、心理的ギャップが日本と比べて少ないことがある。
 日本では国家公務員は基本的に、終身雇用、年功序列で、人事面では欧米政府に比べて極めて閉鎖性が強い。日本においても民間企業においては終身雇用制が崩壊しつつあるが、政府の公務員制度は維持されたままで、新卒者が定年まで役所に勤めるしくみが変わっていない。政府とNGOとの間の意識ギャップの大きさ、壁の高さはこのような閉鎖的、硬直的な公務員制度が根底にあると考えられる。
 欧米のように一人の人間が政府とNGOの間を往復するような人事のしくみが構築されると、政府とNGOセクターのギャップが少なくなり、また長期的にはNGOセクターの財政的な基盤も強固されよう。公務員制度改革は外務省のみの課題ではないが、その改革の一歩として、政府とNGO間での相互のインターンシップの導入や、政府の適切なポストの公募などの導入が必要である。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION