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東京財団研究報告書2004-6 日本の近未来ビジョンと初等教育改革

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


9. 小野由美子
鳴門教育大学教授
 
(2003年10月17日研究会実施)
 
□講師のお話
◎アメリカで制定された「落ちこぼれ防止法」とは
 
 今日は、アメリカの初等教育の現状について、できるだけ客観的な情報にもとづいてお話したいと思います。
 「No Child Left Behind Act」。一般には「落ちこぼれ防止法」と呼んでいます。アメリカのウェブページで頭文字の「NCLB」を入力すると、もう各州が全部ウェブページをもっていて、これに関する情報を公開しています。
 1965年にアメリカで「初等中等教育法」というのが成立し、これが、連邦政府が教育に補助金を出すことを可能にした最初の法律だと考えられています。アメリカでは、教育は基本的に州の管轄事項であると考えられていましたので、この法律ができる前までは、連邦政府が教育に関して直接補助金を払うということはなかったわけです。ところが60年代に入り、ちょうどこの前に民主党のケネディが大統領になりますと、市民権運動などの高まりの中で、貧困層や黒人教育などの問題をどうするかということでこの法案を作り、教育に補助金を出すようになってきます。それでも、教育の内容、カリキュラムのところは、これは州の管轄事項ということで、連邦政府は一切介入しておりません。
 「初等中等教育法」は、1965年の成立以来、何回か改正されていますが、2002年に大統領が署名し「落ちこぼれ防止法」として成立しました。この「落ちこぼれ防止法」は、いままでの法案とは根本的に違い、公立学校、特に初等教育において影響が大きいといわれています。端的にいいますと、2013年度までに、公立学校に在籍する全ての子供(障害をもっている子供、移民の子供で英語を第2言語とする子供も含む)が、国語(いわゆる読み)、数学で学年相当の習熟度レベルを達成することを目標にする、というものだからです。つまり、各州で習熟度を「最低この学年では、テストをしたときに80%、85%の達成度でなければいけない」と州が定めたとすると、これに該当する子どもは全部その到達度を示すと。
 それで、まずは国語と数学でスタートするけれども、2007年からは理科も調査の対象にするということです。
 これは、あらゆるグループ間の学力差の解消を目指しておりますので(従来、黒人の子供たちは、社会経済的な階層の低さが原因となって学力も低いといわれていますが)、人種間の学力差の解消、それから、障害児、英語を母語としない児童など、ありとあらゆるグループの子供が対象であるといわれています。
 それから、この「落ちこぼれ防止法」で補助金の対象となるのは、タイトルIの学校といわれています。つまり、すべての小中学校が対象となるわけではなく、その学校に貧困レベルに相当する家庭の子供が、40%以上在籍しているという学校が補助金の対象になります。そして、この補助金でいろいろなプログラムを実施していくわけですが、最終的には国語と数学の100%習熟度レベルを達成させるということです。しかし、補助金をもらっている学校で達成しなかった場合には、制裁が課されます。
 この法律の特徴ですが、学力テストは州が独自に開発してもかまわないことになっているのですが、アカウンタビリティを大変重視しまして、テスト結果と抱き合わせで、褒賞と制裁措置を課すことになっています。
 従来、補助金は使用できる費目が決まっていましたが、地方学区でタイトルIの学校として補助金の対象となった場合、補助金はかなり自由に使用しても構いません。そういうふうに柔軟性を地方学区に与えますが、手放しではなくて、最終的に成果が出ない場合にはどういう措置になるかというと、例えば、「学校を変わる権利を親に与える」と。つまり、「子供の通う学校で2年経っても成果があがらない。そのときは、成果のあがらない学校に通う家庭に、他の学校に変わる権利を与える。その際に必要な交通費等は、地方学区が払わなければいけない」というような、わりと厳しい措置であります。
 それから、学力テストの実施については、2005年の財政年度までに、毎年3年生から8年生までの全学年、全員を対象に行う。これは、補助金の対象になっている学校もなっていない学校も、全部実施することになっています。つまり、全国、全州、全ての公立学校に在籍する子供を対象に、第3学年から第8学年までに国語と数学のテストを実施します。
 それで、2005年までに実施しなければいけないので、すでに実施している州もあります。ただし、先程も申しあげたように、テストの内容は各州によって異なります。そうすると、例えば、やさしいテストにすれば達成度が高くなるではないか、という危険性が出てくるので、その歯止めとして、じつは「NAEP」(National Assessment of Educational Progress=全国教育進度調査)を連邦が隔年で実施しています。各州間におけるテストの難易度の差を調整するために、あるいはそういうことにならないような歯止めとして、やはり3年生から8年生までを各州からランダム・サンプリングして何名かに必ずこのNAEPを受けさせる。
 また、2007年度までに、3、4、5年の中から1学年、6、7、8、9年の中から1学年、それから高校段階の10、11、12学年の中から1学年を州の判断で選んで、その学年に理科のテストを実施してもらう。これも全員です。結果は、学校の通信簿として州の教育委員会のウェブページの中で、全部の学校のテスト結果を公表する。これは、最近の日本でもいくつかやっていますが、それを非常に徹底した形でやらせるということです。
 そこで、各州は最終的な目標達成に向けて、適切な学力向上プランを立てて、それを全員に明らかにします。それを出さないと補助金の対象にはなりません。また、2年以上連続して、州の定めた学力向上プランを達成できなかった学校には、制裁措置が課されます。
 例えば、先程いいましたように、まずは、学校選択権を親に与えます。選ぶかどうかは、親の判断です。その次が、外部者の支援介入です。サービス・プロバイダとして、例えば、私的な企業であるとか、要するにお金儲けを目的とした会社のようなところが、支援を提供するという形で入ってくることも可能であると。それから教職員の入れ替え。成績の悪い特定の先生を入れ替えるということも可能です。そして、ほんとうに何年やっても成果があがらないという場合には、最終的に、私企業もしくは州の教育委員会が、「もう学校経営を私たちでやります」ということになる。そういうところまでの段階別の制裁措置を考えています。
 具体的な基準を少し見てみたいと思います。ノースカロライナ州の例ですが、なぜこの州かといいますと、私自身が実際にノースカロライナに行ったことがあるというのも理由のひとつですが、じつは、アメリカの教育改革の先頭を走っていたのが、ノースカロライナ州だからです。現在の知事の前は、ジェームズ・ハントという教育知事でした。この人は全米で教育知事として非常に知られた人で、かなり長期間州知事を務めました。その期間に教員の待遇もかなり改善しましたし、まだ子供たちの学力成果はトップではありませんが、伸び率は非常に高かった州のひとつです。
 ノースカロライナ州が実施する学力テストのうち、第3学年から第8学年については、リーディングでは、州の68.9%の子供が達成基準をクリアしている。これは、いろいろなグループ(黒人層、ヒスパニック層、男女差)で平均をとっていき、その中で最も低いものを基準にします。ですから、この達成度を白人の男の子や女の子だけで統計をとれば、達成度はもっと高くなります。しかし、グループ間で多少バラツキがあるので、いちばん低いところをスタートラインにして、そこから改善計画を立てるようにと、落ちこぼれ防止法の中で示唆しています。第10学年の高校1年生になりますが、リーディングと数学に関して、52%の達成度から2013年度までに100%にするというので、かなりステージごとの伸び率というか、クリアしなければいけない目標が高いのですが、こういうような計画を立てています。
 これは今年の1月にノースカロライナ州の教育局がこのように定め、すでに実施しています。それで、これはすべての学校に適用されますので、実際、今年もう結果を出しています。
 例えば、西部地区のジャクソン郡にあるスコッツ・クリーク・エレメンタリー・スクールは、17のターゲットゴールがある。つまり国語と数学に関して、それぞれについて男女、黒人、白人、ヒスパニックとか、いろいろなグループを作ったときに、全部で17のターゲットとなるグループがあるということです。それで、そのうちの16のグループは、前述したベースラインの68.9%を達成しているが、ひとつだけ達成していない。また、スモーキー・マウンテン・エレメンタリー・スクールでは、21のターゲットゴールのうち、21全てで68.9%以上だったので、100%の達成度であると。スモーキー・マウンテン・ハイは、13のうち11なので、84.3%。
 これは、全部の郡で同じようなデータが出てきます。ですから、親も先生も自分の学校と、郡内の他の学校、それから州内の他の学校とを、全て比較できるわけです。







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