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東京財団研究報告書2004-6 日本の近未来ビジョンと初等教育改革

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


4. 新しい社会の担い手としての子供の問題点
 新たな地域主権社会を創出する担い手となる子供の問題点として、以下の6項目が挙げられる。個々に掲げた6項目は、ほとんどが成人=大人の抱える問題でもあることに留意する必要がある。子供は、大人の行動を丸写しにする鏡なのである。このことからも、初等教育の問題が狭い学校の中だけで解決されないものだということが理解されるだろう。
 
(1)自分の利害しか考えない人間
 現代の日本は、競争がものをいう資本主義社会に属しており、学校の現場でも、偏差値の高い有名進学校に向けて、シビアな競争が行われている。人を蹴落として自分が合格するというゲームの中では、いつの間にか他人を思いやる気持が薄くなり、自分の利害しか考えない人間が跋扈するようになる。
 基本は、偏差値一本槍の同質競争から、多様な進路が可能となる制度の設計にあり、互いが自分がもち合わせていない他の人の能力を尊敬する仕組みを作ることである。
 本来、勉強するということは、自分の能力を拡大させていくことであり、他人を蹴落とす競争は何ら関係ないはずだ。このことを徹底的に子供に理解させる必要がある。そのために、例えば、宿題は小グループで、互いが得意な科目を教え合うプロジェクトとして位置づけ、実行したらどうだろうか。
 
(2)同質的な人間
 極端な物言いをすると、これまでわが国は以下に示すような極端な同質競争に明け暮れてきた。「すなわち、幼稚園から同質的な偏差値競争に邁進し、偏差値見あいの大学に進学する。3年後期に入ると、一斉に同質的な就職競争にとりかかり、偏差値見あいの企業に就職する。会社では、企業内ゼネラリストとして同僚と同質的な昇進競争に明け暮れ、他社とは、同質的な量的競争を繰り広げる。家庭に帰れば、向こう3軒両隣と同質的消費競争を展開する」
 追いつき追い越せという目標に国民を駆り立て、エネルギーを一点に集中させる上でこの同質戦略ほど有効に機能したものはなかっただろう。国を挙げての同質政策のもとで子供が同質人間になっていくのは至極当然のことである。
 小さいときから、学校で教わる「皆と仲良く」というコンセプトも、いつの間にか「皆と一緒」に変質した。自分の意見を主張し、事を荒立てると仲良くなれないから、絶えず相手の顔色を伺い、相手に合わせることになる。それによるストレスは、少しでも人と違う要素をもった子供に陰湿な苛めという形で向けられ、発散されることになる。
 このシステムのもとでは、できる子も、できない子に合わせペースダウンし、我慢することを体得させられる。こうして、少々不都合なことがあっても、不平不満をいわない我慢強い会社人間に向く人材が大量供給されることになったのである。
 この同質戦略は、日本人が単一民族だという神話によって、さらに加速されてきた。急速に少子化が進行し、100年後に人口半減も予測されているこの国では、そろそろ、移民政策について国民的な議論をする時期にきている。少なくとも、姿、形が異なり、物の考え方も異なる外国人がクラスに多くいることが当たり前になれば、同質人間も少なくなっていくだろう。
 
(3)シニアを尊敬し、彼らから学ぶという気持が希薄であること
 核家族化の急速な進展のもとで、都市に住む大多数の家族では、両親の父母と同居することがほとんどなくなっており、シニアと付き合うこと自体が稀な経験になっている。そのため、同居する祖父母に幼い頃から面倒を見てもらっていれば理屈を超えて湧いてくる肉親の情や親近感も、もてないまま成長してしまう。そうした子供たちにとって、多くの老人は動きの鈍いどんくさい存在に見えてしまいとても尊敬の対象にはならないのだろう。
 もっとも、尊敬されていないのは、父親も同様である。サラリーマンの仕事の大変さは家の外の世界に属し、家庭でその実態を垣間見ることは難しい。そうなると、家で疲れて寝ころがり、テレビの野球中継にしか興味を示さないように見受けられる父親が尊敬される訳がない。
 もし、子供たちが農家や商家に育ち、日々家業に従事する両親や祖父母を見て育っていれば、事情はまったく異なっていただろう。手伝いを通じて、シニアのプロフェッショナルとしての圧倒的な技量が伝わるからである。
 そのような場が不足している現状では、地域に伝わる伝統的な芸能、技能、遊びなどを伝えるために、機会を捉えて子供とシニアの接点を増やし、具体的な触れ合いを通じて、両者の関係をより良いものにしていく取り組みが求められる。
 
(4)自然に生かされているという認識の弱さ
 都市に生まれ育ち、都市の人工環境のもとに庇護されている多くの子供たちが、自然の驚異も、脅威も、脆弱さも、大いなる恵みも知らないのは当たり前である。世代で見れば、団塊ジュニア以降の世代では、自然や田舎を知らない人が圧倒的である。
 そのため、自然が大事だとか、エコロジーの時代だとかいわれても、観念のレベルで生半可にしか理解できないから、結局、日々の利便性を優先した生活行動をとる。そのことが、環境破壊に結びつくことになる。
 食に関する常識のなさも問題である。まず殺生というコンセプトが理解されていない。この世に存在する命あるものを頂いて、自分が生かされているという認識がない。だからクジラの捕獲には可哀相だと反対するくせに牛や豚、鶏の肉は平気で食べている。まったく、創造力が欠如しているとしかいいようがない。
 さらに「地産地消」とか、「身土不二」のコンセプトもない。食は、周りに存在するコンビニ、ファーストフーズ、弁当屋やレストランに行けば何とでもなるし、食材はスーパーに並んでいるものをピックアップしてくれば良いと考えている。地域で採れた旬の食材のもつ圧倒的な美味しい味を知らないで過ごしてきたのである。
 われわれは、年間、数キログラムに及ぶ食品添加物を食べている。もちろん、農協経由で出荷される大多数の野菜は、大量の農薬を使用し、化学肥料で育てたものである。食の安全性がこれほど失われている環境のもとに生きているのに、そのことに無関心のままである。
 教育の根源が自力でサバイバルする能力を見つけさせることにあるとすれば、安全な食べ物を調達する能力を喪失している現状は由々しい時代だといわざるをえない。
 
(5)自分の生まれ育った場所への愛着のなさ
 都市化が進み、日本中、どこに行ってもミニ東京化している。その中で生まれ育った人々は皆共通に自分には故郷がないという。生まれ育った場所(都市)はどうやら故郷ではないらしい。自分の生まれ育った場所に愛着をもっていない人の大部分が、大都市に育ち、故郷がないと考える人たちらしい。
 コミュニティと断絶して、核家族のもとで育ち、孤独な1人の人間として、どこの都市でも共通に提供されている便利な施設やインフラを単なる機能として活用し、生きてきた都市住民にとって、たまたま住んでいただけでいつでも住み替え可能な場所という感覚しかない都市を愛するのは難しいことだろう。
 当然、自分の住んでいる場所を愛せない人間には、国も愛せないだろうから、政治家から見ると、愛国心のない人間が増えて困ったということになる。だからといって、教育基本法に国を愛することを明記したからといって、愛国者が増えることにはならないだろう。
 まず、地域ぐるみで子育てをするところからスタートし、コミュニティを復活する試みを重視すべきだろう。地域コミュニティに慈しまれて育った子供たちは、当然、地域が大好きになる。そうして、地域大好き人間が増えてくれば、他のかけがいのない地域も尊敬するから、その集合体としての国も好きになる。「はじめに国ありき」ではなく、「はじめに地域ありき」の地域主権社会を創ることが肝心なのである。
 
(6)社会的な存在としての感覚が希薄
 これは、前述した自然に生かされているという認識の弱さや、自分の生まれ育った場所への愛着のなさなどと一体になってもたらされている現象である。とりわけ、本格的なネットワーク化の拡大によって、バーチャルな世界に埋没する傾向が強まったことが、この現象を拡大させている。
 現場に出かけ、苦労して体得できる様々な知識が、あっという間にネットで入手できるようになってきた。本来、有用な旬の情報は、現場で最先端の取り組みをしている人間がもっているものであり、人と人との厳しい知的対決を通じて初めて獲得できるものである。
 ところが、バーチャルな形でリアルタイムに情報が入手できるようになると、そんな面倒くさいプロセスはショートカットされる。人と人との交流や現場での体験を伴わない情報は真偽の判断も難しい。そうなると風評によって意志決定が左右されやすくなり、社会は非常に不安定になる。
 また、若年層による殺人事件の増加も、簡単に殺し合う殺人ゲームが横行するネット上でのバーチャルな生活に子供たちが埋没している現状と密接に関係している現象である。これから、ますますインターネット化が進展し、放置すれば、バーチャル世界の捕らわれ人になる可能性が高くなるだけに、意図的にリアルの世界での体験や経験を組み込んだ子育てが求められてくるだろう。







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