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報告書
第1章 日台関係の強化はなぜ必要か
1. 台湾は世界17番目の経済大国
 21世紀の幕開けとともに世界は激動期に入った。米国は反テロ戦争を至上課題とし、先制攻撃を辞さないと公言している。欧州では共通通貨ユーロが生まれ、EU(欧州連合)は拡大を続けている。中国は雪崩のような貿易攻勢を世界中にかけている。この激動期において日本はどうすべきか、そして日台関係はどうあるべきなのか。
 日本および台湾に関しては大きな誤認がある。それは双方の実力が過小評価されていることである。
 冷戦時代において国家の実力を測る最大の物差しは軍事力であった。冷戦が終了した現在、国力を測る主要ファクターとして経済力の比重が著しく高まっている。
 日本のGDP(国内総生産)は2001年で4兆2000億ドル。これは中国、中東を含むアジア45カ国・地域の合計約4兆ドルを上回る経済力である(以下の数字はすべて共同通信社発行の世界年鑑2003年版による。数字は特に記さないものは2001年のものである)。つまり日本の経済力はアジアの他の国を合計したものより大きいのである。一方、人口2250万人の台湾のGDPは2812億ドル。これは人口2億1500万人を抱えるインドネシアのGDP1453億ドルの2倍近い。
 
《経済地図に見る台湾》
 われわれはふだん面積を中心に世界地図を見る。面積は不変だから一番簡単である。しかし、実際の世界は経済力を中心に動いている。経済力から見たアジア、その実体を示そうと試みたのが折込地図である。これを見れば経済超大国と言われ続けてきた日本は別格として、台湾はけっしてちっぽけな国ではないことがわかるだろう。つまりわれわれの台湾に対する認識は誤っているわけである。
 台湾の国土面積は3万6190平方キロメートル。日本の約10分の1で、中国の265分の1しかない。このため台湾を小国とする見方が普通である。だが、経済力で台湾を見た場合、がぜん経済大国としての存在を浮かび上がらせる。 台湾の2001年のGDPは2812億ドル。これを超える国は世界中で16カ国しかない。つまり台湾は世界約200カ国中17番目の経済大国ということになる。台湾より経済上位の国をGDP順にあげれば米国、日本、ドイツ、英国、フランス、中国、イタリア、カナダ、スペイン、メキシコ、ブラジル、インド、韓国、オランダ、オーストラリア、ロシア、そして台湾となる。台湾はかつての超大国ロシアと殆ど肩を並べる存在なのである。だが台湾は世界26カ国としか国交を持たず、世界の大半の国から国家として認められていない。
 台湾はすでに1人当たりGDPが1万2621ドルに達し、先進国の域に到達している。1人当たりのGDPで見た場合、人口100万人以下の小国や産油国を除いて、台湾は世界で20位となる。そしてアジアでは日本、香港、シンガポール、ブルネイ、マカオについで第6位。韓国の上である(章末のグラフ)。
 
2. 台湾は貿易大国である
 同様に台湾は貿易大国である。台湾の貿易額は2002年で2432億3000万ドル。うち輸出は1306億4000万ドル、輸入は1125億9000万ドルである。この貿易額は世界第16位である。世界最大の貿易大国は米国で総額1兆8701億ドル(2002年)である。台湾はオーストラリア(1272億ドル)、ブラジル(1138億ドル)の2倍の貿易額を持つ貿易大国といえる。中国の場合、貿易額は6208億ドルである(2002年。香港、マカオを除く)。つまり台湾の貿易総額は中国の貿易総額の39%を占める。これは非常に大きな数字といえるだろう。だが我々は、台湾に対して中国の4割も関心を持っているだろうか。
 台湾の貿易額で特に注目されるのは対日・対米貿易の比重の大きさである。対日は輸出入総額392億8168万ドル(全体比16.1%)、対米貿易は同374億3182万ドル(同15.3%)である。第3位の対中貿易は往復299億6300万ドル(13.0%)である。
 日中関係で見ると、日中貿易の総額は2002年で1019億ドルである。つまり日本と台湾の貿易総額は日中貿易総額の約4割になる。
 
3. 台湾は人口小国ではない
 台湾に対するもう一つの誤解に人口小国というのがある。台湾の人口は2250万人。これは世界約200カ国・地域のうち45位である。決して低いところにはいない。日本人は日本の人口1億2647万人、中国の人口12億7627万人を基準に世界を見がちだが、日本や中国は世界的にみると例外的に人口の多い国であることを忘れてはならない。
 世界を見ると人口が1000万人以下の国は結構多い。例えばスイスは723万人、イスラエルの人口はわずか645万人である。
 世界第45位の人口と世界第17位の経済力を誇る国家が国際的に認知されていないというのはどうみても不正常としかいいようがない。台湾はその実力に見合った扱いを国際社会から受けるべきであり、日本はそのための努力をすべきではないだろうか。
 
4. 「アジア連合」の時代を視野に
 21世紀の世界は地域連合の時代に入ったといわれる。その先端を切るEU(欧州連合)では共通通貨ユーロが誕生、EUの大統領も近く生まれる。EUは順調に拡大し、2004年には25カ国体制となる。また、南北アメリカでは米国が主導権を握る形でNAFTA(北米自由貿易協定)ができ、2005年にはFTAA(米州自由貿易地域)が生まれようとしている。
 地域連合のメリットは自由競争と相互補完作用によって経済が活性化し、1+1が3にも4にもなることである。
 アジアにおいても近い将来こうした動きが出て来るのは間違いない。アジアでは現在、まずFTA(自由貿易協定)が進められようとしている。しかし、最終的にはEUをまねたAU(アジア連合)が模索されるだろう。
 アジアでは唯一ASEAN(東南アジア諸国連合)が国家連合を目指して先行している。しかし、ASEANの経済力は10カ国のGDPを合わせても約5000億ドル。規模としては小さすぎる。 アジアでは将来ASEANと東アジアを一緒にしたアジア連合が模索されるものとみられる。東アジア+ASEANのGDPは17カ国・地域で約7兆ドル。EUのGDPは現在約8兆ドルで、十分EUに対抗できる力はある。日本も今後はこうした構想の中でないと生き延びてゆけないだろう。
 こうした中で、これまでの民族意識は変わらざるを得ない。欧州ではすでに欧州人としての意識が芽生え始めている。アジアにおいてもアジア人という意識が必要になってきている。そうなれば中国と台湾の両岸問題にも別な見方が必要となるかもしれない。
 
5. 台湾は「アジア連合」の重要な構成員である
 台湾は経済大国であるにもかかわらず政治的に孤立しているため多くの国際機構から無視されてきた。しかし今後、「アジア連合」を視野に入れるとGDP 2800億ドルの台湾を無視することはできない。台湾抜きでアジアの経済地図を描くことはナンセンスであるばかりか大きな損失になる。
 例えば 現在、台湾はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)には入っているがASEM(アジア欧州会議)やARF(ASEAN地域フォーラム)には入っていない。中国の横ヤリでWHO(世界保健機関)への正式加盟は認められていない。台湾のGDPはASEAN 10カ国合計の6割弱を占める。
 「アジア連合」を考える場合、やはり核となるのは日本、中国、韓国、台湾、香港の5カ国・地域である。この5カ国・地域の経済力はトータルとしてみれば欧州や米国と伍してゆけるだけのものを持ち始めている。台湾を無視した形でアジア連合を模索すれば最初から重要な一角が抜けた欠陥を持つ連合となるだろう。
 
6. 世界一の親日国・台湾は日本の精神的財産である
 世界にはいくつかの親日国がある。例えばトルコ、フィンランドなどである。だが、日本に最も近く、日本人のことをよく知っている親日国は台湾を除いてはない。台湾は世界一の親日国である。
 台湾の親日感情は植民地時代における日本人の犠牲的貢献によるところが大きい。八田與一の例を待つまでもなく戦前、台湾の発展に生命を賭けた日本人は枚挙にいとまがない。
 しかし、日台関係の不正常が続いた結果、台湾の目は常に米国を見るようになった。いざという時、台湾が頼りにできるのは米国をおいてないからである。台湾は世界一の親日国から世界一の親米国に変わろうとしている。これは留学生の数をみれば一目瞭然である。台湾から世界各国に出ている留学生は最新の数字では約5万人。行き先は米国が1番で1万5000人、次いで英国が9000人となる。日本へはかつては約1万人の台湾人が留学していたが最近は約4000人と6割も減っている。そして40歳台で日本語がわかる人は非常に少なくなってきている。また、台湾における日本研究者が減少しているといわれる。日本は台湾からの留学生を増やす努力をもっと真剣にすべきである。
 
7. 日台断交がもたらしたもの
 日本と台湾は日中国交樹立に伴って1972年に断交した。この時、台湾人は「信頼していた友人(日本人)に突然、裏切られた」という感情を抱いたといわれる。確かに中華民国政府は「恨みに報いるに徳をもってする」の精神を発揮し、戦後中国大陸に取り残された約300万人という日本人の大半を無事日本に帰国させた。その日本が米国に先駆けて中国と国交を結んだのである。そして日本に続いて多くの先進国も台湾と断交した。
 断交後、米国や欧米各国は巧妙に「ふたまた外交」を展開、閣僚の訪問もそれなりに行われている。しかし、日本は全く中国一辺倒になり、台湾を見捨てるという形になった。
 経済はそれでも交流が続いている。問題は政治である。政治交流は日本が中国に遠慮して台湾を軽んじた結果、ほとんど進んでいない。閣僚の訪台は行われていないし、高級官僚の訪台もほとんど進んでいない。
 台湾が今、日本に一番望んでいるものは政治交流のレベルアップである。
 
8. 日本と台湾は運命共同体の海洋国家である
 日本も台湾も太平洋に浮かぶ島国である。当然、共通性も存在する。また、台湾は日本にとってシーレーンの確保という面でも重要である。
 地政学的に見た場合、太平洋の島々は日本列島から台湾、フィリピン、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランド、タヒチ、ハワイとぐるりと太平洋を囲む形で存在している。そしてこの太平洋の覇権をめぐって日本と米国はかって戦争に突入した。第二次大戦後、この覇権は米国が握っている。中国はこれに異をとなえようとしているが、21世紀前半において米国が太平洋の覇権を放棄することは考えられない。太平洋を自由に航行できなくなると、米国にとっての世界戦略に障害が出るばかりか、この海の覇権を中国に握られることは大いなる勢力後退を意味するからである。そして日本も台湾もこの米国の戦略を容認する運命共同体なのである。
 この問題は「アジア連合」の構想とバッティングするという人もいるかもしれない。しかし、EUの発展が米国の国益と必ずしも衝突しないと同じように、「アジア連合」ができたからといって、かならずしも米国と対立するわけではない。
 問題は中国である。中国が共産党一党独裁体制を放棄せず、米国と対立を続ける場合、アジアの海の覇権をめぐって米中が対決することもありうる。だが、中国もまた21世紀の課題として政治改革に取り組もうとしており、体制変化も予想される。
 アジアにEUのような国家連合が誕生するためには中国の脱共産主義が不可欠である。中国は現在、愛国主義で国をまとめている。だが、中国も21世紀においていつまでも共産主義の虚構のなかに留まることは許されない。
 中国が共産主義を放棄して民主化され、アジアに国家連合が生まれた場合、現在の両岸問題は解決に向かうとみられる。その場合、中国と台湾は別個の政治実体として国家連合に加わる可能性が見えてくる。
 台湾はこうした海洋国家の概念を先取りするかのように2003年9月、台北で民主太平洋大会を開催、環太平洋24の国と地域の代表を集めて大会を開き、民主太平洋宣言を行った。今後、こうした動きは加速されるものとみられる。
 
9. 台湾の対日不満に応えよう
 台湾は1972年の対日断交後、日本に対して強い不満を抱いてきた。その中には親日国であるがゆえの不満もある。われわれにとって必要なのは彼らの不満を取り除く努力を払うことである。
 台湾の現在最大の対日不満は日本の頑なな“親中姿勢”である。例えば日台断交後、台湾を訪問した日本の政府閣僚はいない。李登輝前総統の訪日問題でも、日本政府は中国に遠慮してなかなかビザ発給に踏み切れない。台湾と国交を持っていない欧米諸国は実にうまくやっている。これら諸国の多くの閣僚が訪台しているし、李前総統も比較的自由に欧米を訪問している。欧米にできて日本はなぜできないのだろうか。
 中国と台湾に関する日本のやり方はこれまで中国とは仲良くするが、台湾は冷たくあしらうという感じが余りにも強かった。だが、国際関係においてこのような単純な外交はプロの外交とはいえない。難しいなかにも対立する双方とも仲良くする方法を見つける努力が必要であろう。特に台湾は大変な親日国である。台湾の人々の気持ちを踏みにじることはすべきではないだろう。
 台湾人の日本に対する一つの強い要望に「中国と台湾を一緒くたにしないでほしい」ということがある。日本においては中華民国という表現は通常使われないが台湾という表現さえ許されないことがしばしばある。
 例えば外国人登録証明書における台湾人の「国籍等」欄は「中国」となっている。香港人は「香港」となっているのに台湾は「中国」に組み込まれているのである。こうしたことはすぐにでも改めるべきである。
 
10. 対中軟弱外交からの脱却を
 台湾は経済大国であり、貿易大国であり、世界一の親日国である。このような重要な国家が日本のすぐそばに存在している。これは日本にとってみれば大変な財産である。この財産をこれ以上無視することは国益の上からいっても、道義上からいっても許されないことである。
 日台関係の強化に抵抗する人はすぐ中国のことをいう。だが、その中国も日本の対応を半ば軽蔑しているという実態を忘れてはならないだろう。
 中国人は米国と本質的には対立しながら北朝鮮問題では米国にそれなりに協力する。「反日」を愛国主義発揚の一つの要素としながら日本に「日中友好」を強要する。ロシアには複雑な感情を持ちながら安全保障では協力し合う。中国人はしたたかである。中国人には、日本の頑なな台湾無視の姿勢は、子供じみてみえることであろう。
 中国は日本と台湾の特殊な関係をよく認識している。したがってもし日本が中国とも台湾とも仲良くする方針を打ち出しても決して驚きはしない。
 たとえば日本政府が李登輝氏の訪日について米国並みという方針を打ち出しても、中国の対抗措置は限られている。問題は断固とした姿勢を見せない日本政府の対応にある。外交において、時に強い態度を示すことが必要である。
 戦後の日本は中国にとって「軟土深耕作戦」の格好のターゲットであるといわれてきた。軟土深耕作戦とは「柔らかい土は深く掘れ」、つまり「弱腰になる相手には強硬策で行け」ということである。これは中国5000年の知恵である。
 日本外交にとって今、必要なことは軟弱外交をやめて、言うべきことはいう、行動すべきは行動する、という当たり前のことをすることではないだろうか。







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