日本財団 図書館


漁撈と魚の民俗分類・・・徐韶
 陸上の動物相がすくないために、ヤミ族は、台湾本島高砂族のように狩猟活動を行なっていなかった。主としてタロイモやサツマイモのイモ類と魚貝類を日常の食事としてきた。家畜としてヤギ・ブタ・ニワトリを飼育するが、それらを食用とするのは祝祭時に限られている。彼らの主要なタンパク質源の獲得は漁撈と採集によるものである。
 一九七七年筆者はヤミ族の物質文化について調査を行ったが、その際、男性が食べる魚を煮る土器(akoran(アコラン))、トビウオだけ煮るための土器(amogan(アモガン))など、土器にもヤミ族特有の区別があることを知った。さらに彼らと親しくなり、食事に招かれるようになって、数回にわたり、次のような体験をするに至った。主人が自ら煮た魚を分配するのだが、妻は分配された魚とタロイモを持って涼み台の隅に移り、そこで食事をしたのである。食事後その理由を尋ねたところ、彼女は「主人が悪い魚を食べていたので、その魚についている悪臭によって吐き気がした」のだと答えた、一方、主人の兄にあたる男性は、食後すぐ水で口を洗ったが、これにたいして彼女は「主人の兄さんは老人の魚を食べたので、口中に臭い匂いがする。だから口を洗ったのだ」と説明してくれた。
 こうした事例を通じて、ヤミ族にとって魚は単なるタンパク質供給源なのではなく、様々な文化的意味が付与された存在であるという示唆を受けた。
 
一、漁撈
 ヤミ族が利用している漁場は、島嶼の周囲の珊瑚裙礁の内外海域及び島嶼から四キロメートル程離れた小蘭嶼の周囲珊瑚礁の内外海域であり、日帰りができる範囲の近海漁撈である。各漁場は各部落が所有権を持つ。
 
(1)漁法
 
 彼らが使用している漁具・漁撈技術により、漁法を【A】から【F】の六カテゴリーに大別することができる。さらに漁撈を行う時間・場所により、五二種類の漁法に区別される。それらは、
 【A】かきおこし(九種)・・・sasagit(ササギット)という道具を使って、貝類・カニ類・ウニ類或いは海中の動きが鈍い魚を突きさす漁法である((1))。
 【B】採補漁(四種)・・・道具を使わず、手で海中或いは珊瑚磯の磯辺である水産物を採集する((2))。
 【C】素潜り漁(三種)・・・水中目がねをかけて、海中にもぐって、vovoya・mipaltog(ヴォヴォヤ・ミパルトッグ)という道具を使い海中のタコ類・魚を突きさす。
 【D】漁毒法・・・parangapang(パラガパン)という植物を使って、珊瑚礁の潮だまりの中にいる魚を麻痺させて採集する。また、タコ類ではparangapang(パラガパン)と呼ぶくすりを使用すると潮だまりからタコが飛び出してくるので、これを採捕する。
 【E】網漁(六種類)
 (1)掬網(五種)―網の形は袋に似ている。掬網の大きさと網目幅により五種類がある。それらは、vanaka(ヴアナカ)=夜間、海上でトビウオを捕るための掬網で、網目の幅は二本の指が入る大きさである((3))。aldok(アルドツク)=引潮時、珊瑚礁の磯の切り目に残っている魚を捕るための道具である。網目幅は三本の指が入る大きさである((4))。masunnaaldok(マスンナアルドック)とsahakeb(サハクッブ)という掬網はaldokと同じように珊瑚礁の磯の切り目にいる魚を捕るための道具である。前者の網目の幅は一本の指が入る大きさのもので、後者は約〇・五センチの網目幅の網に約〇・四センチ網目幅の網をつなげたものである。sagap(サガップ)―引潮時に、珊瑚礁の潮だまりにいる魚を捕るための掬網で、その網目幅約二センチである((5))。
 (2)投げ網(二種)―この道具はヤミ族にnanaoy(ナナオイ)と呼ばれている。網の形は長方形で、網の両側に付いている竹竿を持ち、口は網の真中に付いた石を噛み、網を折りかさねるようにし、波が磯辺へあがるのを見、漁師は海に向かって、全力で走りながら、噛んでいる網を放したり、両手で持っている竹棒をも海中になげだす。この漁法の主な獲物はilek(イルック)(クロダイ)である。というのはクロダイは磯に打ちあがる波にしたがって、磯に向って泳いでくる習性を持っているからだといわれている((6))。
 
(1)かきおこし
(manavassavat kisakan do mavekes)
 
(2)採捕漁
(mikararap a manakep so mikte a among do maep do kisakan)
 
(3)網漁[掬網]
(somoo do chinedkuran)
 
(4)網漁[掬網]
(magola so rawarawang do maep a mangap so among)
 
(5)網漁[掬網]
(managasagap do maraw do kisakan a liblibton so lilikey a lokton)
 
(6)投げ網
(nanaoy so amang do maep do kisakan)
 
 (3)追い込み網―大型網漁撈である。三〇〜五〇名或いは一〇〜一五名の漁師を集めて、一つの漁撈組合を作る、網の長さは約三〇メートルで、幅は約三〜四メートルで、網目の幅は約三・五センチである。漁師二人が舟に乗って網をpiselman do wawa(ピスルマン ド ワワ)という海域に設置し、他の漁師は「paktokto(パクトクト)」(竹製道具)を持って、泳ぎなから、「paktokto」で海水を打ちしかけて、また、口で「Vu Ya Vu Ya」と声をかけながら、海中の動きの悪い魚類を網の方に追い込む。この漁法を彼らは「mitawar do mapaktoktok do milumang so amang do lotelau do wawa(ミタワル ド マパクトクトクド ド ミルマン ソ アムン ド ロトロウ ド ワワ)」と呼んでいる。
 (4)建て網―二〜三名の漁師が小さいグループを作り、協同作業で行う漁法である。綱の長さは三〇メートルぐらいで、幅は二メートルで、網の目は約一〇・五センチである。漁師は夕方五時頃に、網を「do kalagarawan do wawa(ド カラグラワン ド ワワ)」海域に設置し、網の両側に付いているひもを漁場の岩にしっかり縛り、張っていく。深夜十二時頃あるいは翌日、朝四時か六時頃に、網を海中から引きあげる。彼らはこの漁法を「mapazat so tawar do makoyapab do wawa(マパラット ソ タワル ド マコヤパッブ ド ワワ)」と呼ぶ。
 (5)定置網―五〜六名の漁師が小さい網組合を作る。網の長さは二〜三メートルぐらいである。漁師は網を「do kalagarawan do wawa」海域の海底の大きい岩の上に円型に張る。漁師一名が「vovoya(ヴォヴォヤ)」あるいは「mipaltog(ミパルトッグ)」という道具を持って、海中の岩の上に巻き張った網の中に入り、網の中に入っている魚を突きさす。他の漁師は、網の外におり、逃げた魚を網の中に追い込む。この漁法は昼間の干潮時に行う漁法であり、「mitawar do mapaased so among do wawa(ミタワル ド マパスッル ソ アムン ド ワワ)」と呼ばれている。
 (6)敷き網―網の形は袋に似ている。「do kalagara wan do wawa」海域に砂質の海底を選び、漁場で大きい穴を掘って、「tor no tawar(トル ノ タワッル)」と呼ぶ網を穴に敷き、魚群が網に入ったら、網の口部をしっかり結び、そして網を引き上げる漁法である。この漁法は「mitawar do bonowa asa kaili do ke'ep kao bogavogan a among do maraw do wawa(ミタワッル ド ボノワ アサ カイリ ド クウップ カオ ボガヴォガン ア アムン ド マラウ ドワワ)」と呼ぶ。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION