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■近代の国立劇場構想
 これに対して、帝国劇場設立の特異性の背景は、言うまでもなく、近代日本の国家形成にともなうナショナリズムの発露にあった。帝国劇場は何故「帝国劇場」と名づけられたのか。その理由を読み解くことは、近代日本の劇場と国家、劇場と社会の関係の特異性を読み解くことでもある。帝国劇場を考える前提として、近代日本における国立劇場構想に言及しておこう。
 
帝国劇場大入口
[高畠華宵大正ロマン館提供]
 
帝国劇場内売店案内図
[江戸東京博物館蔵]
 
帝国劇場二階観覧席正面入口
[江戸東京博物館蔵]
 
 戦前、日本の劇場のすべては、私設劇場であった。その背景には、近世の劇場が神社の付設舞台を除いて私設劇場であり、明治維新後は、神社の付設舞台も、大規模なものは民間に経営が移ったことがある。
 明治維新後、維新の元勲たちは富国強兵と殖産典業に奔走し、西洋を見る視点もこれらに関することに集中していた。それでも、たとえば、右大臣岩倉具視を特命全権大使とし、それに木戸孝允、大久保利通、伊藤博文らが副使として加わったいわゆる岩倉使節団(一八七一〜一八七三年)においては、ロンドンの「劇場二十二箇所」に注目し、ヴェルサイユの「オペラ堂」に驚嘆した。また、ベルリン・ルストガーデンのオペラハウスに足を運んでいる。ただし、「オペラ」は「諸種ノ芝居中ニテ最上等ナルモノ猶我猿楽ノ如シ」というくらいの認識しかもっていなかった。







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