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設計技術
 大半の造船所が、船舶を建造する能力はあっても、設計能力を欠いている。小規模造船所では、マレイシア国内やシンガポールの設計会社から基本設計を購入するのが通例である。すなわち施工図面がないということであり、これが最終的な品質、建造期間、コストに跳ね返っている。
 施工図面があれば造船所はよりよい環境で部品を事前に加工し、取付けだけを船上で行うことができる。
 比較的大規模な造船所では自前の設計部門があって、タグ・タンカー、貨物船などの設計を行っている。Malaysia Shipyard And Engineering Sdn. Bhd.(MSE)やPSC-Naval Dockyard Sdn. Bhd.(PSC-ND)などは、先行投資をして造船専用の高度なコンピュータ設計・情報システムを開発し、それぞれTRIBON、FORANというシステムを使用しているが、他の造船所は大半がAUTOCADを利用している。
 自社内に設計部門を置くことが困難なのは、以下のような理由からである。
・経験豊富な人材の不足
・設計ツールと手法に継続的に投資して、グレードアップを図る必要性
・リピート受注の不足
・設計部門維持の高コスト
・造船所間の戦略的アライアンスの欠如
建造技術
 マレイシアの造船所は大半がブロック建造方式を採用している。しかしながらブロックの寸法と先行艤装の程度は、設備の整備状況に応じて造船所間でばらつきがある。この問題の解決も詳細設計図面がどの程度準備できるかに掛かっている。
 品質、精度、迅速性、コスト、ロスの削減などの面で改善を図るため、中大型造船所ではコンピュータ制御のNC工作機械を使用している。
 管部品の図面があれば、より高品質の管類を迅速に加工できる。中大型造船所ではパイプ巻枠の生産にソフトウェアや管曲げ機導入の設備投資を行っている。
 溶接技術も半自動溶接機やセラミック裏当ての使用により改善されている。
材料と支援産業
 造船所では必要な材料をすべて外部から調達するのが通例である。そのため価格、納期、品質の各面で適正なサプラィ・チェーンの整備が必須とされる。納期を厳守させることも、在庫を最小限度に抑えるために欠かせない(ジャストインタイム納品)。調達先が国内になくて他地域から調達すると、納期の遅れ、在庫肥大、輸送費の増大などの問題が生じる。これもまた、供給元との安定した関係を築く能力の問題である。
 現在国内で調達可能な品目やサービスは以下の通りである。
・ケーブル
・小型プロペラ鋳造
・室内調度品
・電気メッキ設備
・小型配電盤の製造
・塗料
・軟芯パネル材
・鋼板(寸法に制約あり)
・トイレ/洗面所ユニット
・亜鉛陽極
政府の支援策
 造船業育成の観点から、政府は産業マスター・プラン(IMP)に基づいて、以下の戦略を実行に移すタスク・フォースを発足させた。
・海運部門と新造船・修繕船部門の発展の調整を図る
・造船業の競争力強化のために合理化・統合計画を実施する
・造船業の発展を助けるために有効な技能・人材育成計画を策定する
・適切なインセンティブを導入して国内造船所に対する安定需要の醸成を図る
・生産性向上、生産コスト削減のために船舶設計の標準化を促進する
 以上の戦略に基づいて、同タスク・フォースは以下を検討、実行に移した。
・海事産業調整委員会の設置
 海運、造船は相互に関連する部門であるから、この委員会は海運、造船に関わりのある各種の政府機関相互間の円滑な調整を促進する。
・合理化と統合
 タスク・フォースは、外国造船所との熾烈な競争を克服するために、業界の合理化と統合の問題を検討した。その結果、同一地域内に立地する造船所が、効率化のために事業を互いに調整することを勧告した。タスク・フォースはまた、業界の合理化を促進するために、適切なインセンティブを検討、導入することも勧告した。
・市場の需要を刺激
 タスク・フォースは一定の範囲に含まれる船舶に対して輸入税を賦課するなど、各種の措置を検討した。また、船主と船舶運航者に、優遇利率での融資と、税制面での適切な優遇措置も提案している。
・コスト削減措置
 タスク・フォースはまた、国内船の設計標準化の欠如が国内新造船コストの上昇につながっていることを認識した。したがって、国内造船事業者は、設計標準化を促進するよう奨励されなければならない。
 コスト削減について、タスク・フォースはさらに、新造船および修繕船活動に使用する原材料と部品に対する輸入税を、政府が全面免除することを勧告している。
海事産業に対する金融
 海運・造船産業に提供されている各種の金融の便宜は、海事立国を志向するマレイシアの悲願にふさわしく、自国商船隊と造船業の能力拡充を狙ったものである。第1に高リスクから、第2に業界に対する理解の不足から、市中銀行の大半が船舶金融をためらっているために、資金不足を補う上で、Bank Industriが重要な役割を果たしてきた。同行は優遇金利での各種融資や融資関連援助と共に、ベンチャー・キャピタル投資を通じて、この役割を全うした。
 Bank Industriは資本集約的ハイテク産業を支援するために1979年に設立された。同行は当初、海運業に対するベンチャー投資に乗り出したが、やがて融資対象を拡大して造船業も含めることになった。1991年にBank Industriは、業界に対して総合的なサービスを提供することの重要性を認識し、海事関連産業に対する融資も開始した。
 2001年10月16日に、Bank Industriは総額10億リンギットのマレイシア海事金融基金を新たに設定した。
Bank Industriが提供する融資の種別
海運
・新船腹建造融資
・マレイシア国内建造
 国内船主が新造船をマレイシア国内造船所に発注するように奨励することを意図した、固定期間貸付制度。
・海外建造
 国内造船所が規模/技術能力の面で建造できないような場合には、Bank Industriは当該船主に建造資金を融資することができる。
・中古船金融
 国内船主が中古船(国内建造、国外建造を問わず)を取得する際に利用できる固定期間貸付制度。船齢は返済終了時に17年以下でなければならない。
・船舶運航資金リボルビング信用制度
 Bank Industriの既往の顧客が、持ち船の部品の定期的交換、入渠工事、経常的保守管理工事のために、運転資金を必要とする際に利用できる制度。
造船
・造船所資本支出支援
 国内造船所が新造船・修繕船工事の生産性と効率を向上できるように、また新機器の購入による造船所のインフラ整備を奨励するための制度。
・修繕船割引融資
 国内造船所が修繕船工事の受注を得られるように、Bank Industriは12ヵ月以内の期限でリボルビング方式により運転資金を貸し付ける。
・性能保証金
 この性能保証金の制度では、船舶または構造物の建造中および引渡し後特定の期間にわたり、その技術的性能についてBank Industriが造船所の保証人となる。
・契約入札補償金
 この制度を利用して国内事業者は、海外の応札者と競合し得る条件で、公示の入札に参加することができる。
・契約リボルビング信用制度
 Bank Industriでは、船舶または構造物の建造または製作期間中の資金繰りを助けるために、造船所にリボルビング信用を供与する。
将来へ向けての戦略
 マレイシアの造船業が将来にわたり活力ある産業として発展するためには、以下の面において対処を必要とする。
・先見的または積極的マーケティング慣行
・単なるサービス以上の価値を顧客に提供
・効率的、費用効果が高く、高品質で生産しやすい設計を生み出すため設計の改善
・人的資源の開発
・詳細な生産計画
・購買業務の改善
・船台の回転を高めるため建造期間の短縮
 政府はさらに、造船所、船主に好条件の金融、租税の減免、研究開発資金の提供などで役割を果たさなければならない。
 海運事業のグローバルな性格からして、造船業は常に外的要因に大きく左右されてきたが、貿易・軍事・政治面におけるその重要性は、論議の余地なく抜きんでている。







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