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セッション C. 情報
事例に学ぶスポーツNPOの情報活用手法
熊谷 建志氏(BSP International Corp Development Engineer)
松本 直也氏(青空サッカープロジェクト 代表)
コーディネーター:松澤 淳子(NPO法人 クラブネッツ 副理事長)
 
松澤 本日はこのセッションにお集まりいただきありがとうございました。
 情報には、ウェブだけではなくて紙媒体もあって、それぞれ特長があります。なぜこのセッションで特にウェブを採り上げたかというと、急速なパソコンの普及があるからです。事業所では95%、全体でみても6割普及しております。インターネットにつながっているということでは携帯電話も含めればかなりの比率で、そういった急速な環境の変化が起こっています。
 NPOとの関係を考えてみても、5年前にNPO法が施行された後とこの情報化の伸びとはパラレルな関係があって、おそらくナレッジ・マネジメントのツールとしても非常に有効なのではないかという面もあります。これからの情報のあり方や具体的な活用方法をみなさんと考えて参りたいと思います。
 
「情報」と「情報利用」
熊谷 こんにちは、熊谷と申します。私は、本業はパッケージソフトを開発するプログラマーであり、システムエンジニアです。実は、5年ほど前に、NPO法人クラブネッツのウェブサイト開発に携わったという経験があります。
 まず、情報というものについて考えてみたいと思います。自分の立場では二つにとらえて考えることができると思ったのです。
 そのうちの一つが、数量など意味を持たない記号のメッセージとしての情報がある。コンピューターの中で使われているコードの世界でもあります。もう一つは、意味を持つコミュニケーションの媒体としての情報。受信者へ何かの理解を促したり、期待したりする、そういう表現についての情報というもの、人間のコミュニケーションのための情報があると思います。現代の情報化社会の言葉で指すものというのは偏っていると思います。記号を送るシステムの上で人間のコミュニケーションを行っている。
 では、情報の利用とはどんなものなのだろうか。情報受信より得た刺激からある行動を動機付けるための行為、つまり、何らかの外部からの刺激で私たちは何かを理解しようとしたり、判断したり、決断しようとしたりする。
 具体的にどんな要素に影響を受けているのか考えますと、三つあります。一つは、情報を理解するための背景があります。性別、年齢、国籍などの属性、あるいは社会や文化的背景があります。もう一つが、情報を解読するための手順です。情報の作り手の文脈に添って情報を消化している場合と、欲しい情報を取りに行くという場合があります。三つ目に、送られてくる情報、あるいはこちらから送る情報の表現方法。これまでは文章が多かったのですが、最近は技術の発展でインターネットでも動画などの画像が送れる。いろいろなかたちで送られてくる情報を表現の種類によって取り方を考えたり、それによって刺激を得たりします。
 
利用者よる情報システムの意外な使われ方
 アメリカでは、1800年代の終わりぐらいまでは電信事業が企業から家庭まで整備されていました。1900年代の初期に、電話のサービスが始まるわけです。供給側は「これは電信に代わるシステムだ」と考えたのです。業務用のメッセージを声で送るシステムに変わったのだと。ところが実際に電話は、雑談によるコミュニケーションのほうがすごく増えたのです。たわいのないおしゃべりや、隣に住んでいても電話を使ってずっと話したりする。最初は無駄なことと思ったが、後から、電話はおしゃべりにいい手段だと考えるようになった。
 こういう経緯から考えますと、利用者が読み取る設計者が知らないシステムの利点は絶対出てくるのです。相手がいなくても相手に情報が伝わるというものが設計の時であったのに、利用したら、相手が見えないが故に伝えることができる面白みがある情報があるという、そういうものに気付いたのです。
 こういうことが何で起こるかというと、「システムがもたらす情報に可塑性がある」ということ、自由に使える面があるということです。物理的な形状がありませんので、例えば、こちらからある人に手紙を送ったら、そのままの手紙が必ず届くとは限らない、あるいは、その文面を読んだら同じように理解してくれるとは限らないのです。情報には非常に柔軟な要素があるのです。
 
情報の「可塑性」と「双方向性」
 例えば、橋やダムを開発したり、普通の建築物を開発したりしている所を考えてみますと、体系化された開発があって、ある目的があって、設計があって、その通りに進めていく。意思の疎通はトップダウンであり、そういう流れになると開発途中での立ち返りが非常に難しくなるという性質があります。
 それに対して、ソフトウエアの開発は、一つ一つのパーツを断片的に作ったりする。ある細かい機能に対して合意がなされた、そういうのをどんどん組み合わせていきますので、ボトムアップ的な感覚で作ることができる。開発が途中で立ち返りすること可能である。ソフトウエアの世界で非常に有名な学者の論文の中では「伽藍とバザール」という対置の仕方をしています。
 
 
 つまり、情報というのは、情報の交換を活性化すること自体、価値があるという考え方なのです。そう考えますと、情報というのは、さきほどの「可塑性」に加えて「双方向性」が非常に重要な要素になるのです。
 
「入り口」のある情報発信
 出口で終わる情報というのは、報告で終わっている、あるいは、情報自体が既に完成品として捉えられている情報です。自己完結の情報を出している、その情報が行き止まりになる、ある特定の人だけにしか配信されていない、広がりのない非常に狭い世界の中で既に終わっている情報を発信している。
 それに対して、「入り口」のある情報というのは、何かに対して問い掛けている、出しているものが未完成である、何かに行くための道程の上にある、広がりがある、不特定の受信者、全然関係のない人でも見ることができる、という情報のことです。情報発信は基本的に後者のように考えていくべきだと思います。
 
ソフトやプログラムの公開と共有
 「Only One」よりも「For Everyone」。ビジネスの世界ではオンリーワンというのは重要な考え方ですが、ネットワークを積極的に使ってそれを公開したいという世界では、どんどん共有できるようにする、広げることができる、そういうシステムを初めに用意しておくという必要があるのです。私たちの業界では「コピーレフト」(緩やかな著作権)という言い方をしています。
 コンピューターのプログラムの世界でいきますと、大学とか有志の優秀なプログラムの人たちが集まって、「こういうプログラムがあります。何か使えそうだったらどんどん使ってください」と、倫理に添わない使い方をされない限りは自由に使ってOKです。プログラムを使う文化を広げようとしている、そういう考え方があります。
 再利用ができたり改変が可能だったり、そのような情報がもし皆さんの中にあったら、あるルールにのっとっている限りにおいて広く利用してもらう。自分たちの活動に影響がないのだったらどんどん出すべきなのではないかと思います。
 
「顔」の見える情報
 「透明性」がある情報であることも大事です。情報というのは必ずしも何かが事実であるというわけではないのです。受ける人がそれを事実だというふうに受け取るかどうかというのは分からないのです。そのときに「これは事実なのだ。信じてくれ」といくら訴えかけても、言えば言うほど胡散(うさん)臭く思われてしまいます。
 「実はこうなのです。私たちはこういう者なのです。私たち、こういうふうに考えています」というような説明が重要なのです。ここでは「顔」(属性、思想、理念など)と考えていますけれども、信頼される方法は、ただ情報を出すのではなく、それ相応の説明や表現の方法があるということです。
 
「情報」のリサイクル
 情報を拾ったり捨てたりする技術が、これから皆さんが情報を使うにあたって重要になってくると思います。情報をどんどん捨てていけばいいのではなく、必要だと思ったときにすぐ取れるような状態になっている、そういう捨て方をする。情報にもリサイクルという考え方が必要になってくるのです。
 情報を発信する方では、最初から捨てられるような情報にならないように、捨てられてもまた拾いやすいような、そういう情報の発信の方法、そういうシステムの出し方があるのではないかと思っています。私たちの考え方の中にあるラインだけで話していますので、イメージが難しいところもあるかもしれませんが、以上です。
 
個人参加型サッカー
松本 はじめまして、松本と申します。府中でサッカーをやっています。「青空サッカープロジェクト」はクラブネッツのメーリングリストに自分のやりたいことを投げ掛けたところから始まりました。当時、悩んでいたことは「まずグラウンドが取れない。グラウンドが取れないとサッカーができない」とうことでした。神戸の蓮沼さんという方から「まずはできることからやりなさい。グラウンドではなくて人がいないのでしょう。人が集まるような場所、グラウンドじゃなくても河原でできるじゃない」というアドバイスをいただき、そこからスタートして今日に至っています。
 「青空サッカープロジェクト」自体に組織らしい組織はありません。今はウェブだけの運営になっています。始めの頃は「自分たちでサッカーをやる場所をみんなで作っていきましょう」ということを一生懸命呼びかけたのです。けれども、その一言で付いてきてくれる人は100人に1人ぐらいの割合です。2年間一緒にサッカーをやってきた人がやっと理解してくれる程度。そこで現在は、一時的に大変なときのみ協力をお願いできるような方々(青空サッカーの一部の常連さんや似たような事をしているグループの方々)と緩やかなネットワークを結んで運営を行っています。
 活動内容は、時間と場所を定めて、当日、集まった人でサッカーをする。これは「個人参加型サッカー」と呼ばれています。私たちの間では「青空サッカー」と呼んでいるのですけれども、その主催は「青空FC府中」という団体です。週に2カ所で実施しているのですが、場所ごとに責任者、進行役、道具、会場の確保、会計という役割があり、それを複数人体制でやっています。
 
WEBサイトの移り変わり
 「WEBサイトの移り変わり」を実際の活動と照らし合わせながら振り返ってみました。2001年5月から活動を始めて、残念なことに9月ごろに活動を休止しているのです。というのは、グラウンドに行ったら1人だったという単純な話です。これでしばらく人と話すのも嫌になるぐらい落ち込みましたが、同じ年の11月頃に活動を再開しました。ちょうどその頃、ウェブサイトを自分で作ってみました。
 2002年の4月に入って、ウェブ制作会社に勤務したこともあって、使えるアプリケーションがグレードアップしたのです。「ドリームウェーバー」というソフトを使ってリニューアルをしました。この頃メールマガジンも出していたのですが空振りでした。「携帯電話対応の参加申し込みシステムを導入」とありますが、要は掲示板です。今、フリーでいろいろあるので、自分たちの都合のいいようにカスタマイズし、どこからでも参加の申し込み、またはキャンセルができるようにしました。2003年の1月頃、リニューアルし、アクセス解析を始めるようになりました。再就職の前にもう一度リニューアルを掛けようと思ってやったのが現在のサイトになります。
 
スライド1
 
ウェブによるコミュニケーション・参加の活性化
 現在のサイトがアクセス解析の結果を参考に、どうやったら参加者が増えるかということを考え作り出した初めてのホームページになります。
 参加者で初めての人同士だと、どうしても物静かにプレーをしてしまうのです。そこに一石を投ずることはできないかと、コミュニケーションを活性化させるための企画ということで作ったのが「ツナガル人物帳」です。ナイスなネーミングかなと思うのですが、これは参加者のプロフィールに少し味付けをして、同じキーワードに引っかかった人同士を「ツナガル、ツナガル」というふうにどんどん結び付けていったのです。
 ウェブでは、活動の状況をリアルに伝えたり、どういう人たちが参加しているかを知ってもらったりすることが大事です。こうしたウェブの成果として、問い合わせの件数が減少しました。「私は初心者ですが大丈夫ですか」という問い合わせが一番多かった。「本当に大丈夫ですよ」と何度も言ってもそこが一番心配なのです。それに対して、活動の様子を撮った動画を流したり、「ツナガル人物帳」を作ったりしたことは効果がありました。







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