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ボーダレス・アートギャラリーNO-MA
近江八幡に誕生する
新しいアートの体温
2004年春、滋賀県近江八幡の古い町屋がギャラリーに生まれ変わり、いよいよオープンします。名前はボーダレス・アートギャラリーNO-MA。
 
 障害の有無を超え、作品を通して、人が持つ表現へのエネルギーや謎が交差する、ボーダレスなアートの場所をめざします。
 
 アート関係者、福祉現場スタッフ、学術研究者、行政が枠を超えアイデアを出し合って構想を練ってきました。
 ボーダレス・アートギャラリーNO-MAがどんな交信の場になってゆくのでしょう。一見、新しいアートとは無縁そうに見える、のんびりと流れるこの街の時間が、思いもかけない何かを育ててくれる・・・。そんな予感をはらみつつ。
 
 どんな夢もその空白を埋めてゆくのは、結局「人」です。
 
 
 
 
表現のルーツと出会えるところ
今井祝雄(造形作家・成安造形大学教授)
 
 私自身、いわゆるアウトサイダーアートに改めて関心を寄せることとなったのは、勤める大学の学生たちが、地元滋賀県下の障害者施設にアートサポーターとして参加するようになったことによる。そんな縁で、近江八幡に今春、開設予定の「ボーダレスアートギャラリーNO-MA」を立ち上げるための委員会の座長として、昨年から微力ながらお手伝いさせていただいている。
 どんなギャラリーにするのか、そのネーミングも含めて施設の望ましい指針をさぐるところから、大正期の町屋を改装する設計にいたるまで討議を重ねてきた。そこでアウトサイダーアートの成果を並べるだけなら、それらを逆に囲い込むことでしかない。そうではなくて、アウトサイダーアートを軸に広く表現の根源とふれあえる、開かれたアート現場に、という方向性が示された。
 そのひとつに、現代美術の先端的な表現者とのコラボレーションがある。昨秋、オープンに先立つプレイベントの第1弾では、改装前の同所において、音と光の2人のアーチストとアウトサイダーアートの絵、オブジェによる実験的展示が試みられた。
 続いて、ほど近いかわらミュージアムにおける県下の福祉施設でつくられた粘土造形の展覧会とシンポジウム、3月にはワークショップとトークの企画など盛りだくさんのこの1年であった。
 個人的には、私もメンバーであった今はない具体美術協会(通称グタイ)の拠点が明治期の商家の土蔵をリニューアルした美術館であったことや、そのグタイが芦屋における童美展という、とらわれのない子どもたちの造形表現に深く関わってきたことも、このたびのギャラリーづくりと何か通底している。
 ヒトはなぜ絵を描くのか?モノをつくるのか?その問いに障害の有無は存在しない。NO-MAがそんな表現のルーツと出会える場所となればいい。
 
「 の間」のゆめ
小暮宣雄(京都橘女子大学助教授)
 
 NO-MAの黄昏に、すわっていたい。
 NO-MAの縁側は、わたしのお尻とどんな会話を交わすだろう。夕焼が支配するあかね色のひととき。
 NO-MAから見える空は、どのようにして暮れていくだろう。昼と夜との間(あいだ)。太陽と月の間。家路へとつながる長い影。
 NO-MAの空気はだれの匂いを運んできてくれるのだろう。
 NO-MAで聴く近江八幡のざわめきは、ここにどのような音や声として届くのだろう。
 いまだないものを想いながら、かつてあったかも知れないものを捜す。
 未来が過去に混じり合い、滋賀の里に鳥たちが舞い降りる。
 
 里とアーツの間。社会と芸術の間。時代と芸術の間隙。実利と公益、実技と演技、実相と仮想、リアとバーチャル、仮構と記録・・・
 アーツマネジメントは、これらさまざまな「間」(隔たりと出会い)、そして「と」(傍らにいる伴走者)を巡る実践である。「間」というほどよい隙間をスキップし今に生かす「と」の営みである。生活と芸術を峻別する境界はすでに形骸化しつつも、いまだその間を生かす人たち、「と」に徹する黒子はあまりにも少ない。
 福祉とアーツ。この「と」という助詞に込められた思いをカタチにすることが、きっとNO-MAでのマネジメントなのだろうと思う。「と」という「傍ら性」に賭けたい。互いを行き来しつつどちらの間でもない放課後の楽しみ。黄昏にどきどきする道草の復権である。
 
 少し突飛な希望だけど、黄昏をじゅうぶんに味わったあと、さらに、NO-MAの夜明けをも体験したい。
 NO-MAでは、朝日がいちばんさきにどこを照らすのか。かつて野間さんたちが毎日そうしたように夜明けに目覚め、近江の朝を感じてみたい。NO-MAがかつてこの地域とともに24時間あったときと同じように、訪れる人たちがときにはここにおけるすべての時刻を呼吸できたらどんなに素晴らしいことだろうと夢想する。これは夢なのだが、そういうことまで夢見させるNOMA。
 それもこの「 の間」のちからなのだろうと思う。
 







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