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7. 拘留有りを特徴付ける要因
 図1、2の判別得点(Z値)毎の度数分布を見ると特徴的な事柄が見える。つまり、図1の拘留無し(グループ1)の分布では判別得点0.0以下に大多数が属するピークがあるが、良く見るとZ=2.0〜2.5に小さな山が見える。図2の拘留有り(グループ2)の分布でこの傾向は一層顕著に見られ、Z=-0.5付近をピークとする山と、Z=2.5付近をピークとする山の2つが存在する。これは、明らかにZ値が小(船舶状態良好)とZ値が大(船舶状態不良)とに性質の異なる集団が属していることを暗示している。その境界はZ=1.0付近にあることも図2から見られる。Z値の大きな集団を構成する特性は何であるかを実際のデータに当たって検討してみた。
 着目する特性としては、線型判別関数への寄与度の大きい、ship flagとShip age(船齢)を選んだ。まず、拘留有り(グループ2)に属するZ>1を構成するケースのship flag数を調べた結果以下の分布が得られた。
 
Z>1、拘留有り(グループ2)、Flag別の分布
カンボジア(431例、35%)、全体分布との比:7.1
北朝鮮(253例、20%)、全体分布との比:15.5
ベリーズ(199例、16%)、全体分布との比:5
パナマ(92例、7.4%)、全体分布との比:0.22
インドネシア(72例、5.8%)、全体分布との比:6.6
ベトナム(40例、3.2%)、全体分布との比:4.44
ホンジュラス(36例、2.9%)、全体分布との比:9.7
タイ(13例、1.0%)、全体分布との比:1.03
台湾(10例、0.8%)、全体分布との比:0.92
ロシア(7例、0.6%)、全体分布との比:0.23
Saint Vincent and the Grenadines(7例、0.6%)、全体分布との比:0.28
 
 上の表の結果の見方であるが、グループ2に属しZ>1と判定された全船舶のなかで、カンボジア船籍の船は431例あり、この集合の中の35%を占める。一方、カンボジア船籍の船は対象としたデータ32121ケース全体中において4.9%存在している。35%と4.9%の比7.1を全体分布との比として与えてある。この値から、Z>1におけるピークを特徴付ける“flag(船籍)”は北朝鮮、ホンジュラス、カンボジア、インドネシア、ベリーズ、ベトナムの順となっていることがわかる。
 
 同様に、拘留有り(グループ2)に属するZ>1を構成するケースの船齢別の分布を調べた結果以下の分布が得られた。
 
Z>1 拘留有り(グループ2)、船齢別の分布
41年以上 17例、1.37%、全体分布との比:10.5
36-40年 61例、4.9%、全体分布との比:7.42
31-35年 154面、12.4%、全分布との比:5.69
26-30年 214例、17.2%、全体分布との比:2.54
21-25年 349例、28.1%、全体分布との比:2.00
16-20年 313例、25.2%、全体分布との比:1.26
11-15年 111例、8.9%、全体分布との比:0.61
6-10年 17例、1.36%、全体分布との比:0.058
1-5年 4例、0.32%、全体分布との比:0.0177
 
 この表も、flagと同様な見方をする。つまり、41年以上の船齢の船舶が、グループ2に属しZ>1と判定された全船舶のなかで、17例あり、この集合の中の1.37%を占める。老朽船の数はもともと少ないが、全体分布との比は10.5となっている。船齢21年以上がZ>1におけるピークを特徴付けていることがわかる。
 以上の検討から、グループ2に属しZ>1と判定された船舶を特徴付ける要因は、船齢が21年以上か、北朝鮮、ホンジュラス、カンボジア、インドネシア、ベリーズ、ベトナムのいずれかの船籍かであると言える。逆に、この条件の船舶のみを検査するだけで、かなりの割合で拘留の可能性のある船舶を捕捉できるということになる。
 
 船舶の質は管理者に大きく依存することは直感的に理解しやすい。ISMコードに基づいたCompany(管理会社)の情報を解析に適用することの是非についても本調査研究会において検討された。解析を行うにあたっては、質の悪い船舶は頻繁に管理会社が変わることが多いといった問題、さらに、管理会社の情報がデータとして扱いにくい状態にあることも挙げられた。そこで、ここでは実際に予測に適用する場合、会社情報がどの程度有効であるかを検証することを目的として、既存のデータに簡単な処理を施して会社情報を抽出し、適用した。
 
 管理会社の情報はAPMIAS(Asia-Pacific Maritime Information and Advisory Services, ウラジオストック)のAPCIS(Asia Pacific Computerized Information System)より入手したデータにおいては、会社名が自由記述で記入されている。そのため、会社名の記載方法にばらつきが見られるので、2002年1月〜2003年8月までの32,121件のデータについて次のような処理を行って可能な限り統一を試みた。
・全て大文字表記にする
・“Co.”、“Ltd.”等は記載されているものと省略されているものがあるので、全て省略に統一
・連続するスペースを一スペースに変換し、コンマやピリオドの使用方法も統一
これらの処理を行うことで、表12のように表記の統一を行った。
 この処理の終了時点で拘留回数が5回以上の会社名について、手作業でスペルミスや表記のばらつきを統一し、最終的に得られたデータの中で拘留回数が6回以上の会社について拘留率を算出した。得られた拘留率を表13に示す。
 
表12 APCIS記載の会社名(処理前)と処理後の表記の例(2003年9月から最初の20件)
company(処理前) COMPANY(処理後)
WOOLIM SHIPPING CO., LTD WOOLIM SHIPPING
namsung shipping co.ltd NAMSUNG SHIPPING
WINLAND SHIPPING CO., LTD WINLAND SHIPPING
FAR-EASTERN REGIONAL HYDROMETEUROLOGJCAL RESEARCH INSTTIVTE FAR-EASTERN REGIONAL HYDROMETEUROLOGJCAL RESEARCH INSTTIVTE
ANGLO-EASTERN SHIP MANAGEMENT LTD ANGLO-EASTERN SHIP MANAGEMENT
LAURITZEN FLEET MANAGEMENT LAURITZEN FLEET MANAGEMENT
DILEKS CO.LTD DILEKS
RAINBOW MARITIME CO LTD RAINBOW MARITIME
NIEDERELBE SCHIFFAHRTSGESELLSCHAFT/ DONGNAMA SHIPPING NIEDERELBE SCHIFFAHRTSGESELLSCHAFT/ DONGNAMA SHIPPING
sunwoo shipping co .,ltd. SUNWOO SHIPPING
Keoyoung Shipping KEOYOUNG SHIPPING
HUIMING INTERNATIONAL SHIPPING CO., LTD HUIMING INTERNATIONAL SHIPPING
JIANGSU OCEAN SHIPPING CO. JIANGSU OCEAN SHIPPING
hanseatic shipping CO LTD HANSEATIC SHIPPING
Transocean Maritime Agencies TRANSOCEAN MARITIME AGENCIES
Evaland Shipping Co. S.A. EVALAND SHIPPING
ALPHA TANKERA & FREIGHTERS INTERNATIONAL LTD ALPHA TANKERA & FREIGHTERS INTERNATIONAL
TRI-MARINE SHIPPING CO. TRI-MARINE SHIPPING
ORIENT LINE CO. LTD. JAPAN ORIENT LINE JAPAN
HACHIUMA SREAMSHIP CO., LTD. HACHIUMA SREAMSHIP
 
表13 会社拘留率一覧
COMPANY detained not detained Rate
KOREA DAEHUNG TRANSPORTATION & TRADING 26 21 55%
ERICO SHIPPING 23 26 47%
YANTAI GOLDEN OCEAN SHIPPING 18 56 24%
KOREA ZUZAGBONG MARITIME 13 5 72%
KOREA 56 TRADING (JI SONG), DPR KOREA 12 3 80%
KOREA PAEKHO 7 TRADING 11 4 73%
KOREA DAEHUNG SHIPPING 11 1 92%
EVERGREEN MARINE (TAIWAN) 10 102 9%
EVER MARU SHIPPING 10 16 38%
SUNWOO SHIPPING 9 5 64%
KOREA TUMANGANG SHIPPING 8 4 67%
EAST INVESTMENT 8 8 50%
CYPRUS MARITIME 8 19 30%
S.K. MANAGEMENT 8 20 29%
NEW KAIDA SHIPPING 7 5 58%
YAN TAI YUANTONG SHIPPING 7 8 47%
WAN HAI LINES 7 126 5%
OCEAN INTER BUSINESS 7 25 22%
HUB MARINE PTE 6 21 22%
HARRY ENTERPRISES 6 6 50%
IRAN ISLAMIC REPUBLIC SHIPPING 6 26 19%
MARINE AGENCY ESCO 6 3 67%
KOREA SHIP MANAGEMENT 6 19 24%
KOREA SAMMA JOINT VENTURE 6 0 100%
SHIH WEI NAVIGATION 6 25 19%
ZODIAC MARITIME AGENCIES 6 145 4%
YUN XING SHIPPING 6 5 55%
KOREA NAMSAN SHIPPING 6 4 60%
YUAN DA SHIPPING 6 20 23%
COLUMBIA SHIP MANAGEMENT 6 91 6%
 
 会社拘留率を対応する会社に割り当てた後、判別分析を行った。独立変数に会社拘留率を追加した以外はこれまでと同様である。その結果、線型判別関数は、
 
Z = - 1.538 - 0.021・V8 + 0.019・V11 + 0.037・V23 ・・・(4)
 
変数 (F値):(標準偏回帰係数)
V23:Company(detention rate): % (78.2):(0.726)
V8:Class(detention rate): % (8.7):(0.242)
V11:Ship age : year (7.0):(0.163)
 
と得られた。式(4)の判別関数と比較して要素数が少なく、F値及び標準偏回帰係数の値から会社拘留率の寄与が大きいことが読み取れる。
 また、拘留有無の度数分布を図3に示す。図1、2の度数分布よりも、山の位置が大きくずれていることが読み取れる。
 
図3 会社拘留率を加味した場合の拘留なしグループ、拘留ありグループの度数分布
 
 
表14 会社拘留率を加味した場合のSPSSによる(拘留の有無)の判別分析結果
  Detention(Y/N) 予測グループ番号 合計
no yes  
元のデータ 度数 no 724 95 819
yes 116 159 275
  % no 88.4 11.6 100.0
yes 42.2 57.8 100.0
 
 多変量解析ソフトSPSSでは表14に示す判別結果を与えている。正答率を最大にする判定基準により、全正答率が80.7%と得られている。拘留可能性のある船舶の58%の捕捉に成功する結果となっている。
 
 そこで、線型判別関数を導出したデータ(2002年1月1日から2003年8月31日までの32121ケース)とは別個のデータ群(2003年9月1日〜12月4日の4985ケース)に対して(4)式の判別式を適用して検討した。ただし、会社拘留率の適用が行えたのは、218件(4.4%)であった。
 5節の議論でも示した様に、グループ2(拘留有)をいかに効率よく捕捉するかに着眼点があるので、判定基準値(Z)を順次変化させ、検査率・捕捉率への影響を調べた。







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