日本財団 図書館


2 講演論文の概要
 
2.1 基調講演4件
 MARSIMの主たる研究対象領域であるシミュレータ利用の研究と操縦性に関する研究の各分野を対象として基調講演が各2件づつ行われた。講演内容の概要を以下に示す。
(1)シミュレータ分野
Simulator Application:
IMSF会長 東京商船大学教授 小林弘明
 シミュレータの利用は近年著しく進展している。しかし,シミュレータの種類は多種多様であり,また利用の仕方についても統一的議論がなされないまま,利用の実態が先行している。本論では,シミュレータの本質が現実世界の再現機能に在ることを指摘し,シミュレータ活用の条件を論及している。シミュレータの利用には,海技者の能力育成,能力評価そして,航海環境評価,航海機器の開発における機能評価等,様々に利用されている。シミュレータを用いて実行される必然性は海技者の特性を反映する所にある。海技者の行動特性は与えられた情報や操船環境により決定する。これらの条件が再現されるかはシミュレータの機能に依存するところであり,シミュレータの機能評価の重要性がこの点より指摘されている。
New Technology on Marine Simulator:
Wismar工科大学(ドイツ)教授 Dr.Kund BENEDICT
 海事シミュレータの技術開発は新規の技術と利用者の要望により着実に進展している。シミュレータのための技術は近年のIT技術の発展にもとづいており,ハードをはじめとする広い範囲の技術に関係している。本論では特にビジュアル・ディスプレイ・システムの技術動向を紹介すると共に,近年船上機器として開発されているECDIS,AISそして航海支援機器の現状,シミュレータにおける操船シナリオの作成と評価用機器の現状等について紹介している。さらに,シミュレータの利用者の観点から,本論で紹介された現状の技術を有効に利用するための議論をしている。
(2)操縦性分野
Some Studies on Prediction for Ship Manoeuverability:
日本造船学会試験水槽委員会委員長
九州大学教授 貴島勝郎
 IMO基準を適用するにあたり,設計時において操縦性能をできる限り正確に推定し,評価しなければならない。数学モデルによる数値シミュレーションは性能の推定法として大変有効な方法である。数値シミュレーションを実行するにあたっては,操縦運動に関わる流体力微係数の推定が不可欠である。この論文では,高精度で船体運動を推定する方法に関する研究事例が示されている。主船体に作用する流体力の推定法としてSlender Body TheoryとCross flow Modelによる推定法が紹介されている。また,簡便な流体微係数の推定法とともに,zigzag testにおけるovershoot angleの推定式等が紹介されている。
Low Speed Manoeuvering Criteria: Some Consideration:
U.K British Maritime Technology Limited(イギリス)
Dr.Ian DAND
 現在のIMO基準は低速航行時の商船の操縦性能を対象としていない。さらに,水深や可航幅が制限された状況に関しても対象としていない。現IMO基準に関する議論の次には,制限水域における低速航行時の操縦性能基準が必要であると考えられる。制限水域条件下の性能把握は多くの困難を伴う事ではあるが,模型実験と数値計算を結合する事により実行できるとしている。そして,今後,制限水域における低速航行時の基準対象となる事項としては,船舶の形状についての事項,操船能力に関する事項と共に,制限水域における停止性能,横移動性能そして加速時の運動性能等が挙げられている。
 
写真5 基調講演の様子
 
(1)シミュレータ分野
 操船シミュレータに関係する論文はRoom Aで講演され,論文数は33編であった。21件は現在国際的に議論が行われているシミュレータを用いた訓練と海技者の能力査定および海技者のヒューマン・ファクターに関する論文であった。12件はシミュレータの新しいハードウェア構成とシミュレータを用いた環境評価に関する論文であった。講演者の国籍を表1に記載するが,12カ国に及び,多くの国において関心が高い事がうかがわれた。
(2)操縦性分野
 Room Cで講演され,論文集第3分冊に収録されている論文は35編である。研究対象に基づき論文内容を分類すると以下の通りである。9編が船体流体力あるいは船体操縦運動の推定法に関する研究であった。波浪中での操縦運動に関する研究は5件あり,浅水域の操縦運動推定が5件,船間干渉力の研究が6件あった。このほかCFDによる流体力の推定や各種船型に対する操縦性能の検討があった。
 
表1 シミュレータ分野(Room A)の発表内容
Country 訓練と能力評価・ヒューマンファクターの研究 ハードウェア構成と環境評価他
Canada 2  
China   2
Denmark 2  
Germany 1 1
Japan 9 2
Korea   1
Norway 2 2
Poland 1  
Sweden 1 1
The Netherlands 2 1
UK   1
USA 1 1
21 12
 
表2 操縦性分野(Room C)の発表内容
Country 船体流体力・船舶操縦運動
の推定法
波浪中での
操縦運動
浅水域での
操縦運動
船間干渉力 CFD・各種船型に対する
操縦性能の検討他
Belgium     1 1  
China         2
Germany 1   1   1
Italy 1        
Japan 3 2 1 2 7
Korea 2 1      
Poland   1      
Sweden 1     1  
UK 1 1   1  
USA     2 1  
9 5 5 6 10
 
表3 共通分野(Room B)の発表内容
Country 操縦性基準 船位制御・
針路制御
各種シミュレーションによる
支援設計
船舶運航支援システム 事故解析他
China   1      
Germany     1    
Japan 4 6 1 4  
Korea 3 1   1 1
Norway       1 1
Slovenia         1
The Netherlands 1     1  
UK 1   1    
USA   1 2   1
9 9 5 7 4
 
(3)共通分野
 Room Bで講演され,論文集第2分冊に収録されている論文は34編である。その内容は研究対象に基づき分類すると以下の通りである。9編は操縦性基準に関わる研究あるいは船体運動等の推定に関する研究である。同じく9件は船体あるいは海上構造物を対象とする針路制御,位置制御に関する論文である。7件の船舶運航支援システムに関する研究があり,各種シミュレーションによる設計支援の研究が5件あった。この他事故解析等の論文も少数ではあるが講演された。
 
 本会議三日目の午後,全ての一般講演の終了後Closing Sessionが実施された。IMSF会長によるClosing Remarksを以下に記載する。
 「今回の会議においては次の点が注目される。シミュレータ分野では多くのシミュレータ利用による海技者の教育訓練と海技者の能力評価に関する論文発表があった。さらにヒューマン・ファクターとしての海技者の特性を含むコントロールシステムの機能分析の研究が注目される。今日,高い技術を背景にして高度のシミュレータが開発されている。今回のMARSIMにおいては,高度のシミュレータを利用した船舶運航におけるヒューマン・ファクターと操縦支援装置を含む制御システムの研究が大変促進された。ヒューマン・ファクターの研究が進むことにより海技者の役割がより明らかとなり,安全なる船舶運航が実現されるであろう。
 一方,操縦性分野ではIMOの操縦性基準に関し多くの論文が発表された。今後,基準に関する議論とともに,浅水や狭水路などの制限水域における基準に関しても議論してゆく必要がある。また,ある論文では高速船に対する新しい基準の開発の必要性が指摘されている。特に,基準やガイドラインは海難事故の予防に有効である。別の項目として,高精度の操縦性能推定の必要性が指摘された。これに対してはCFDによる方法も提案されている。船に働く流体力をCFDにより推定する研究も進めてゆく必要があるであろう。
 以上の議論を通して,安全な船舶運航と事故の予防を目指すためには,船舶運航者,船主そして船舶設計者が情報交換をする必要があろう。」
 最後に,次回MARSIMの開催計画について紹介された。次回は2006年にオランダのTerschellingにあるMaritimeAcademy Willem Barentzで開催予定である事が紹介された。
 続いて,実行委員会並びに事務局を代表してMARSIM'03に参加された出席者に謝意が述べられた。
 
写真6 Accompany Person's Program
(加賀友禅着付け体験)
 







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION