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海のモンスター・ダイオウイカ
 
ダイオウイカ
 
 ダイオウイカは、無脊椎動物の中では最大の生物で、体長4-5m(外套(がいとう)膜と頭部・腕部を合わせた長さ)、体重百数十kgに達する海のモンスターです。人間の行っている漁業では、ほとんど漁獲されることはありませんが、たまに海岸などに漂着することがあります。そのような標本を基に、今までに、世界の各地から15−19種ほどのダイオウイカが報告されています。でも、それらの標本の多くは壊れていたり、巨大なため保存されているものもほとんどありません。そのため、ダイオウイカの分類にはまだまだ多くの混乱が残されていますし、ましてやその生態は謎につつまれています。
 
ダイオウイカ
 
ダイオウイカとマッコウクジラ
 
 マッコウクジラはよく知られているように、歯鯨(ハクジラ)類のなかで最大の鯨で、雄は体長16.5〜18m、雌は11〜13mに達します。寿命は雌雄(しゆう)とも70歳代のほぼ中頃と推定されています。世界の温・寒帯海域に広く分布し、北半球と南半球に独立した群が認められています。小笠原近海にも夏〜秋にマッコウクジラの群れがやってきます。潜水(せんすい)時間は強大な雄で、1時間以上に及び、水深2000m付近まで潜水できると推定されています。マッコウクジラの捕鯨が盛んに行われていたころに、マッコウクジラがなにを食べているかその胃内容物を調べたところ、そのほとんどが深い海にすむイカ類でダイオウイカもマッコウクジラの重要な餌であることが分かってきました。
 
マッコウクジラトとダイオウイカの戦い(想像図)
SPERM WHALE Physeter catodon (Linnaeus 1758)
IN BATTLE WITH
GIANT SQUIO Architeuthis dux. steenstrup 1851
 
日本近海のダイオウイカ
 
 今までに日本近海からは、アーキテウティス マールテンシとアーキテウティス ヤポニカの2種が報告されています。前種は1880年、江戸の博覧会に出展されていた巨大イカを基に、ドイツの博物学者ヒルゲンドルフにより報告されました。残念なことに標本は残っていませんし、いくつかの測定値と短い記載だけでは、この種を特定するのはほとんど不可能です。一方1895年、箕作(みつくり)・池田両博士は、同じ魚市場に水揚げされた外套長72cmの標本を基に、ダイオウイカの1種を詳しく報告しました。その報告から、1912年、ドイツの分類学者プェッファーが箕作と池田博士の標本をアーキテウティス ヤポニカと命名しました。その後、日本近海のダイオウイカはアーキテウティス ヤポニカ1種類と考えられてきました。
 
ダイオウイカを調べる
 
 博物館の展示のため、日本近海からダイオウイカ標本を集めることにしました。鳥取や島根県の日本海から数個体、小笠原からも数個体の標本を入手することができました。それらを調べてみると、日本近海のダイオウイカはすがたかたちの異なる3タイプにわけられることに気がつきました。しかし、標本数も少なく壊れていたりして、分類学的な形質を十分調べることが出来ませんでした。そこで、最近注目されている遺伝子(いでんし)を調べることにしました。その結果、遺伝子ではこれら3タイプの間にほとんど違いが認められず、すべて同一種である可能性の高いことが示されてしまいました。ただし、遺伝子の一部を調べただけで、同種と言い切ることはできません。まだ、日本近海に何種類のダイオウイカがいるのか結論は出ていません。
 
DNAの二重らせん構造
 
ダイオウイカ
 
深海にダイオウイカを探る
 
 海岸に打ち寄せられた瀕死(ひんし)のダイオウイカが観察されたことはありますが、生息域と考えられている深海で実際に泳いでいる姿は、未だ誰も見たことがありません。1997年に米国スミソニアン自然史博物館のローパー博士が中心となって、ニュージーランド沖で生きているダイオウイカを撮影しようとした大プロジェクトは、まったく成果が得られませんでした。これから行く小笠原近海はマッコウクジラの集まる海域です。この数年、小笠原父島南東海域で小型の水中デジタルカメラをマッコウクジラが潜水する深度まで降ろして、マッコウクジラが食べているイカ類を撮影しようと調査を続けていますが、なかなか思うような成果は得られていません。







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