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不景気の風が棲みつく橋の下 千葉 磯崎直信
 
橋は見た水を欲しがる生き地獄 広島 山本成男
 
記憶から被爆の橋が消え失せず 山口 重松 昇
 
逝った子がもどって来そう虹の橋 高知 有友喜子
 
ITの橋が渡れぬ老いの指 徳島 湯浅三子
 
点滴の針に生命の橋がある 新潟 小島 仁
 
忘却の海に架けたい母の橋 岐阜 田中美枝子
 
粛粛と介護の橋を渡る老い 大阪 河合時弘
 
川舟が首をすくめて通る橋 島根 細田盛人
 
仮橋のままのつきあいする団地 北海道 柴田睦郎
 
マウスクリック世界中にかかる橋 香川 新居弘美
 
砂場にも小さな夢の橋がある 長野 植田とみ子
 
歌詞にある橋まで足を伸ばす旅 栃木 武田正子
 
手を引いてくれる嬉しいかずら橋 福井 酒田うめの
 
落人の唄に揺れてるかずら橋 香川 藤村サダ子
 
橋上の風に虚勢を崩される 京都 木村良三
 
丸木橋覗けば民話泳いでる 和歌山 上野美枝子
 
スケッチの中の鉄橋歌い出す 沖縄 吉野綾子
 
春霞橋のむこうにある童話 長野 井出秀夫
 
術もなく飛んだ帽子を覗く橋 福岡 山崎すまこ
 
綾取りの橋へ脈打つ血の絆 岡山 藤原正秀
 
国境を抱えた橋の疲労感 神奈川 小泉正巳
 
橋渡り終われば既に過去の人 福岡 伊藤岳央
 
花揺れて命かよわす蝶の橋 香川 瀧井 勝
 
どれだけの橋を渡ってきた詩集 静岡 平野ふじ子
 
架け替えた橋が難所になるペダル 徳島 長井てい子
 
清流に憂さを忘れるかっぱ橋 香川 朝倉信子
 
履歴書の裏に伏せとく修羅の橋 広島 江川美栄
 
病院の窓にかけたい虹の橋 群馬 横尾孝之
 
神の橋渡る不遜なヒトゲノム 東京 小金沢綏子
 
二重橋庶民が渡る平和な日 長野 塚田素文
 
立ち退いた跡を貫く橋の脚 広島 岡田敏彦
 
開通の時はにぎやかだった橋 香川 河合美絵子
 
海またぐ橋が政治の裏を見せ 佐賀 仁部四郎
 
島に橋かかり朝刊朝に来る 広島 藤川幻詩
 
大橋に島の暮らしを変えられる 神奈川 横溝賢二
 
橋かかりお客取られる島の店 長崎 近藤利平
 
橋架けて夢の続きが重すぎる 京都 戸田伍郎
 
杖持って思案に余る歩道橋 福島 笹 一平
 
歩道橋見上げて老いの遠回り 大分 大戸江舟
 
人間が追い上げられる歩道橋 千葉 吉道正夫
 
流されて又架け替える夢の橋 東京 長瀬煕実
 
会者定離いつかひとりの橋に立つ 秋田 佐々木敏子
 
終章の橋は笑顔で渡り切る 山形 舟山智恵
 
たかがうどんされど讃岐へ橋渡る 兵庫 松浦大鷹
 
秀句
母の橋何度も揺れてまた許す 広島 白井ミツ子
 
一本の橋に人間変えられる 鳥取 八尾英夫
 
ふる里の橋はいつでも手をひろげ 岡山 山本ひさゑ
 
選者吟
もてなしのお茶いっぷくと通じ合う 大阪 田中新一
 
選評
 どんな課題についても言えることなのですが、橋と言えばすぐに虹の橋に飛びつくのではなくて虹の橋を捨てて作句する方が良いのではと思います。結果として虹の橋が必然となる場合、以前とは一味違った作品になると思うのです。橋をピントにするかヒントにするかでも作品の傾向が変わりますが、橋をイメージする時、こちら側とあちら側を結ぶもの、つまり人間と人間、あるいは目標とするものを結ぶものと考える方がイメージが広がると思います。
 同想句からの脱却は、作品の対象を出来るだけ自分に近づけることではないかとも思います。
田中新一
 
「瞳(ひとみ)」
東京 鈴木国松 選
自画像の瞳に今も責められる 岡山 木下草風
 
汚れなき瞳に瀬戸の空と海 新潟 岡田兎蒼
 
幼児へ瞳が笑う四人掛け 広島 江川美栄
 
あどけない瞳が図星つく怖さ 岡山 小賀幸仙
 
辛酸を舐めた夫婦の瞳が温い 岐阜 中島翠花
 
悲観論止そう新入児の瞳 愛媛 望月和美
 
真実は一つ子の瞳に光るもの 茨城 安 てるを
 
つぶらな瞳鬼千匹をなごませる 福島 玉木柳子
 
親友の才女ぶらない瞳の魅力 岡山 貞森南花
 
身ごもった嫁の瞳にある自信 香川 田中マスミ
 
片鱗を瞳の奥に愛子さま 愛媛 瀬野侑利子
 
背く日があると思えぬ児の瞳 長崎 近藤利平







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