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4 北九州港を取り巻く国際コンテナ港湾の動向
 
●九州における外貿コンテナ貨物
 九州では山口県も入れると、15ヶ所位国際コンテナ航路があるということですね。そのほとんどが韓国、そして中国もしくは東南アジアです。
 で、ここで、基礎需要、貨物がどういう状況かについて整理してみたいんですが、九州の各県において生産、消費されるコンテナ貨物は、輸出も輸入も3分の2が福岡県になっています。人口とかGDPの集中以上に、コンテナ貨物の生産、消費については福岡集中が著しいということです。例えば広島、仙台とか、他の中枢都市があるところで、そうなってるわけでもないので、これは九州の特徴だと思います。
 次に相手地域をみてみますと、輸入については中国の比率が高い。輸出の方はアジアもあるんですけど、欧米も半分位はあるという状況にあります。
 特に中国航路をみた時にですね、金額でみると輸出もたくさんあるんですけれど、これは高付加価値のものが多い。輸入というのは消費材的な、あるいは原料的な安いものが多いので、量的には輸出入のインバランスが起きています。つまり、中国から入ってくる方が多いということです。これがもし逆ですと、例えばトランシップする時に、日本からモノを輸出して帰りに荷を拾ってくるということが出来るので、コスト競争力が高まるんですが。
 
図8 九州における国際港湾の競争関係
 
 一方で日本はどんどん産業を高付加価値化していかないと生き残れないので、輸出貨物のボリュームが大きくなる要素というのはあまりないと思いますので、輸出入のインバランスということが、ひとつのネックになってるということはあると思います。
 次に九州で生産、消費される貨物がどこの港を経由しているかということですか、輸出で8割、輸入で8割位は博多プラス北九州で取り扱われている。比率が低いのは地理的に遠い宮崎、鹿児島ですね。この貨物はむしろ阪神に行ってるケース、あるいは自分の港で取り扱って、日本の他の港に経由しないケースが多くなっているので、博多と北九州をセットで考えた時の伸びしろとしては、南九州の方というのは開拓の余地はあると。それ以外はほぼ北部九州で扱っていますので、むしろ北九州港と博多港の競争の側面が強いということになると思います。特に輸出からいうと、博多の比率が高いということですね。
 
●九州における国際港湾の競争関係
 九州における国際港湾の競争関係を模式図(図8)にしてみました。北部九州対地方港、北九州対博多、地方港対地方港というのがあって、地方港発着の貨物というのは、阪神か釜山を経由していくというと、変な話ですけれど、敵の敵は味方みたいな関係があるということになってきます。その結果として、図8の上の三角形の競争というのが生じうるということになって、非常に輻輳的、多重的な競争関係があります。これからトランシップの貨物をとるという場合には、もっぱら海外の港と競争していくわけですけれども、同時にこういう、いろんな場面での競争がありうるということですね。
 
5 国際コンテナ港湾政策の変遷と現状
 
●国による国際コンテナ港湾配置政策の変換
 80年代後半は、地方港への分散化というのが積極的に進められた時代です。その結果、92、93年位から、95年の阪神・淡路大震災の時に、地方港の分散と共に、神戸を典型として、日本の主要港の競争力の低下ということが認識されるようになったわけです。それで日本全体で拠点港を強化しなきゃいけないということで、集中化の方向に政策転換しました。97、98年位に一番進められたと思いますけれども、国際競争力の強化、あるいは財政状況がだんだん悪くなっていく中で、投資を効率化しなければいけないという意味からも集中化が進められたわけです。まさに、震災のあった95年に中枢・中核港湾という言葉が出てまいりまして、全国的な配置構想、地方分散化とは違う見直しがされました。
 それがずっと基本線だったんですけれども、2002年にスーパー中枢港湾構想を国として出してきたということで、これは中枢港湾の中でも、さらにいくつか選んで、そこを強化していこうということで、集中化がより鮮明になったと思います。
 
●わが国の国際コンテナ港湾「強化」政策の変遷
 まず、85年にプラザ合意があって一気に円高になって生産拠点が海外に出ていくと共に、安いものが海外からどんどん入ってくるということで、貨物量としては、輸出型だったものが輸入超過型に変わってきたということです。輸入貨物の場合には、港の蔵置期間が長くなるので、奥行きがあって大きなコンテナヤードを作らなきゃいけないと、あるいはその後ろにそれを保管したり荷捌きするようなターミナルを作らなきゃいけないと、こういうことが進められました。
 90年代後半、船型の大型化というのが顕著になってきまして、6千TEU、7千TEUと積めるような超大型のコンテナ船が登場するにいたりまして、15〜16mクラスの大水深のバースを作らなきゃいけないということになってきた。これは今は、概ね拠点的な港については整備されつつあるという状況になっています。
 一方、この時期になるとハードは大体一巡している中で、ソフト面にも注目が集まってきて、施設の未整備だけが問題ではないと強く認識されるようになりました。サービス水準、コストも含めて、国際的な標準を満たさなきゃいけない。具体的には、日曜や夜は休むということは駄目だよということで、フルオープン化ということが言われて、元日を除けば毎日やりますという形になってきています。
 それから、後は手続き的な部分で、情報化が遅れをとったということと、情報化が個別に進められたということで、それをワンストップサービス(シングルウィンドウ・システム)ということで統合・接続していこうということも、大分進みつつあるという状況です。
 さらに、最初の方で申しあげたスーパー中枢港湾という中ではですね、日本のハードやソフトをしっかりしていくということに加えて、海外は巨大なコンテナターミナルを運営する超大型のターミナルオペレーターが、非常にスケールメリットを追求している。それに対抗できるような、民間のターミナルオペレーターを育成していかなきゃいけないということが、今は強く認識されているということだと思います。北九州でひびきコンテナターミナルをPFI方式でやるというのも、この方向に沿ってるものだと思いますけれども、大きく言えばハードからソフトの方に重点が移ってきて、さらに海外の港との関係で捉えるという視点がより強まってきているという動きになっていると思います。
 
 
●スーパー中枢港湾構想の考え方
 国の全体の実現目標としては、ターミナルの運営に際してコストは3割下げましょうと、それからリードタイムは港に入ってから出ていくまで、今は3〜4日かかっているのを、1日でしましょうということです。
 それを実現するために、施策としては4つほどあげられています。(1)世界水準の港湾サービス。これは先程申しあげたような、ITの部分ですとか、利便性の部分を上げていこうと。(2)コスト競争力を海外に負けないレベルにもっていこう。(3)先程申しあげたターミナルのオペレーターを民間に、経営的なセンスで運営してもらうために、その環境を国側として整えていきましょう。(4)臨海部ロジスティクスハブ。国境の壁というのが限りなく低くなってきて、産業活動が国際的に展開されてるわけで、国内と海外を一体として捉えられるような、企業のロジスティクスを支えるような拠点がいるだろうということです。もうひとつの意味は、港を通った後の荷物を捌く場所として、港湾が避けられるという傾向があったわけです。例えばコストが高いとか、いろんな制約があって、それが背後も含めた港全体としては効率的ではない、つまり足がなくなってしまうことですから、そこを一体的にやることで、もっと効率化ができるんじゃないかという反省に立ってですね、こういう物流拠点の機能をセットで考えていくということが出されてきていると思います。
 
図9 スーパー中枢港湾候補のテーマ性
  京浜港 名古屋港 阪神港 北部九州
港湾構造改革
モデルの類型
広域連携・大規模ターミナル形成・競争モデル 輸出産業SCM支援モデル 広域連携・リージョナルハブ形成モデル アジアハブチャレンジャーモデル
アジアのハブ港
との競合
独立性大                                 競合性大      積極的競争
貨物の性格 ローカル貨物依存度大                                 中継貨物依存度大
港湾の性格 大規模経済集積を背景としたゲートウェイ港湾 輸出産業の集積を背景としたゲートウェイ港湾 ゲートウェイ・国際・国内中継港湾 国際中継港湾
行政・経営上
の課題
重複投資の排除等 臨海部におけるロジスティクス産業集積の促進 重複投資の排除等 基幹・フィーダー航路の集積促進
 
●スーパー中枢港湾候補のテーマ性
 そういうスーパー中枢港湾の中で、当初のエントリーの後、今は京浜港、名古屋港、阪神港、北部九州と、こういう整理になっていまして、この中で阪神港は大阪、神戸が共同提案しています。それに対して北部九州は北九州と博多が、京浜港は横浜、東京が、それぞれ独立して提案をしています。
 北部九州のテーマ性についてみてみますと、このスーパー中枢で掲げている目標というのは大変高くて、九州の貨物を全部集めるというレベルではなくて、海外の主要港と競争するということですので、これは九州の発着貨物だけではなくて、中国から出てくるたくさんのトランシップ貨物を取り込まなければいけないということで、積極的に競争してこれをとりにいくという位置づけがされています。また、その課題としては基幹航路、フィーダー航路の集積を促進していくということですね。まず航路網を持たないといけないだろうということです。
 
図10 国内集約機能の可能性
*国内発着貨物量の見通し
→年平均伸び率は4.1%(〜'07)〜5.5%('07〜'12)
(単位:万TEU)
  港湾の開発、利用及び保全
並びに開発保全航路の開発に
関する基本方針(2000年)  
交通政策審議会港湾分科会
第3回物流・産業部会資料(2002年)  
1999年 2010年 2015年 2000年 2007年 2012年
全国 1,155 1,800 2,200 1,266 1,680 2,200
中枢国際港湾 1,030 1,500 - 1,121 1,450 1,850
北部九州 80 150 - - - -
 
6 国際コンテナ港湾としての北九州港の発展方策
 
●国内集約機能の可能性
 国内発着貨物量の見通しを見てみますと、2000年の全国のコンテナ取扱量の1300万TEUが、2012年に2200万TEU位になるということです。年平均でいうと、4〜6%で伸びていくだろうという見通しになっています。
 また、日本全体の輸出入貨物量、あるいは国内の貨物量というのは、ほとんど将来的には横ばいという見通しがされています。その中で、コンテナ貨物と国際航空貨物、この2つは海外との関係がより密接になってくるため、増加するという見通しがされて、現に今、増加基調にあるわけです。ですから、港全体の中では、コンテナというのは大きな伸びが期待されていて、これをしっかり取り込んでいくということで、一定の増加は期待できるということです。
 さらに北九州港で考えた時には、現状でもアジア各地との航路網が発達していることからもわかるように、経済的には他の地域ブロックと比べればアジアとの結びつきが強いわけで、これを港湾の政策ではなく、産業政策、経済政策として、より促進していくことで、先程の全国の4〜6%の伸びよりは高い伸びが、達成される可能性があると思われます。
 さらにハブ港の機能である基幹航路が充実してくれば、現在は、韓国航路をフィーダーとして使って、九州以外も含めて日本の地方の貨物が韓国経由になってるわけですが、これが、例えば日本海側から北九州に繋がるフィーダー網が出来れば、今より広域的に、国内のトランシップ貨物を集約できる可能性があるということです。
 
●国内集約機能の強化に向けた課題
 足元の国内集約機能を強化していくための課題ということで考えてみますと、まず、北九州・博多以外の所から出てくる、あるいは輸入される貨物をうまくもってくるためには、国内のフィーダー輸送を、これは鉄道とか道路の輸送も含めてですけれども、うまく繋ぐことができるかどうか。ここは、韓国経由と比べてコスト的に見劣りしないということが重要になってきますので、相当効率化をしなければいけないわけです。
 それから博多との関係をどう捉えるかですね。国際トランシップについては、新しく取ってくる部分ですから、取ったから相手が減るということはないわけなんですけれども、国内の貨物については、基本的に競争関係にあることは間違いないわけで、その中でどういう連携の余地があるかということですね。ここは従来からも大きな課題だと思います。とはいえ、基本的には競争関係の中で、博多に対してどういう競争力の強化が、北九州港としてできるのかということになってくると思います。
 それからもうひとつは、産業政策・物流政策との連携。これは先程も申しあげたように、そもそも港というのは基本的にはモノがあれば船はくるわけで、背後の地域の貨物量が多ければ当然有利なわけですから、貨物量が増えるような、要するに港湾の政策と産業政策がうまく連携していくということが重要だと思います。
 さらに産業というのは、生産の部分だけではなくて、国際的な企業活動を支えるという意味で物流政策も当然入ってきますので、そこも含めた広い意味での産業政策との連携というのが、欠かせないと思います。
 
図11 国際積換機能の可能性
        *東アジアトランシップ貨物量の見通し
         →年間100万TEU程度の増加
資料)国土交通省
 
●国際積換機能の可能性
 次に国際トランシップ貨物を取ってくる可能性について考えてみたいと思います。国のまとめているデータでみますと、2000年から2011年までに、東アジア、主に中国で発生するトランシップ貨物というのは、約1500万TEUも増えるということです。
 10年ちょっとの間で1千万TEU以上の貨物が出てくる。年間にすれば百万TEU位増えるという換算になる。これをどれ位取れるか。1割でも取れれば10年間で百万増えるわけで、先程のハブポート構想の目標である150万と現状の30数万の差分くらいは、十分達成できるということになってくるわけです。
 それを本当に取ってこれるかということですが、地理的な優位性ということを考えれば、京浜と阪神と比較して競争力はある。ただ、ほぼ同じ地理的条件にある釜山との競争が一番の条件になってきます。
 で、どういう可能性がありうるかということですが、まず基礎需要をみた場合には、韓国の場合には、基本的には一港集中政策です。韓国の輸出入貨物の大半が釜山にきています。日本でいえば東京と横浜を合わせたような状態になっているわけですから、まず基礎需要の部分で大きく差があるわけですね。さらに、トランシップ貨物を持ってくる時には、コスト勝負になってきますので、そこでも現状では差がある。
 それでも何か可能性があるのかということになってきます。これはもう数年前の出来事ですが、シンガポールのすぐ隣のマレーシアのタンジュンペレパス港に大きなターミナルが整備されて、アジアの中では割高になっていたシンガポールの料金に対して、ウチはもっと安いよということを提案したところ、MaerskとかEvergreenとか、こういう大きな会社が拠点をシンガポールからこっちに移してきました。
 
図12 アルヘシラス港(スペイン)、ジオイアタウロ港(イタリア)
 
 ですから、釜山のコストが今後どうなっていくかわかりませんが、あるいはストライキとか他の問題もあるかもしれませんので、何らかの理由で、釜山港を今使っている大手船社、メガキャリアが「釜山の他に北九州港が選択肢としてあるよ」と認めることで、誘致できる可能性はあるだろうと思います。
 ただし、シンガポールとマレーシアで比べればマレーシアの方が物価水準が低いですから、平均的な人件費も安いわけですね。人件費以外のコストも概ね安い中で、誘致に成功しているわけです。
 で、日本と韓国は逆の関係で、差が減ったとはいえ、日本の方がまだ通貨価値は高いわけですから、その中でコスト的に魅力ある提案をしなきゃいけないというのが、大きな課題なわけです。これを実現できるかどうかということになってくると思います。
 もうひとつ、マレーシアの場合にはマレーシア自身が家電の大きな生産拠点で貨物をいっぱい持っているということがあります。従来からのハブ港である香港、シンガポール、高雄、釜山も、積換で伸びてはいますけれども、その前提として東京、横浜、大阪、神戸位の背後地域の貨物量を持っていて欧米の航路もちゃんとついている、その上で積換の貨物を持ってきているわけですね。
 
 
 では、基礎需要が小さくて、基幹航路のない所で積換機能を持つことは可能かというと、多少の事例はあると。これは欧州ですが、地中海にあるアルヘシラス港とかジオイアタウロ港はほぼ9割以上がトランシップ貨物ということで生きています。つまり積換拠点として船社を誘致して、それに成功しているということです。
 この時に、ひとつ、ネックとなるのは、先程のタンジュンペレパスも含めて、どの港もコンテナ航路の要所にあるわけです。例えばアルヘシラスとジオイアタウロというのは地中海の真中にあるわけです。ですから、少し入り組んでいるフランス南岸とか、アドリア海の旧ユーゴ側の方、あるいは北アフリカ等にフィーダー輸送するのに非常にいい場所にあるわけです。それに比べれば、北九州、博多というのは、それほどの優位性にはいたってないと思います。
 
●国際積換機能の強化に向けた課題
 そういう中で、国際積換機能を強化するための課題ということで言いますと、ひとつはベースとなる基幹航路をひとつずつでも積み上げていって、最終的には阪神、釜山並に寄港頻度を高める必要があるということです。
 もうひとつは、先程のいくつかの積換港の例のように、大きな船社、あるいはアライアンスをどんどん誘致してくると。ただし、これは相当魅力的な提案が必要になってきます。基本的にはコストが安いことが、大きな要因になってきますので、北九州の中の各ターミナルの機能を集約化してスケールメリットを発揮していくということは、海外の大規模港湾と競争するためには、必要条件となっています。
 さらに、アジアの域内航路が充実しているとはいえ、それが響灘についていたり、太刀浦にあったり日明にあったりすれば、集約のメリットが薄れてしまうわけですから、その辺をどうしていくかというのも課題になってくると思います。







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