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Seminar of Marine Development
国際港湾の発展方策 北九州港を例として
 
(株)UFJ総合研究所 国土・地域政策部 主任研究員
原田昌彦
 
 
日時 平成15年11月28日
場所 ステーションホテル小倉
主催 (財)九州運輸振興センター
 
1 はじめに
 
 こんにちは、只今ご紹介いただきました、UFJ総合研究所の原田と申します。
 九州・山口地域の海事振興のためのセミナーということで、国際港湾の発展方策、北九州港を事例として、今まで私が調査で携わらせていただいたこと、あるいはそれ以外のことも含めて情報提供させていただいて、海事、港湾関係の取組みの参考にさせていただければというように思っております。
 
2 北九州港の現状とめざす方向性
 
●北九州港の現状
 まず、北九州港の現状ですが、皆さんご案内のとおり、太刀浦と日明に加えて、響灘も今、整備されています。特徴としてはPFI方式をとっているということ、大水深の岸壁をもつということで、現在整備中です。
 それから、コンテナ輸送というのは定期輸送の分野になりますので、当然定期航路網が重要なわけですが、北九州港は中国、韓国航路については多頻度で運航されていまして、国内でいえば京浜、阪神にほとんど引けを取らないレベルで、アジア域内の航路を持ってるということがいえると思います。一方で、基幹航路といわれる欧州航路、北米航路がないというのが、特徴だと思います。
 それからどれだけ荷物を運んでるかということなんですが、図1は北九州港の国際コンテナ取扱量の推移をみたものです。量的には80年代位から95年位までずっと増えています。80年代は神戸、大阪に内航フィーダーでもっていくという貨物が多かったわけで、フィーダー港だったわけですが、次第にダイレクトの比率を高めていって、フィーダー港からダイレクト港への転換というのは、ほぼ終わってる状況だと思われます。95年は震災があったので特異的な年だと思いますけれども、それ以降は40万TEU、20Fコンテナ換算で30万本台でほぼ横ばい状態です。
 
図1 北九州港の現状(国際コンテナ取扱量)
〜神戸のフィーダー港→ダイレクト化→伸び悩み〜
資料)北九州市港湾局
 
●博多港との比較
 博多港と比べてみると、博多港は国際コンテナ取扱量の本数ベースでは98年に北九州港を追い越しまして、以後もずっと増え続けています。
 航路網を比較してみますと、一番違うのは、北米航路と欧州航路が博多にはあるということですね。北米航路、欧州航路があるから差がついたのかどうかというのは、一概には言えないと思うんですが、ひとつの要因であるというのは間違いないと思います。
 それから施設面も比べますと、博多は先日、アイランドシティのひとつめがオープンしたということですので、どちらも大規模なターミナルを整備しつつあるという状況だと思います。
 
図2 博多港との比較(国際定期航路網)
〜欧米基幹航路を持つ博多港、アジア航路も充実〜
航路名  便数/月  航路名  便数/月 
北九州 博多 北九州 博多
中国 72 60 北米西岸 - 10
韓国 70 68 欧州 - 4
東南アジア 56 28 ニュージーランド 2 -
ロシア 1 - 南米 5 -
  合計 206 170
(2003年9月現在)
資料)北九州市港湾局、福岡市港湾局
 
●響灘環黄海圏ハブポート構想
 もうひとつ、北九州市さんは響灘環黄海圏ハブポート構想という方向性を出しています。これは、西日本や上海以北の環黄海から、北米・欧州向けのコンテナ貨物を集めていこうと、特に中国からアメリカに大量に輸出されている工業製品等を積み換える機能を狙っていこうという構想です。全体の目標としては2020年に年間150万TEUにしようと、これは現状が30万本台ですので、4〜5倍ですね。非常に大胆な目標設定をされています。
 その中で響灘のコンテナターミナルのメリットとして上げられているのが、(1)日本海に面しているという、京浜、阪神、名古屋とは違う特徴を持っているということ、(2)中国、韓国を中心に東アジア地域のネットワークを既に持ってるということ、(3)港湾の整備が容易であるということ、(4)背後に広い土地があるということが優位性としてあげられています。
 
図3 博多港との比較(コンテナターミナル)
〜両港とも大規模ターミナルの整備が進展中〜
  水深 岸壁延長 ターミナル クレーン数 方式
北九州港 太刀浦 -12m 480m 14.3ha 3基 公共
日明東 -12m 220m 3.5ha 2基 公共
(響灘西) -15m 700m 36ha 未定 PFI
博多港 箱崎ふ頭 -12m 240m 7.5ha 2基 公共
香椎パークポート -13m 600m 22.3ha 4基 公共
アイランドシティ1期 -14m 330m 14.7ha 3基 公共
資料)国土交通省、北九州市港湾局、福岡市港湾局
 
図4 響灘環黄海圏ハブポート構想
 
 図4は、それを絵で示したもので、上海は上海自体が整備が進んできて、ダイレクト化が進んでいますし、南の方は香港、深といった所がありますので、青島、大連、天津といった華北地域、北部をターゲットにしていこうと。北部は、港の整備が比較的遅れているといいますか、深い水深を持たない港が多いので、基幹航路の寄港があまり進んでいないということで、ここから出てくる欧米向けの貨物を狙っていこうということだと思います。
 目標として、日本一安い経費、365日24時間の稼働、それから定時制、信頼性、効率性ということがあげられています。
 
3 国際コンテナ港湾の動向
 
●わが国主要港の「相対的地位の低下」
 世界のコンテナ取扱量のランキング(図5)をみてみると、85年は欧米、日本の先進国の港が、上位に入っておりまして、その中で神戸、横浜、東京がベスト10か、もしくはその少し下にあったという状況です。この当時、アジアの港というのは香港、高雄、シンガポールは欧米、日本と同じレベルの規模があったわけですけれども、それ以外はずっと下にあったという状況です。
 それが2002年の速報値でみますと、6位までが日本以外のアジアの港です。釜山が急上昇していること、さらに上海、深が上がってきたことが特徴です。
 順位だけじゃなく、取扱量をみていただくとすぐわかると思うんですが、東京も取扱量は減ってるわけじゃなくて、3倍近く増えているわけですね。しかしアジアの各港が、1桁違う伸び方を示しているために、こういう状況になっているということです。
 
図5 わが国主要港の「相対的地位の低下」(取扱量)
単位)千TEU
資料)国土交通省、Containerisation International
 
 量が減ってるわけじゃないんで、「相対的地位の低下」という言われ方をしています。特にアジアの中での位置付けが下がってきているという状況です。近年強調されているのは、寄港頻度の低下ということですね。
 要するに取扱量は減ってないんですけれども、相対的に日本の寄港地としての重要性が下がっているということです。その結果として、港湾自体の問題も当然なんですが、日本の産業の競争力という視点で利便性が下がるということは、国際競争力を弱める要因になるのではないかということから、ここが問題視されてるという状況になっています。
 
●国際コンテナ航路網のハブ&スポーク化
 ハブとスポークというのは、自転車の車輪の円筒形の中心部(ハブ)と、そこから放射状に出ている車輪のや(スポーク)のことです。つまり、大きな港に機能を集約して、それ以外は枝線で繋いでいくという形が進んできたということです。その大きな要因としては船社間の競争ということですね。
 従来からも共同運航という形はあったんですけれども、コンソーシアム、あるいはアライアンスと、より戦略的に大胆に踏み込んで提携をしていくという形で進んできました。基幹航路を運航する船社というのは、5〜6社に集約されて、各国を代表するような、いわゆるメガキャリアと呼ばれる大きな船社が激しく競争しているということです。
 
 
 競争する時には、一番はコストです。2番めは、グローバル化が進んでいる中でスピードです。
 コスト削減で一番手っ取り早いのは、スケールメリットを追求することですので、船の大型化が進んでいます。港の対応としては、15〜16mの大水深のコンテナターミナルの整備が求められていて、今、大体それが出来つつあるという状況です。
 もうひとつは、大きくした船を各駅停車で走らせてしまうと、とても時間がかかりますので、大きな港にしか寄せない。あとはフィーダーで運ぶという形で所要時間を短縮するということですね。そういう形で寄港地の集約化が進んできて、ハブ&スポーク型になっているということがあります。
 
●ハブ港湾機能の分類
 では、そのハブをどういうふうに捉えるかということなんですが、ハブ港湾機能という時には、3つの段階に分けて捉えられるだろうということです。
 ひとつめは、基幹港機能、要するに欧州航路、北米航路のような基幹航路が直接着く港であるということです。
 で、その次の段階としては、直背後以外の国内各地から、荷物を集めてくる機能。これを国内集約機能、あるいは国内ハブ機能と呼んでいます。
 さらには、周辺国、これは3国間ですね。中国からアメリカに行く貨物を、日本なり釜山なりで積み換えるという機能、これが国際積換機能といってることです。
 
●わが国におけるハブ港湾機能の動向
 日本で今、ハブ港湾機能がどうなっているのかを少し整理してみますと、京浜、阪神、名古屋、清水、博多、ここには従来から欧米航路がついています。最近では苫小牧、仙台に若干寄港したりと、少し拡大しつつあるという部分もあります。
 国内集約機能なんですが、京浜(横浜・東京)と阪神(神戸・大阪)この2ヶ所に東日本、西日本、各々の貨物が集められているという状況です。国内集約機能は、特に神戸の機能が弱っていて、韓国航路を経由して国際積換貨物として、欧米に運ばれる形態が大分広まってきたということになります。
 それから国際積換機能は、これはシンガポール、香港、高雄、釜山といった所がアジアでは大きな力を持っています。従来は神戸がこの拠点だったんですが、今はほとんどその機能がなくなっているということと、釜山、高雄、上海等が、伸びてきたことで、日本の港の国際積換機能は今、ほとんどなくなってきているという形になっています。
 
図6 「相対的地位の低下」の要因
*アジアの生産拠点化による発生・集中貨物量の増加
【北米航路国別コンテナ荷動量の推移(東航:アジア→北米)】
資料)国土交通省
 
●「相対的地位の低下」の要因
 それからトランシップ貨物の元となる貨物量で、アジアから北米向けの貨物量というのは90年代半ばからぐっと急増しているわけですが、その伸びの大半の部分は中国の輸出です。アジア全体で伸びてはいるんですけれども、特に中国の輸出増加というのがコンテナ貨物の発生の大半を担っているという状況にあります。
 一方で、増えてきた貨物を、中国の港が現状では扱えない。港湾整備が遅れていて他国の港に基幹航路の機能を依存しているということで、トランシップ貨物が出てくるわけですね。
 華南経済圏といわれている香港とその背後の地域ですが、従来は増えた貨物を香港が一手に引き受けていたのですけれど、香港の後ろの経済特区の深に塩田とか3つ位港が出来まして、深の港を全部合わせると500万〜600万TEUという数字になっています。メインランドチャイナ(本土)の港の整備が進んで、自前で扱うようになってきたということです。
 一方で華北ですが、青島、大連、天津とかの港がありますけれど、華中(上海周辺)、華南に比べれば港の整備が進んでいませんで、フィーダーに依存している部分がまだかなりあります。この華中から華北にかけてのトランシップ貨物を、釜山が今、非常に多く担っていて、貨物量を急速に伸ばしているという状況になっているわけです。
 では、何故日本の港に来ないかということですが、ひとつはコストが高いからと言われているわけですね。釜山とか高雄に比べて、東京港の場合、2倍近いコストがかかっているということです。特にトランシップ貨物は、その港自体の背後の地域とは関係のない荷物ですので、安いということが非常に重要なわけですね。背後の物流機能とか通関手続きとか、そういう所を通り越していますから、純粋に港として積み換える部分での勝負になってきますので、安くて便利であればいいわけです。釜山は、中国の貨物を取り込んで、安さを武器に伸びているところが大きいと思います。
 
図7 九州における外貿コンテナ貨物の相手地域
*アジア(特に中国)は入超、欧米は出超
資料)「全国輸出入コンテナ貨物流動調査」(1998年10月1ヶ月調査)







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