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第10回 九州運輸コロキアム
Kyushu Transport Colloquium
 
公共交通におけるセキュリティ
 
(財)運輸政策研究機構 調査員
高木 晋
 
 
日時 平成15年12月11日(木)
場所 ホテルセントラーザ博多(福岡市博多区)
主催 (財)九州運輸振興センター
 
 運輸政策機構の高木と申します。今日は、「公共交通におけるセキュリティ」についてご報告をさせていただいます。
 
[1]背景と目的
 
 近年、公共交通機関の安全や安心という分野に対する関心は、以前にも増して高まっています。(平成15年)2月に韓国、大邱(テグ)で起きた地下鉄の火災事故は、まだ記憶に新しいところですし、利用者にとってより身近に遭遇しやすい出来事としては、携帯電話の迷惑行為、暴行や窃盗などの犯罪行為、それから車内や駅、バスターミナル等でケガ人や急病人が発生するといったことが挙げられます。
 犯罪行為に注目してみますと、こちら(図1)のグラフは警察庁からデータをいただきまして、鉄道敷地内における犯罪の認知件数をグラフにしたものです。平成13年は合計で3万7千件の犯罪が鉄道施設の中で起きたと認知されました。特に急激に増加しているのが器物損壊で、施設や設備を汚す、痛める、壊すといったバンダリズムとも言われている分野です。11年では、この器物損壊は566件だったんですが、平成13年には2200件と約4倍に増加しています。それから暴行や傷害、傷害致死が、ともに千件を超えており、これも最近の短期間に、急激に増加しています。
 
図1 鉄道敷地内における犯罪件数(1)
犯罪の発生が増加
鉄道敷地内における犯罪認知件数
 
 
図2 鉄道敷地内における犯罪件数(2)
犯罪の発生が増加
鉄道敷地内における犯罪認知件数
迷惑行為・犯罪は利用者にとってより身近な不安
    〜現状の対策では不足なのか?〜
 
 ただ、圧倒的に認知件数が多いのが窃盗犯、スリや置き引きです。これ(図2)は図1を上に伸ばしたものですが、単位が違います。窃盗の件数は平成13年で3万件を超え、他の項目に比較すると10倍以上になっています。
 このグラフだけを見ますと、起きているのは窃盗がほとんどと見ることも出来ますが、この数字は警察が通報を受けた数であって、窃盗以外の犯罪の千件、2千件という数字が本当の発生件数かというと、実際には違います。
 例えば、通勤途中の駅などで自分の財布を取られたら利用者は職員や警察に届け出ると思いますが、何か壊れていた、口論が起きていたといったものは、すべて通報しているわけではないと思います。このグラフの中での件数の大きな差の中には、現場の職員の負担や裁量で収まっている部分、あるいは利用者が口に出さなかった、恐い思いをしたとか、仕方ないといった諦め等が隠れているのではないかと思います。
 公共交通におけるセキュリティとは、どんなことからどんなものを守るのか。ここでは、地震や火災といった災害を始め、事故、犯罪・テロ行為、急病人やけが人の発生、迷惑行為やマナー違反にいたるまで、さまざまなリスクの存在に対して、利用者・職員、施設や車両、それから提供しているサービス、あるいは環境や雰囲気といった形のないもの、あるいは企業イメージ、ブランドイメージといった有形、無形の財産を守るための諸活動であると考えました。
 平成14年度「公共交通機関における犯罪等、緊急時の対応方策に関する調査」は、公共交通における身近な緊急事態について、利用者の意向や対応の実態を把握し、現状における課題を整理したうえで、新たな対応方策の要素を提案しようとするものです。
 日常的な通勤や通学に利用する鉄道やバスを対象とし、迷惑行為や犯罪、事故・災害、急病人やけが人の発生といった、利用者にとって比較的身近な事態を対象の緊急事態と考えました。
 
[2]利用者の持つ不安と意向
 
図3 利用者アンケートの実施
◆質問項目
・利用する際に不安や不満に感じる点
・特に迷惑に感じる行為、効果的な抑止策
・安心感を感じる対応策
・欲しい情報
◆期間 2002年11月〜12月
◆地域 札幌、東京、大阪、福岡
◆規模 鉄道 配付 14,370、回収 2,591(18%)
バス 配付 5,250、回収 645(12%)
 
 公共交通の利用者は今、どんな不安を持っているのか、どういった意向を持っているのかを把握するべく、利用者へのアンケート調査(図3)を実施しました。今日は鉄道利用者へのアンケートの結果を中心にご紹介します。
 こちら(図4)が「利用する際に不安や不満を感じることは何か」という質問で、多かったのが、上から「(人に対する)マナーが悪い」「座席を譲らない、詰めてくれない」「けんかを売られる」あるいは「注意して逆上される」「列車が遅れる、止まる」「施設の破損や汚れ」「痴漢の発生」といった順でした。
 
図4 利用する際に不安や不満を感じること
アンケート結果
 
 年齢別あるいは健常者、障害者の別など、回答者の属性によって特徴もありました。
 だ円で囲んだ「公共施設の破損」の部分を属性別に見てみると、「駅や車内での公共施設が破損されたり汚れることに不安や不満を感じる」と回答した健常者は19%ですが、高齢者の方で26%、視覚障害者の方では約30%の人がそう感じると回答しています。これは歩いて移動する際に手摺りとか、点字ブロックに頼る必要性が高いということから、それらが傷んでいると使えなくなることへの不安が想定されていると考えられます。
 「痴漢の発生」を年代別に見てみますと、トータルでは15%程度ですが、30代で21%、29歳以下で34%と、年齢層が若いほど不安を感じる人が多くなっています。20歳代以下の3人に1人が不安や不満を持ちながら毎日利用しているということは、やはり大きなことだと思います。
 次に「犯罪に対して高い安心感を感じる対応策」という質問に対して、「職員が巡回すること」が最も多く、次に「監視カメラ」や「通報ボタン」といった回答が続きます。やはり設備や機器ではなく、制服を着た職員、人の存在感があることを最も重視している意識が見て取れます。最近は案内放送など自動化が進んでいますので、より一層、職員の存在を求める回答に繋がっているのではないかという印象を持ちました。
 
図5 特に迷惑と感じる行為
 
 こちら(図5)が迷惑行為に関する質問です。「特に迷惑と感じる行為は何か」という質問に、「車内での携帯電話」が最も多く、続けて「座席を詰めない」「足を開いて座る」が続いています。
 最も多かった携帯電話の利用について、年代別に見てみました(図6)。ご覧のように年代が上がっていくにつれ、迷惑だと感じる人の割合が増えています。利用者がこのまま年をとり、30代の人が40代に、40代の人が50代に、次の世代になっていった時に、各年代の数字は同じような割合のままいくのか、それとも、このままの認識で年を取っていくのか。誰も迷惑と感じてないはずだから別にいいだろうということになってしまわないかという気がしています。
 
図6 特に迷惑と感じる行為(携帯電話・年代別)
年齢層が高いほど迷惑と感じる割合が高い
 
 「事故や災害に備えて、平常時のうちに駅や車内で欲しい情報は何か」と尋ねた質問では、「避難経路の案内」、「通報方法」といった予備知識を持っておきたいという回答が上位にきました。緊急の時は避難するといっても、いつも使っている出入口と同じ通路なのか、もし車内にいたら、地下にいたらと、そういった漠然とした疑問を持っているのではないかと考えられます。
 利用者ニーズのまとめとして、
 (1)対人的なトラブルへの不安や不満が大きい・・・これは許されるがこれ以上は失礼だという境界線が、はっきりしなくなっているんではないか。こういったこともお互いの不安を増している一因かもしれません。
 (2)人が対応してくれることへの要望が大きい・・・係員の呼び出し、連絡ボタン、あるいは職員の巡回など、人の目があること、人に伝える手段があること、こういった要望が多くありました。
 (3)緊急時に必要な情報や予備知識を求めている・・・これまで以上に、判断材料あるいは予備知識といえるものへの要望が大きいといえます。
 ここでは、鉄道を中心にご紹介しましたが、バスについても基本的な傾向は同じでした。バス利用者の回答の特徴として、情報提供の面でのニーズが多く出ていた点があげられます。特に途中の停留所にいる場合、どんな状況で遅れているのか、あるいは何か事故が起きているのか、バス停で待っている利用者にはわからない。携帯電話で情報を提供するのも利用者が自分で情報を取りにいかなくてはならないという点があります。
 







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