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4. 安全評価手法の動向
 
4.1 国際船舶海洋構造会議(ISSC)
 ISSC(International Ship and Offshore Structure Congress: 国際船舶海洋構造会議)のリスクアセスメント専門委員会(Special Committee V.1)は1997年のISSC会議(ISSC97: ノルウェー・トロンハイム)において新たに設置され、ISSC 2000(長崎)においてさらに3年間延長された。
 1997年から2000年までのISSC V.1委員会では、概略以下のように報告している。
・リスク評価の適用は、それぞれ別のやり方ではあるが、海上油田等の海洋関連業界では20年以上前から、また海上輸送関連業界ではここ5年の間に発展してきた。海洋関連業界では個々の海洋構造物の安全性評価に焦点をあててリスク評価手法を適用してきた。海上輸送関連業界では、専ら国際規則制定のプロセスに焦点を絞って、リスク評価手法を適用してきた。
・船舶やオフショア構造物に対する定性的および定量的リスク分析の合理的なプロセスの発展がレビューされた。すなわち、危険物質の輸送とともに座礁、衝突、火災や爆発に対する潜在危険がある状態についてのリスク評価技術の現状がカバーされている。レビューされたリスク評価手法には、主要な課題として、事故の確率や事故状況の事態進展についての考察が含まれている。何故なら、リスク自体はこれらの要素の組み合わせであるからである。
・海上輸送産業におけるリスク評価は利用の水平線上に上りつつあり、発展途上にある。機能要件ベースの要求や規則が船の安全性のために益々導入されつつあるのが、最近の傾向がある。この傾向は、新しいデザインと船や船の配置の安全性の評価のために、リスク評価を使う道を開いていく。しかしながら、規則による船の設計がまだ一般的であり、さらに、商売上の理由から、より安全な船の開発が船舶所有者やオペレーターにもたらす利点が少ないため、安全性の確保及び評価にリスク評価手法を利用することが妨げられることがある。
・リスク解析のプロセスを透明性にし、規則を費用対効果分析に基づいてより実用的にし、規則制定プロセスにおける恣意的な判断を避けるために、船のリスク評価を海事関連規則の制定プロセスに使うことも、最近の傾向である。
・オフショア産業において、リスク評価はどんどん発展しており、また以前から使われているが、しばらくの間、沈滞した期間があった。リスク評価の技術が個々のオフショア構造物の安全性評価に幅広く使われているが、より基本的な方法論や技術の開発が必要であろう。
・操業の側面を含んだヒューマン・ファクターは船やオフショア構造物および産業の両方の安全性にとって最も重要な要素の1つである。従って、ヒューマン・エレメントに対する考慮と分析を、リスク評価のプロセスに取り入れられるべきである。この課題に対する、さらに多くの研究と発展が期待されている。
・船とオフショア構造物のリスク評価における人的資源の大きさは、重要度から言えば比較的小さい。船とオフショア構造物に対するリスク評価の分野における研究や教育に関する、よりアカデミックな活動が、十分な資金サポートのもとで促進されるべきである。
 2000年から2003年にかけてのISSC V.1委員会は、「船舶の定性的及び定量的なリスク・アセスメントのための合理的な手法の開発状況を報告する。それには事故の起こる確率、その結果、事故回避措置の評価を含む。特に火災及び爆発、極端な環境条件、人的要因、運航と妨害物及び運航上のハザードについて注意を払う。」という命題の下に、以下の項目からなる報告書を提出した。
1. Introduction
2. Review of risk assessment activities in maritime industry
3. Element of risk assessment
4. Conclusion
5. Recommendation
 
 ISSC2000のV.1委員会への報告で、船舶海洋におけるリスク・アセスメントに関する技術的内容はほとんど網羅的に報告してあるため、ここでは、その後のリスク・アセスメントに関する技術の展開と利用の現状を報告した。従って、ISSC2000の報告と合わせてひとつの完成した報告となる。
 ISSCでは、船舶と海洋構造物の工学的研究成果をまとめている国際的に唯一の機関であり、その3年毎の報告書は、最近の研究成果を知るうえで貴重な資料である。
 これらの資料・情報は、船舶の安全性評価及び安全規則にとっても貴重な資料であり、IMOにおける安全規則作成において活用されるべきであることが、ISSC2003の会議で議論された。ISSCは造船研究者の集まりであり、組織・機構的に設立されているものではないため、IMOでは参加する団体としては認められないが、各国あるいは各国の造船学会を代表する形でIMOにおけるObserver statusを持っている英国造船学会(RINA)を通して、その意見・見解と技術的資料をIMOへ提出することができる。
 
 ISO/TC92(火災安全)のSub-Committee 4(SC4: Fire Safety Engineering 火災安全技術)は、火災安全評価の考え方のフレームワーク及びそのための個別の手法について、ISO規格(テクニカル・レポート)を1999年に制定した(表4.2.1)。これらは3.2.1項で説明したIMOが作成した船舶の防火に関する「同等設計・措置に関する指針」に引用されているものであり、火災安全の考え方の基本をよく表している。これらの規格は、言わばガイダンス的なものであり、火災性状及びその発達の予測、火災の建築等の構造体への影響、火災からの避難等について、どのようにして捉え、考えていくかを示しているが、定量的な火災発達、火災影響あるいは避難の予測解析手法は示していない。
 そこで、ISO/TC92/SC4は次の作業として、具体的な火災安全評価方法を示したISO規格を2006年を完成目標年として作成する作業に着手している(表4.2.2)。これらのISO規格の作成構想は、最新の火災発達、煙の流動及び人の避難行動等に関する予測手法技術(コンピュータ・シミュレーション技術)等を織り込んで、火災安全評価のための手法を体系付けようとするものである。但し、確率論的安全評価の考え方は導入されていない。火災時の人の行動については、IMO・FPにおいても避難解析方法のガイドラインを作成しており、何人かの専門家はIMO・FPとISO/TC92/SC4の双方で作業をしている。
 
表4.2.1 ISO/TC92/SC4 Published standards(Published in 1999)
Standard No. Title
ISO/TR 13387-1 Fire safety engineering - Part 1: Application of fire performance concepts to design objectives 火災安全技術−パート1 火災特性の設計対象への適用
ISO/TR 13387-2 Fire safety engineering - Part 2: Design fire scenarios and design fires
火災安全技術−パート2 火災シナリオ設定と設定火災
ISO/TR 13387-3 Fire safety engineering - Part 3: Assessment and verification of mathematical fire models 火災安全技術−パート3 火災の数学モデルの評価とアセスメント
ISO/TR 13387-4 Fire safety engineering - Part 4: Initiation and development of fire and generation of fire effluents 火災安全技術−パート4 火災の発生と発達及び火災生成物の発生
ISO/TR 13387-5 Fire safety engineering - Part 5: Movement of fire effluents
火災安全技術−パート5 火災生成物の動き
ISO/TR 13387-6 Fire safety engineering - Part 6: Structural response and fire spread beyond the enclosure of origin 火災安全技術−パート6 発生区画を超える火災の広がりと構造体の応答
ISO/TR 13387-7 Fire safety engineering - Part 7: Detection, activation and suppression
火災安全技術−パート7 火災の検知、対応の開始と抑制
ISO/TR 13387-8 Fire safety engineering - Part 8: Life safety - Occupant behaviour, location and condition
火災安全技術−パート8 舘内者の行動、位置及び状況
 
表4.2.2 ISO/TC92/SC4の新作業項目 Fire Safety Engineering(FSE)
CD No. ISO Standard Title and Purpose/Objective
PNWI FSE - General principles of performance-Based fire safety design and assessment
16730 FSE - Assessment, verification and validation of calculation methods
16731 FSE - Data needed for FSE
16732 FSE - Guidance on fire risk assessment
16733 FSE - Establishment and selection of design fire scenario and design fires
16734 FSE - Requirements governing explicit algebraic formulas - Fire plumes
16735 FSE - Requirements governing explicit algebraic formulas - Smoke layers
16736 FSE - Requirements governing explicit algebraic formulas - Ceiling jet flows
16737 FSE - Requirements governing explicit algebraic formulas - Vent flows
16738 FSE - Evaluation of behaviour and movement of people







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