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はしがき
 
 本報告書は、日本財団補助事業として平成13年度から3年計画で、日本造船研究協会RR-S401火災探知分科会(平成13年度はRR73)において実施した「機関区域の火災探知性能の向上に関する調査研究」の成果をとりまとめたものである。
 
「RR-S401 火災探知分科会」委員名簿(敬称略、順不同)
 
委員長   越野 隆弘 日本海事協会 (平成13~15年度)
委員     吉田 公一 海上技術安全研究所 (平成14~15年度)
       同上   船舶艤装品研究所 (平成13年度)
      太田 進 海上技術安全研究所 (平成13~14年度)
      疋田賢次郎 海上技術安全研究所 (平成13年度)
      佐々木千一 日本海事協会 (平成13~15年度)
      村田 康一 日本舶用品検定協会 (平成13年度)
      久野 勝秀 日本舶用品検定協会 (平成13~15年度)
      平岡 達弘 製品安全評価センター (平成13~15年度)
      桑田 敬司 日本船主協会 (平成13~14年度)
      増田 洋一郎 日本船主協会 (平成14~15年度)
      中 千秋 日本舶用工業会 (平成15年度)
      村上 直 日本舶用工業会 (平成15年度)
      河原 好功 全国内航タンカー海運組合 (平成14年度)
      内田 成孝 全国内航タンカー海運組合 (平成15年度)
      原田 秀利 三菱重工業 (平成13~15年度)
      梶田 哲郎 三井造船 (平成13~15年度)
      萩原 正久 住友重機械マリンエンジニアリング (平成13~15年度)
      井上 義章 新来島どっく (平成13年度)
      久保 滋弘 商船三井客船 (平成13~14年度)
      酒井 俊英 商船三井客船 (平成15年度)
      堀内 主計 日本郵船 (平成13~15年度)
      斉藤 信二 日本舶用エレクトロニクス (平成15年度)
      菊池 幸弘 能美防災 (平成13~15年度)
      井上 修 ヤマトプロテック (平成13~15年度)
 
関係官庁 山田 浩之 海事局安全基準課 (平成13~15年度)
      前田 崇徳 海事局安全基準課 (平成13~15年度)
      新保 一彦 海事局安全基準課 (平成13年度)
      今出 秀則 海事局安全基準課 (平成15年度)
      石原 彰 海事局安全基準課 (平成15年度)
 
事務局   板倉 輝幸 日本造船研究協会 IMO担当 (平成13~14年度)
      小磯 康 日本造船研究協会 IMO担当 (平成14~15年度)
      柳瀬 啓 日本造船研究協会 IMO担当 (平成15年度)
      斉藤 清一 日本造船研究協会 (平成13~14年度)
      山岸 進 日本造船研究協会 (平成14~15年度)
 
註:社名変更があった場合、最新社名を記した。
 
 
 SOLAS条約II-2章の2000年改正により導入される機関区域内局所消火装置に対し、機関区域が定期的に無人化されている場合には、火災の発生を探知して自動的に当該消火装置を作動させることが要求されている。
 一般に船舶の火災探知器としては煙式探知器が使用されているが、機関区域内には内燃機関、ボイラ等の燃焼空気を賄うために通風装置による強い気流があること、及び主機関上部の機関室構造は吹き抜けのようになっているため探知器を主機関の直上に設置するのが困難なことから、煙式探知器による火元の特定能力及び火災の早期発見能力が疑問視されている。
 このため、機関区域内局所消火装置の自動始動のために有効な煙式探知器の配置の検討並びに煙式探知器に替わる新しい形式の火災探知器の選択及びその試験基準の作成が急務である。
 
 
 上記を踏まえて、機関区域内局所消火装置の自動始動シナリオ、機関区域内の気流状況、火災発生危険個所等を考慮した上で機関区域内における火災探知の有効性を向上・確保するため、平成13年度に第73基準研究部会(防火に関する調査研究)において火災探知分科会が設置され、その後RR-S401火災探知分科会として平成15年度までの3年計画により調査・研究が行われた。
 
 
 調査研究の内容は次のとおりである。
 
(1)機関区域内局所消火装置の自動始動シナリオ
(2)機関区域における火災発生危険個所
(3)機関区域の火災性状
(4)機関区域内の環境条件
(5)火災探知器の性能及び特性
(6)機関区域内火災探知器の船内効力試験実施基準
(7)新形式の火災探知器に対する性能試験基準
(8)新性能試験基準に準拠した炎式火災探知器の性能評価
 
 
 本調査研究の成果について概要をまとめると、次のとおりである。
 
(1)機関区域内局所消火装置の自動始動シナリオ
 
 SOLAS条約II-2章の2000年改正により導入される機関区域内局所消火装置に要求される当該装置の自動始動を満足するための火災探知性能について、火災発生から消火までのシナリオを検討した。その結果、従来型の煙式火災探知器を補完するために、炎式火災探知器を追加したシステムが適当との結論に至った。
 
(2)機関区域における火災発生危険個所
 
 機関区域内局所消火装置により保護されるべき場所として改正SOLAS条約に定められた機器の火災発生危険部位について国内の統一解釈を設けた。
 
(3)機関区域の火災性状
 
 機関区域内に設置される火災探知器の有効性を確認するための船内効力試験に使用する模擬火災を特定した。当該試験の火源としては、直径200mm、深さ200mmの鉄製円筒容器に入れた燃料油、又は代替火源として同じ容器に入れたラクトース及び塩素酸カリウムに着火したものが適当と判断された。
 
(4)機関区域内の環境条件
 
 電子計算機によるシミュレーション計算及び実船の機関区域内気流分布計測により、火災探知器の有効配置について検討した。また、得られた知見を船内効力試験時の注意点としてとりまとめた。
 
(5)火災探知器の性能及び特性
 
 作動原理及び製造会社の異なる種々の煙式火災探知器及び炎式火災探知器について、試験室内において炎及び煙に対する反応試験を実施した。その結果、炎式火災探知器が、マスキングにより視野角を制限することにより、局所消火装置の自動始動用として有効であると認められた。
 
(6)機関区域内火災探知器の船内効力試験実施基準
 
 機関区域内に配置された火災探知器について、その有効性を確認するための統一的な船内効力試験実施基準を作成した。
 
(7)新形式の火災探知器に対する性能試験基準
 
 機関区域局所消火装置の自動始動に使用される炎式火災探知器について、船内の環境条件を加味した探知器単体の性能試験基準を作成した。
 
(8)新性能試験基準に準拠した炎式火災探知器の性能評価
 
 上記(7)の性能試験基準に準拠した試験を実際に行って、試験における問題点を調査した。その結果、現状の炎式火災探知器はいずれの試験においても異常なく作動することが確認された。
 
 
 本調査研究結果の詳細は、次のとおりである。
 
(1)機関区域内局所消火装置の自動始動シナリオ
 
 局所消火装置の誤作動を防ぐため、煙式探知器と炎式探知器の2種類を使用して、両者が探知した場合に限り自動始動させる。どちらか一方(通常は炎式探知器が最初に作動すると思われる。)が探知した場合には、その警報に従って乗組員が機関区域へ火災状況の確認に行き、その判断により手動にて局所消火装置を作動させる。探知器の配置は、従来から機関区域無人化船に要求されている場合と同様に煙式探知器を配置し、それらに加えて各機器の局所消火装置により保護される対象となる部分を監視できるように炎式探知器を配置する。火元の特定には炎式探知器からの情報を使用し、煙式探知器は自動始動のための最終判定手段として取り扱う。即ち、機関区域内のどの場所で煙式探知器が作動するかに係わらず、炎式探知器が指示する場所の局所消火装置を自動始動させる。このような構成により、局所消火装置の誤作動を極力防止し、かつ、火災発生時には迅速な対応をとることができると考えられる。
 本シナリオ及び炎式探知器の必要性は、2002年2月のIMOの防火小委員会(FP46)にそれぞれ文書番号FP46/5/8及びFP46/5/11添付1及び2参照として提出された。シナリオについては、時間的な問題から議論は行われず、その後の進展はないが、炎式探知器の必要性については、FP46/5/11によって示唆したとおり、(7)で述べるISO基準案としてISOの場で審議されている。また、国内においては、改正SOLAS条約適用船に対して本シナリオに従ったシステムが設計の標準として取り入れられている。
 
(2)機関区域における火災発生危険個所
 
 機関区域内局所消火装置により保護されるべき場所として改正SOLAS条約II-2章第10.5.6.3規則に定められた機器の火災発生危険部位について、具体的な解釈を作成した。議論の中で、主機のターボチャージャを危険個所として取扱うかどうかが焦点となったが、過去の機関室火災の実例等から総合的に判断して、これに含めることとした。
 本解釈は、2002年2月のIMOの防火小委員会(FP46)に文書番号FP46/5/8添付1参照として提出され、その後、伊国をコーディネータとするコレスポンデンス・グループによる検討を経て、2004年1月のFP48においてほぼ提案のとおり認められた。
 
(3)機関区域の火災性状
 
 機関区域内に設置される火災探知器の有効性を確認するため、従来からSOLAS条約では船内効力試験を行うことを要求している。この試験は、局所消火装置の自動始動の機能確認の他に、機関区域内における火災探知器の配置が火災の早期発見のために適切なものであることを確認するために極めて重要である。しかしながら、試験の実施方法についてはこれまで適当な基準が設けられていなかったために各造船所及び船主により様々であり、特に試験時に使用される模擬火災については実際の燃料油を燃焼させることに安全上の問題が懸念されていた。このため、当該模擬火災の規模及び燃料油に代わる代替火源について比較検討試験を行った(RR73平成13年度報告書5.1.7、RR-S401平成14年度報告書3.3及びRR-S401平成15年度報告書3.2参照)。その結果、代替火源としては発熱量、発煙量及び入手性から、ラクトース及び塩素酸カリウムを機関室の規模に応じてそれぞれ30~8 0gの範囲(標準はそれぞれ40g)で、直径200mm、深さ200mmの鉄製円筒容器に入れて着火したものが適当と判断された。
 
(4)機関区域内の環境条件
 
 機関室内には内燃機関、ボイラ等の燃焼空気を供給するための通風機及びターボチャージャによって複雑な気流が分布しており、有効な火災探知のためには当該気流を十分に把握して探知器を配置することが必要となる。このため、CFD(Computational Fluid Dynamics)を用いたシミュレーション計算並びに内航小型船及び外航大型コンテナ船における実船の機関区域内気流分布の計測を実施した。その結果、主機の上部で起きた火災を従来の煙式火災探知器で捕捉することは困難と考えられるが、他の場所については、多少時間が経過すれば概ね煙式探知器で対応可能と判断された。これらの経験を通じて得られた知見を火災探知器の船内効力試験時における注意点としてとりまとめた(RR73平成13年度報告書5.1.4、RR-S401平成14年度報告書3.2及び添付3(RR-S401平成15年度報告書資料2(3.1.2)参照)。
 
(5)火災探知器の性能及び特性
 
 機関室で使用される従来型の作動原理の異なる煙式火災探知器2種類及び新しく局所消火装置の自動始動用として期待される炎式火災探知器3種類について、燃料(ヘプタン又は軽油)及び上記(3)で述べた代替火源を燃焼させて、無風状態の試験室内において炎及び煙に対する反応試験を実施した。また、追加試験として製造会社の異なる煙式火災探知器1種類及び炎式火災探知器2種類についても同様の試験を行った。
 その結果、煙式火災探知器については直下の火災に対してのみ作動し、炎式火災探知器についてはかなり広い視野角内の火災に対しても反応することが判明した。炎式火災探知器は機関室内において火源の位置を特定する機能が必要であり、広範囲の対象物に反応することは短所になる恐れもあるため、マスキングによる視野角の制限が有効かどうかを調査した。結果としてマスキングが有効であることが確認され、炎式火災探知器が局所消火装置の自動始動用として適当と認められた(RR73平成13年度報告書5.1.5、RR-S401平成14年度報告書3.6.1及びRR-S401平成14年度報告書3.6.2参照)。
 
(6)機関区域内火災探知器の船内効力試験実施基準
 
 上記(3)で述べたとおり、SOLAS条約II-2章第7.3.1規則により要求される船内に設置された火災探知器に対する完工時の船内効力試験は、その実施方法についてこれまで適当な基準が設けられていなかったために各造船所及び船主により様々であるため、統一的な実施基準の作成が望まれていた。このため、機関区域内に配置された火災探知器について、その有効性を確認するための船内効力試験実施基準を作成した。概要は、本研究の成果とした得られた模擬火災を、同じく成果として得られた火災発生危険個所付近に発生させて、3分以内に探知器が作動することを確認するというものである。本試験実施基準は煙式火災探知器を主な対象として作成されているが、上記(5)の試験で確認されているとおり、炎式火災探知器にも使用することができる。
 なお、本試験実施基準は、(財)日本海事協会の鋼船規則において標準的な火災探知器船内効力試験実施基準として取り入れられることになっており、既に実船への適用を開始している造船所もある。造船所委員から、本実施基準に基づく試験の状況を調査したところ、概ね支障なく実施されているとの回答が得られている(添付3、RR-S401平成14年度報告書3.5(添付3.5.1)及びRR-S401平成15年度報告書3.5参照)。
 
(7)新形式の火災探知器に対する性能試験基準
 
 上記(5)の調査により、局所消火装置の自動始動には炎式火災探知器が有効であることが判った。しかしながら、炎式火災探知器は現在までのところ船舶に使用された実績がなく、探知器自体の舶用としての性能及び承認試験基準がない。このため、陸上で使用されている消防法に基づく自治省令「火災探知設備の探知器及び発信器に係わる技術上の規格を定める省令」及びEN54-10:2002、「Fire detection and fire alarm systems- Part10: Flame detectors-Point detectors」を参考にして、同基準案を作成した。炎式探知器には赤外線式と紫外線式とがあるが、本基準に適合するものであれば、いずれの形式でも良い。
 本基準案はISO TC8/SC1(国際標準化機構/船舶及び海洋技術専門委員会/救命及び防火分科委員会)において、ISO基準案(ISO TC/8SC1 N172)として審議されており、2003年8月にCD(Committee Draft)案として承認されている段階にある。また、国内においては国土交通省海事局の型式承認基準案として採用される運びとなっている(RR-S401平成14年度報告書3.4及び添付4(RR-S401平成15年度報告書資料3(ISO TC8/SC1 N172))参照)。
 
(8)新性能試験基準に準拠した炎式火災探知器の性能評価
 
 上記(7)の性能試験基準に準拠した試験が今後国内において実施されて行くことを考慮して、当該試験を実際に行って、試験における問題点を調査した。試験のうち、低温試験、乾燥高温試験、温湿度試験及び振動試験には2社3種類の炎式火災探知器、その他の試験には1社の赤外線式及び紫外線式スポット式炎探知器を供試体として使用した。その結果、いずれの試験においても全ての供試体が異常なく作動した。しかしながら、試験実施上の問題点として、試験用炎源の安定性確保及び当該安定性のモニタリング方法が挙げられており、今後経験を積み上げてノウハウを蓄積する必要があると考えられる(RR-S401平成14年度報告書3.6.3及びRR-S401平成15年度報告書3.4参照)。







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