5. 舶用電動機
5.1 舶用電動機に求められる要件
舶用電動機は、船内の狭い空間へ配置されるため小形化が要求されるほか、エンジン振動、傾斜動揺、耐塩・耐湿・耐油性能等が要求される。その用途には、ポンプ・ファンに代表される補機動力用、カーゴオイルポンプ等の荷役用、バウスラスタ等の補助推進用、主推進用等がある。
容量面から見ると、補機動力用は100kW以下がその大半を占めており、荷役動力用・バウスラスタ等の補助推進用は、1000kWを超える場合もある。運用面から見ると、荷役動力、補助推進共航海中の使用は少ない。
表5.1.1 舶用電動機の区分を示す。
表5.1.1 舶用電動機の区分
用途 |
電動機単機容量 |
運用時期 |
回転速度 |
備考 |
補機動力用 |
〜100kW |
常時 |
1800min-1以下 |
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荷役動力用 |
〜1000kW |
停泊時 |
1800min-1以下 |
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補助推進用 |
〜3000kW |
出入港時 |
1800min-1以下 |
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電気推進用 |
〜20MW |
航海時 |
300min-1以下 |
ギアレスの場合 |
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大容量の電動機で機械室の温度上昇を抑えるため、電動機には海水または清水熱交換器を搭載する例が多い。また、推進用電動機等の可変速度電動機では、低速領域での冷却能力を確保する目的で他力通風方式とし電動送風機を搭載する必要がある。
図5.1.1 推進用電動機の船内装備状態一例
高温超電導電動機の長所は、従来電動機に対し小形・軽量・高効率(特に部分負荷)化と考えられるため、超電導の適用による効果が大きい大容量大形機で航海中常時使用される電気推進用電動機への適用が最適と考えられる。
なお、船舶推進器における出力特性は、推進器の回転速度の3乗に比例しているおり、定格回転速度の80%で運転した場合、所用出力は約50%となる。従って、低負荷時における効率向上は推進用電動機において大きなメリットとなる。
更に、固定子(電機子巻線)の冷却方法で導体内部に水冷却パイプを通す等の工夫をすることにより、大きな熱交換器及び電動送風機を搭載すること必要が無くなる。これらにより、PODへの適用についても、従来方式に対し、冷却配管の追加等で対応可能と考えられる。
高温超電導電動機化により20MW-200min-1級の電動機において、電動機体格が50%程度になり(磁束密度3Tの場合)、質量では、約45%となると推定される。
図5.1.2 超電導電動機化による小形軽量化 20MW-200min-1
次に、1992年4月(財)日本舶用機器開発協会の『JAMDA』に紹介されている『超電導電気推進コンテナ船』の調査研究において検討された超電導推進電動機(21MW-120min-1)と比較する。
当時は、全ヘリウム冷却超電導同期電動機及び界磁巻線ヘリウム冷却超電導単極直流電動機について概念設計がなされている。交流電動機案では、直流電動機方式に対し、小形軽量化では有利ではあるが、ヘリウム液化設備の大形化、交流電動機特有の交流損失等技術的実現性等から推進電動機は直流電動機方式とならざるを得ないと結論付けている。
以下、表5.2.1に電動機単体ベースでの比較表を示す。
表5.2.1 推進電動機比較
項目 |
1992年度コンテナ船電気推進 |
高温超電導 |
備考 |
出力(MW) |
21MW |
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回転速度(min-1) |
120min-1 |
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方式 |
同期電動機 |
単極直流電動機 |
同期電動機 |
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超電導範囲 |
電機子巻線及び界磁巻線 |
界磁巻線 |
界磁巻線 |
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線材 |
低温超電導線材 |
低温超電導線材 |
高温超電導線材 |
|
超電導部冷却 |
ヘリウム |
ヘリウム |
ヘリウム、液体窒素等 |
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寸法 Wmm |
2,300 |
3,400 |
約4,000 |
電動機単体 |
Hmm |
2,700 |
3,800 |
約4,400 |
Lmm |
11,000 |
10,000 |
約8,000 |
質量 ton |
100 |
330 |
約100 |
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今回検討を実施した高温超電導線材を使用した同期電動機方式は、界磁巻線を超電導化し、電機子巻線は従来技術を使用しているため、全超電導同期電動機方式(1992年度コンテナ船電気推進)と比較し体格的には大きくなっているが、単極直流電動機方式との比較においては、充分優位性のある寸法・質量が得られている。
また、界磁巻線のみの超電導化による小形冷却設備の採用、高温超電導線材採用による液体窒素冷却化の実現可能性等が期待できる。
今回検討した高温超電導交流同期電動機の検討結果から明らかなとおり、1992年度に実施された『超電導電気推進コンテナ船』の検討以降、超電導適用範囲の見直し、超電導線材・冷却設備等の技術進歩により船舶への搭載の可能性がより現実的なものとなってきていると言える。
超電導電動機を駆動する電力変換装置は、従来方式電動機と同様に『インバータ』『サイクロコンバータ』等が採用されることになると考えられ、また、界磁巻線を有する電動機であるため、励磁装置が別途必要となる。
図5.3.1 推進電動機 構成例
電気推進システムで容積の大きい機器は、変圧器及びインバータである。
変圧器は、電源電圧をインバータに使用する素子の耐電圧に見合った電圧に変換する機能、推進回路と電源主回路を絶縁する機能、電源主回路への高調波伝播を抑制する機能があり、一般的には、モールド変圧器やH種乾式変圧器が採用されるが、大容量器では、小形化のため、油冷却方式が採用されることとなると考えられる。また、将来的には、超電導変圧器の採用の検討も必要と思われる。
電力変換装置は、IGBT素子を使用したPWMインバータが10MWクラスまで開発されているが、純水を用いた素子直接冷却方式である。5MW以下では、強制風冷方式が主に採用されているが、小形化より価格が優先されていると考えられる。
今後、素子については、高耐圧化・大容量化が進むことにより電力変換装置の小形化、需要の増加によるコスト低減が期待される。
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