日本財団 図書館


2. 線材
 
2.1 Bi系線材
まえがき
 ビスマス系酸化物超電導体には、Bi2Sr2CuOx(Bi-2201)、Bi2Sr2CaCu2Oy(Bi-2212)ならびにBi2Sr2CaCu20z(Bi-2212)の三つがあるが、Bi-2201はTcが20K程度と低いために応用研究はほとんどなされていない。現在線材化の研究開発が行われているのはBi-2212とBi-2223である。両者の結晶構造を図2.1.1に示す。Bi-2212は超電導を担うCu-O層が二層あり、Bi-2223ではCu-O層は三層存在している。Tcはいずれも酸素量でかなり変化するが、Bi-2212相が90K程度、Bi-2223相が110K程度である。したがって液体窒素温度(77K)などの高温応用では、主にBi-2223を使った研究が進められている。
 
図2.1.1 
Bi2Sr2CaCu2Oy(Bi-2212)ならびにBi2Sr2CaCu2Oz(Bi-2212)の結晶構造。
Bi-2212
Bi-2223
 
 ビスマス系酸化物線材にはBi2Sr2CaCu2Ox(Bi-2212)とBi2Sr2Ca2Cu3Oy(Bi-2223)とがあり、線材化法としてはどちらもパウダー・イン・チューブ(PIT)法が最も一般的である。金属管としては銀が用いられている。最近では、ある程度加工をした線材を束ねてさらに銀管に挿入し、これをさらに加工して得られる、より実用に適した多芯線材が主流である。また、テープ状の線材よりも断面形状が円形または角型の線材の方が応用範囲が広いため、このような形状の線材開発も盛んである。図2. 1. 2には、Bi-2212多芯丸線材の例を示した(1)。酸化物超電導体においては、結晶粒のいわゆる弱結合の問題があり、これを避けるためには、酸化物超電導体の結晶粒の方位を揃えてやること(配向化)が必要となる。この配向化によって結晶粒同士の結合性が大幅に改善され、大きな超電導電流を流せるようになる。酸化物超電導体はいずれも層状の結晶構造を有するが、特にビスマス系酸化物は系の異方性(二次元性)が強いために、結晶粒の配向化が比較的容易である。しかしながら配向化の手法はBi-2212とBi-2223では異なっており、Bi-2212線材においては、熱処理において温度をBi-2212の融点の少し上まで上げ、その後ゆっくりと冷却をする、いわゆる部分溶融―徐冷熱処理が適用される(2)。一方のBi-2223では、機械加工と熱処理をうまく組み合わせることにより配向させている(3)。いずれの場合も一軸(c軸)が配向した組織が得られるが、配向化の手法が異なることから、得られる配向組織にも若干の違いがある。図2.1.3に、Bi-2212ならびにBi-2223の配向組織を比較して示した。
 
図2.1.2  パウダー・イン・チューブ法で作製したBi-2212多芯丸線材(1)
外径:1mm
 
 最近ではBi-2212、Bi-2223共に1,000mを越える線材が作製されるようになってきており、Bi-2223線材については販売をするメーカーもある(4)。このようにして作製したビスマス系線材は、〜20K以下の低温ではその高い臨界磁界(不可逆磁界)を反映して、高磁界において優れた特性を示す。図2.1.4には、4.2KにおけるBi-2212ならびにBi-2223線材のJc-B特性を示す。これからわかるように、ビスマス系線材は、低温においては従来のNb3Snなどの金属系超電導線材を遙かに凌ぐ高磁界特性を有する。とくに、Bi-2212線材は高いJc、特性を保持することがわかる。したがってビスマス系線材の応用の一つは、低温で使用する高磁界マグネットである。実際Bi-2212コイルが、既存の液体ヘリウム冷却型超電導マグネットシステムの内層マグネットとして用いられ、20Tを越える超電導マグネットとして物理実験等に使用された実績がある(5)
 一方、最近では冷凍機の進歩が目覚しく、〜20K程度の温度は簡単に達成できるようになってきている。〜20Kでマグネットを運転するメリットは、液体ヘリウム冷却に比べて冷却コストを抑制できるだけでなく、線材の比熱が桁違いに大きくなるので、マグネットの安定性が大きく向上することである。図2.1.5には、Bi-2223線材のJc-B特性の温度依存性を示すが(6)、20K程度の温度では10数Tの磁界においても優れた特性を有するので、液体ヘリウム不要の冷凍機冷却マグネット用の線材として有望と考えられる。
 
図2.1.3  Bi-2212ならびにBi-2223線材のc軸配向組織。
 
Bi-2212線材
 
Bi-2223線材
 
図2.1.4 4.2KにおけるBi-2212ならびにBi-2223線材のJc-B特性。
 
図2.1.5 Bi-2223線材のJc-B特性の温度依存性(6)
 
 しかしながら、さらに温度が上がると、ビスマス系線材では磁界中のJcが急激に低下するという難点がある。特にBi-2212線材でその傾向が著しい。したがってBi-2212とBi-2223の優劣については、20K以上の温度での運転を考える場合は、Ri-2223線材の方が有利であろう。さらに温度が上がって液体窒素温度(77K)での利用では、現状ではBi-2223線材を使った、磁界の影響の少ない送電ケーブルや電流リードなどに限られてしまう。このようなビスマス系線材の高温でのJc-磁界特性の悪さは、線材化の技術的問題というよりも、ビスマス系酸化物の強い二次元性に起因した本質的なものである。そこで、ビスマス系酸化物の二次元性を弱めて高温での磁界特性を改善する試みがいくつかなされているが、このような基礎に立ち返った研究は、ビスマス系線材の応用範囲を広めるために、今後重点的に取り組むべき研究開発課題と言える。そのためには、不可逆曲線を含めた磁束相図の問題、輸送緒電流密度を支配する結晶粒界構造の研究など、物性、材料両面で関連する問題の解明が必要である。
 また、線材化プロセスの開発の面でも発想の転換が求められる。現在ビスマス系の長尺線材は例外なく銀被覆法や塗布法などの粉末法を基本としたプロセスによって製作されている。粉末法は、長尺化が容易であるメリットをもつ反面、マクロ、ミクロ両面で組織、特性に不均一性を生じやすいデメリットをもつ。したがって、粉末法に替わる新たな線材化法を開発することも重要であろう。
 

参考文献
(1)1. T. Hasegawa, T. Koizumi, Y. Hikichi, T. Nakatsu, R. M. Scanlan, N. Hirano and S. Nagaya, IEEE Trans. Appl. Supercond.
12(2002)1136.
(2)H. Kumakura: Bismuth-based High-Temperature Superconductors, Ed. By H. Maeda and K. Tagano. Marcel Dekker,Inc.,New York,(1996),451.
(3)Y. Yamada: Bismuth-based High-Temperature Superconductors, Ed. By H. Maeda and K. Tagano. Marcel Dekker,Inc.,New York,(1996),289.
(5)M. Okada. K. Tanaka, T. Wakuda, K. Ohata, J. Sato, T. Kiyoshi, H. Kitaguchi, H. Kumakura, K. Togano and H. Wada: Adv. Superconductivity, Xi (1999), 851-854.
(6)M. Ueyama, K. Ohkura, S. Kobayashi, K. Muranaka, T. Kaneko, T. Hikata, K. Hayashi and K. Sato, Adv. Superconductivity, VII(1995),847.







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION