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1. 電気推進と高温超電導電動機の開発動向
 
1.1 ディーゼル機関の推進システム
 船舶の推進システムは、各種原動機の中でディーゼル機関が最も熱効率に優れており、信頼性・耐久性、初期コスト・メンテナンス性で優位であること等から、2又は4サイクルディーゼル機関を直接或いは減速装置を介して機械的にプロペラに直結した、機関直結推進方式が主流となってきている。しかし、ディーゼル機関は、NOxによる光化学スモッグ、SOxによる酸性雨、CO2による地球温暖化、PMによる発ガン性等環境面の問題が指摘され、IMOでも規制する方向で検討が進められている。
 ディーゼル機関の環境問題を克服するためには、燃焼方式の改善(水噴射、燃料の変更)の他、負荷変動を可能な限り小さくして運航中の総合熱効率を上昇させる方法、或いは内航船のように離着岸を頻繁に行う船舶では1台のエンジンで推進を賄うのではなく、複数のエンジン(発電用エンジン)で負荷に応じたエンジンのみを稼働させ電力によって間接的にプロペラを駆動させる電気推進方式が注目されている。又、船型の改善によって推進抵抗を減少させることも消費燃料を減少させる上での課題の一つとなっている。
 
 従来から電気推進船は、低速航行が必要な測量船や観測船(砕氷型を含む)、ケーブル敷設船、大型旅客船、原子力船といった特殊目的の船舶が中心であった。しかし、最近は環境問題の高まりから特にヨーロッパで電気推進船が見直されはじめ、その流れは先進各国に及びつつある。電気推進船の特徴は次のとおりである。
(1)発電用エンジンの設置場所がエンジン直結型の船舶よりも自由に設置できることから機関室を小さくすることが可能となり、場合によっては機関室以外のスペースに発電エンジンと発電機を隔離して設置できる(発電システムの分散化とレイアウトの柔軟性、有効利用スペースの拡大)。
(2)電圧のコントロール或いは周波数のコントロールにより微妙で迅速なプロペラ回転が可能であることから操船が容易である(応答性向上による操船性・操縦性の向上)。
(3)発電用エンジンを複数個設置することで負荷に応じた個数だけエンジンを駆動させれば良いためエンジンを効率の良い負荷で運転することができること(低負荷時の総合熱効率の改善と冗長性による安全性向上)。
(4)推進用のエンジンと発電用のエンジンに2種類のエンジンを搭載する必要がなくなり、基本的には発電用エンジンだけで済む。
(5)定速運転のため騒音も少なく回転数の変化に伴う振動も少ないこと(快適性)。
(6)負荷変動が少なくエンジンがトルクリッチになって劣化が早まることもないこと及び電動機や発電機は元来メンテナンスコストは極めて軽微であることから、年間のメンテナンスコストが低い(低メンテナンス)。
等の利点がある。反面、
(1)発電機と電動機及びこれらの制御が必要になることから推進システムが複雑になる。
(2)発電機と電動機が介在するため、エンジン直結の場合に比べてエネルギー利用効率が下がること(ただし、電機推進船は船尾構造の自由度が広がることから総合エネルギー効率は、通常航行時でも在来船よりもアップするという)。
(3)イニシァルコストの増加(20%程度)。
ということが挙げられる。
 90年代入ってヨーロッパを中心に用途が広がってきた背景にはインバータの発達で誘導電動機を周波数制御によりコントロールすることが可能になったことや電子制御に関する数々の技術革新があったことが挙げられる。
 一方、内航船のように出入港が多い船舶は、出入港の度に減速運転と急激な負荷変動を強いられるため通常のエンジン直結型推進方式では、黒煙の発生が多いだけでなく、操船性の面でも電気推進よりも劣ることが指摘されている。
 しかしながら電気推進船が有利になるケースは少なくないと言われている。特に北欧では内航船、或いは漁船のように比較的小型の船舶でも電気推進の優位性が指摘され、さらに近年急速な広がりを見せてきている。
 ヨーロッパでは、大型クルーズ船等に電気推進が採用されてきたが、クルーズ船は、客室或いは各種のイベントホールには映画館、厨房、照明、冷暖房、冷蔵庫、TV等の娯楽機器が備えられており、これらの電力消費量は推進用の電力需要と大差ないため電気制御の技術革新に伴って電気推進に移行したのは必然であった。
 なお、近年、電気推進船が特に脚光を浴びるようになった要因のひとつにポッド型電気推進システムの実用化と急速な普及を挙げることができる。
 
 船舶推進のプロペラを回す方式として電気推進方式が採用されつつある。実際、2000年から2001年にかけて、世界でディーゼルを原動機として発電した電力によってプロペラに直結した電動機を回すディーゼル電気推進機関の受注は、300min-1、0.5MW以上のもので300件を超えている。なぜ、ディーゼル機関と電気推進方式の組み合わせが登場してきたかは、以下に理由を求めることができる。
1)プロペラの回転を電動機で行うことによる発電部を船内のパワーステーションとして、高い効率と低エミッション、
2)電気推進によるトルク特性から、高い安全性、
3)加減速制御応答に優れ操船性能と操縦性の向上、
4)原動機、減速機、プロペラのメカニカルな連結が不要となり、船内のレイアウトの柔軟性からの利用空間の増大、
5)コスト面での効果的な建造(モジュール化)に有利、
6)低騒音、低振動など環境調和、乗客、乗組員の感性工学的メリットがあげられている。また、このようなメリットは米国のDODやDOEでも注目されているようである。
 
 電気推進方式にすることによるメリットをさらに向上させると期待できる機構としてポッド式電気推進がある。代表的なものとして、フィンランドのABB社とKraever Masa-Yardsが提案開発したもので、AziPodの製品名で知られる。プロペラ回転用の同期電動機(または誘導機)がポッド(まゆ、インゲン豆のさや)に収納されて、船外に出される。船体への取り付け支持部はラダー(舵)となって36°回転する。北欧においてはロシアから原油を輸送するために平時の航行用のバルバスバウと砕氷能力をもつDAT(Double Acting Tanker)へこのポッド推進が適用されており、その受注実績数は、Alstom/Kamewa(Mermaid)、Siemens/Schottel(SSP)、STN Atlas/Jhone、CraneLips(Dolphin)を合わせて100を超える。電動機の容量範囲は560KWから25MWまで多様にわたり、大容量低速機用サイクロコンバータ・ドライブ方式で永久磁石を界磁とした同期電動機を主流とする。ポッド式電気推進の適合は、小型・大型クルーズ船、タンカー、砕氷船など多岐にわたり、欧州共同体EUは、2006年を目途に競争的かつ持続的成長事業として、高速商船対応のFASTPOD、ポッド装備と船体設計、CFDを主眼とするOPTIPOD、実機運航性能を検討するPOD IN SERVICEのプロジェクトを実施中であり、燃料電池駆動、液体水素によるCO2排出ゼロをめざす水素機関も研究されており、きわめて積極的な取り組みが展開されている。
 
 約10年間にわたる船舶用発電機・電気推進機関(ポッド型電気推進システム以外を含む)の全世界市場における納入実績について、下記の出典データーベースから市場動向を分析してみた。その結果を以下記述するが、景気変動・特定船舶の集中建造による変動はみられるが、補発機関は増加傾向にあり、電気推進機関は平行状態の変遷となっている。
出典データーベース;
・Diesel & Gas Turbine Worldwide(USA),Nov.1995-2003
・納入地域の定義;
欧州・・・西欧、東欧・北欧・ロシア(主体は西欧)
アジア・・・東南アジア・中央アジア・中近東・オーストラリア(主体は極東3国)
アメリカ・・・北・中・南米(主体は北米)
納入実績の世界動向
(1)舶用発電機関(補発用、0.5MW以上)図1.5.1〜1.5.3参照
・補発機関の総納入台数は、景気変動・特定船舶の集中建造による変動はあるが、年々右上がりの微増傾向である。
・補発機関は、大型5.0MW以上は数台/年であり、殆ど出力5.0MWまでの市場であり、2.0MW以下の小型が80〜90%を占めている。しかも、その60〜70%がアジア・極東地域から納入している。
・単位出力は、約1MW/台前後であり、補発機関の大型化傾向は見られない。
(2)舶用電気推進機関(電気推進用、0.5MW以上)図1.5.4〜1.5.6参照
・納入台数は、補発機関の約5〜10%程度の市場である。
・納入実績は、特殊船舶適用以外は採用されず、大きな変動が見られない平行状態の変遷となっている。
・単位出力は、3〜5.5MW/台と変動しているが、特定船舶の集中建造による上下変動であり、年々右下がりの小型化傾向が見られる。
・大型機関(5.0MW以上)の増減が著しいが、大型旅客船・フェリーの建造ブームによるものであり、近年、中型機関(2〜5MW)の微増傾向がみられる。
・また、この傾向は、大型船においてもコンパクト・環境対応等の背景から、発電設備の小型分散化のための中型・中速機関の採用による増加による。
・地域別では、欧州が50%以上であり、残りをアジアとアメリカ地域で各々分け合っている。
(3)国内の電気推進船の実績
・国内の電気推進船として、原子力船「むつ」の改造船「みらい」などとともに、海上保安庁の測量船「昭洋」があげられる。この船の目的は、国際海洋法条約の批准にもとづく大陸棚調査、海洋汚染の監視、世界的観測システムへの対応等、巨大地震にそなえる海底プレート調査などにあるとされている。ディーゼル電気推進により、サイリスタ電動機方式を採用した2機2軸の電気推進装置をもつ。水中音響機器の使用等でも静粛性が要求されることから電気推進方式が採用されている。推進電動機は、永久磁石をつかったブラシレス回転界磁としており、2100kW、29〜290min-1、発熱を海水で冷却しているが、ファンも併用している。
・2番目の事例としてディーゼル電気推進の内航ケミカルタンカー「千祥」があげられる。中谷造船が建造したもので、出力530kWのディーゼル発電機を3基搭載して、推進電動機として365kWの誘導電動機を使用している。電動機は船内に納められており、欧州のようなポッド式ではないが、電気推進方式とすることによって、船体も工夫され、抵抗が減少したばかりか、船内積載空間も増加した。結果として、従来の同型船よりも年間20%の燃料節減が可能となるばかりか、排出CO2は20%、NOxは34.4%の削減が可能とされている。国土交通省が主導で進めている次世代の内航船としてのスーパーエコシップにおいてもガスタービンで発電するポッド式電気推進方式が採用されている。
 
 ポッド型電気推進システムは今更述べるまでもないが、プロペラのボスに相当する部分に交流電動機を設置し、全周回転可能な推進装置(歯車駆動で全周回転可能な推進装置には新潟鐡工所のZ-ペラ、ダイハツのアクアマスタ一、川崎重工業のレックスペラ、IHIのダックペラ等が知られている)である。15余年前から旅客船・フェリー・RO・PAX船等での採用が増加しているポッド型電気推進システムが注目されているが、この装置は91年に砕氷船「セリ」に搭載され、その有効性から、現在では"Voyager of the Seas"のような超大型のクルーズ船にも搭載されるに至っている。
 ポッド型電気推進システムの長所として挙げられるのは、
(1)操船性の向上(ラダーが不要となり、ラダーより優れた操舵能力・操船性)。
(2)発電機の設置場所の柔軟性と推進機関と発電機関の統合による船内スペースの増加。
(3)大きく長いプロペラ軸が不要になったこと等による船内騒音と振動の減少(原動機減速装置が水中に設置されたことによる低騒音・低振動)。
(4)推進装置が水中に設置されたことによる設計の自由度の増加。
(5)舵とスターンスラスターが不要になったことによるシステムの単純化。
(6)船尾形状の直線形状をした理想的設計による効率向上・省エネルギー化(船体形状により発電機・電動機の組合効率低下よりも勝る効率向上が可能)。
(7)納入・据付・組立工程の削減(船尾軸系及びラダーが無くなる)。
(8)全推進装置の一体化・ユニット化(船本体の建造と別工程による効果的建造)。
(9)以上による経済性の向上(特にクルーズ船の場合)が上げられている。







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