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若手研究者・技術者
海外派遣報告
 
OMAE 2003とニューオリンズ大学を訪れて
 
正員 村井基彦*
 
 平成15年6月初旬から中旬にかけて、日本造船学会の若手活性化事業にかかる海外派遣により、The 22nd International Conference on OFFSHORE MECHANICS AND ARCTIC ENGINEERING(OMAE 2003)への参加とニューオリンズ大学に訪問する機会を得たのでここに報告を行う。
 OMAE 2003はメキシコのカンクーンで6月8日から13日の日程で開催された。メキシコのカンクーンといってもなじみのない方もいらっしゃると思うので、少し地理的な紹介をしておく。カンクーンはメキシコ東部のユカタン半島のカリブ海に面した先端付近に位置する長さ約20kmに渡る砂洲の上の街で、常夏の大リゾート地である。
 メキシコシティー、ヒューストンあるいはフロリダから飛行機で1時間半程度の距離にあるので、アメリカ南部からはかなり手軽なリゾート地との色彩が濃い。その砂洲に沿った道路沿いに、巨大なホテルがおよそ500m間隔で軒を並べている。中心街(セントレ)とホテルゾーンを結ぶバスは24時間態勢で運行しており、治安もかなり良いといっていい地域である。また、周辺には古代遺跡も数多く点在し、休日には無料開放されているところも多い。
 会議は海洋開発・沿岸開発に関する研究発表が中心で、対象分野は「Offshore Technology」、「Safety and Reliability」, 「Materials Technology」, 「Pipeline Technology」, 「Ocean Space Utilization」, 「Ocean Engineering」, 「Polar & Arctic Science & Technology」で、各分野に対する一般論文(査読審査有り)としておよそ300編、そのほかに「Top Tensioned Risers」, 「Deep Water Production System」, 「Offshore Geotechnics」のワークショップも開催された。この会議には折しも世界中に吹き荒れたSARSの影響で余儀なく欠席を決断せざるを得なかった参加者も少なからずいたようであるが、それでも350人程度の出席者があり大変に盛況だったといえる。開催期間中において会議は、最大9会場にて92セッションが行われた。一般講演に関しては1時間半の1セッションに対し3件から4件の研究発表があり、質疑応答の時間は、司会者は臨機応変でかなり柔軟な対応をしていたように見受けられる。ただ9会場のパラレルセッションとなると、同じ時間帯に重なっている講演も多く、また司会者の臨機応変による講演時間の凸凹で、会場を移動している間に講演が終わってしまったこともあった。会議ではメキシコで開催されたということからも類推されるように、メキシコ湾やフロリダ沖での活発な海洋油田に関連した、パイプライン、ライザーやFPSOなど研究発表が活発であった。石油関連以外でも、海洋空間利用に関するセッション、海洋自然エネルギーに関するセッション、海水流動に関するセッションなども活発で、構成や内容としても近年の海洋開発に関する研究動向を機微に反映しているという印象を持った。
 
写真 OMAEの会議会場
 
写真2 チェチェンイッツァーの遺跡
 
写真3 
Conference Banquetが行われたホテル敷地内のビーチ
 
写真4 ジャクソン広場の前にて
 
  また、Conference Banquetが会議4日目の午後8時よりホテル敷地内のビーチにて開催された。地元の音楽を中心にした余興が数多くあり、歌や踊りが深夜11時過ぎまで繰り広げられたが、かなりのご年配の参加者でも最後まで元気に参加されていたことには驚かされた。国際会議に参加するとなると、まずは健康と体力がないと大変なようである。このように、6日間の会議は盛況の内に幕を閉じた。なお次回はカナダのバンクーバーで開催の予定である。
 OMAE 2003の会議の終了後に、ヒューストン経由でニューオリンズに立ち寄り、ニューオリンズ大学を訪問した。ニューオリンズはジャズの町として有名で、世界地図や全米の地図から見るとアメリカ中南部のカリブ海に面した中心都市といった感じであるが、何を隠そう海岸まではなお160kmの内陸の地である。しかし、米国最大の流域面積を誇るミシシッピー川が町の中心を流れ、中心部付近の海抜は-1.5メートル、さらに蒸し暑く、3日間ほど滞在したが連日昼頃になると大雨が降り、夕方になると晴れて路面も乾くというまさに亜熱帯の気候は日本人の私には内陸という感じを抱かせない場所であった。
 
写真5 ジャズの生演奏のあるレストラン
 
写真6 ニューオリンズ大学 船舶海洋工学棟
 
 さて、ニューオリンズ大学の船舶海洋工学科の教育システムは全米の中でも非常に高い評価を得ており、The Princeton Review-2000 Editionにて「全米でNo.1の船舶海洋工学プログラム」と表彰されている。こうした背景には、教官スタッフの充実もさることながら、アメリカの大学教育認定機構であるABETによる教育プログラムの評価を積極的に取り入れて行ったことが大きな要因の一つとして挙げられる。このような認定システムは企業の方にはなじみが薄いかもしれないが、その日本版としてはJABEE(日本技術者教育認定機構(1999年設立))がある。ここ数年、この機構による教育プログラム認定システムの導入が、日本国内の大学における大学教育改革の柱の一つとして考えられている。訪問にあたっては学部教育システムやABETの運用との関連について色々と伺うことができた。
 ニューオリンズ大学を訪れると、6月の中旬と言うことで、学年末試験も終わりようやく一息ついたという雰囲気であった。学科長へ訪問の挨拶、簡単な学科の紹介の後ABET審査用の資料を閲覧することができた。資料室にはA〜Zのファイルに教科別に講義要目(学生配布用のシラバス)、講義資料、講義ノート、期末試験の問題さらにその学生の答案のサンプル、学生からの授業評価アンケート(5段階評価)が年度ごとにファイリングされ納められている。また、学科の講義要覧には、あらゆる講義科目に関して、「○○の講義の単位を取得していない者は、△△の講義を受講することができない」などの受講要件などを含む講義科目間の関連性を示した矢印なども含むフローチャートも作成されている。当然といえば当然なのかもしれないが、こうした受講要件は成績管理システムにも反映されている。こうした開架された資料は学生の閲覧こそできないが、基本的には閲覧は常時可能である。こうした講義ノートから答案サンプルまでが審査対象となるABETの評価システム導入には、当初学科内からもかなりの意見の相違や運営に対する不満があったとのことであるが、ここ1、2年でようやくシステムがスムーズに機能しだしたとのことである。案内をして頂いたRobert G. Latorre教授によれば、「講義システムやフローチャートを構築することによって、実は講義の構成や内容に柔軟性が増した気がする」というのである。一見逆説的であるが、「各講義の主題の中で最も重要な核の部分がクリアーに抽出されたことが大きく、そこを外さないように柔軟に対応できる」との説明で納得できた。もっともLatorre教授も2, 3年前ならばその柔軟性を実感できず、同じ資料を前にして違ったニュアンスを伝えていたかもしれないというから、ここ数年において教育現場の意識改革は急速に進んだのだろうという印象を持った。
 
図1 講義科目のフローチャート
(拡大画面:63KB)
 
写真7 
第2レークポンチャートレイン・コーズウェイ橋
 
 キャンパス内を一通り案内して頂いたあとに、キャンパスの北面に面しているポンチャートレイン湖にかかる第2レークポンチャートレイン・コーズウェイ橋に案内して頂いた。第2レークポンチャートレイン・コーズウェイ橋は世界で最も長い橋で全長は38kmに及び湖を南北に縦断する桁橋である。この橋、長さの割には桁が低く大型船舶の往来の少なさは伺うことができたのであるが、それもそのはず非常に広い湖の割に水深は5m程度と極めて浅い。写真のように無数の杭の上に設置されている姿を見ながら、浮体式でも可能か? などと考えていた。地元の人にとってはこの橋、世界一の長さというインパクトよりも、有料の道路というインパクトが強いようで、地元ガイドの方にも「この橋をうっかり財布を忘れて渡ると、帰りは泳ぐ羽目になる」などとジョークを交えて紹介された。財布を忘れたら市街から出るときに気づきそうなものであるが、料金徴収は市街に向かう車線からのみ$3を徴収するので、そういうジョークが完結するようだ。
 このような有意義な会議に参加でき、また学部教育の現場を調査することができましたのは、渡航費用を負担して頂いた造船学会の支援に負うところが大きく、学会並びに関係者の方々に心より御礼申し上げます。
 

* 横浜国立大学大学院







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