日本財団 図書館


IMDC出席報告
 
正員 安藤英幸*
 
 
 船舶・海洋システム設計に関する国際会議International Marine Design Conference(IMDC 2003)が2003年5月5日から8日の4日間、ギリシャ共和国・アテネ市で開催された。会場はアテネ市の中心シンタグマ広場から南へ約20km、アテネ空港から南西へ約20kmのカブーリ海岸沿いのホテルで、エーゲ海を臨む素晴らしいロケーションにある。アテネ市周辺は、来年2004年のオリンピック開催を前に建設ラッシュで、道路工事などが各所で行われ、帰国当日に訪れたパルテノン神殿も柱や梁を一部取り外して大掛かりな化粧直しを行っていた。会議はイラク戦争やSARSによる影響を懸念したが、ほぼ予定された通りのスケジュールで行われ、日本からも会議の国際委員を務められている福地先生(九大)、細田先生(大阪府立大)をはじめ多くの方々が参加された。会議の目的、意義、運営に関する国際的な組織等については本誌昨年3月号の福地先生による報告を参考にして頂きたい1)
 
 
 会議のオープニングでは、IMDC2003のLocal Organizing Committee委員長であるアテネ工科大学Prof. Papanikolaouによる開会宣言、ノルウェー・トロントハイム大学のProf. ErichsenによるIMDCの歴史の紹介などが行われた。これに続く講演発表では、6件のキーノートスピーチと91件の一般論文の講演が4日間に渡って行われ注1)、最後に次回米国ミシガン州Ann Arborで開催されるIMDC 2006の開催予告をミシガン大学のProf. Tom Lambが行い閉会となった。また、期間中にはツアーやカンファレンスディナー、ランチも催された。
 
 
 キーノートスピーチとして6件の講演が行われた。いくつか印象に残ったものを紹介する。フィンランドKvaerner Masa Yards副社長のLevander氏は、ミッションに対してイノベイティブな船舶の基本計画を行う方法として、伝統的なデザインスパイラルに変わるアプローチを紹介した。実際の船舶設計と一般的な設計論の関係をよく整理した、興味深い講演だった。ドイツGermanischer LloydのHormann氏によるDesign for Safetyと題された講演では、船舶の安全性評価における確率論導入の有効性について述べられた。特に、performance based analysis, formal safety assessment(FSA)といった手法が今後の船舶設計において重要となると指摘された。また、日本からは東大の大和教授が造船設計、製造を対象とした情報技術研究の動向について講演を行った。無線ネットワークやウェアラブル機器、知識システムなどの活用によって、組織と情報技術の新しいあり方を実現していくことが重要であるとの見解が述べられた。
 
写真1 IMDC 2003会場
 
写真2 IMDC 2003オープニング
 
表1 一般論文のトピックと論文数(括弧内)
- DESIGN METHODS(7件)
- DESIGN FOR SEA CONDITIONS(2件)
- STRUCTURAL RELIABILITY(3件)
- APPLIED HYDRODYNAMICS(6件)
- DESIGN FOR RELIABILITY(3件)
- SIMULATION OF DESIGN / PRODUCTION(6件)
- VR MODELING(3件)
- DESIGN FOR PRODUCTION(3件)
- INNOVATIVE SHIP & TERMINAL DESIGN(3件)
- PROPULSION & MANOEUVRING DESIGN(3件)
- DESIGN FOR SAFETY(18件)
- STRUCTURAL DESIGN(9件)
- OFFSHORE DESIGN & ENVIRONMENT(4件)
- OFFSHORE HYDRODYNAMICS(2件)
- HYDRODYNAMIC OFTIMISATION(5件)
- DESIGN FOR OPERATION & MAINTENANCE(3件)
- CAD / CAM SYSTEMS(3件)
- DESIGN OPTIMISATION(3件)
- NAVAL SHIP DESIGN(3件)
- Workshop on Double-Skin Design and Operation(2件)
 
 
 IMDCが船舶・海洋システムの設計に関する広い見地からの研究成果の発表・討論、研究者と技術者の意見交流を目的とすることから1)、今回のIMDC 2003においても、設計工学の造船への応用から、造船設計支援システム、フェリーの安全性に関する話題に至る多様な発表が行われた。全体で91件の一般論文は表1のトピックに分類され、各セッションはトピック毎にあつめられた2〜3の論文で構成された。
 論文のトピックの中では、表1に示すように、Design for Safetyが18件(全体の19.8%)で最も関心が高い。この内訳を見ると、貨物船のdamage stability & subdivisionに関するものが半数の9件を占めており、背景としてIMOのSOLAS条約Part B-1をあげているものが目立った。また、risk assessment手法に関するものが次いで多く3件、intact stabilityとevacuationに関するものがそれぞれ2件と続く。また、18件中15件がヨーロッパからであった。
 一般論文(全91件)の地域別の内訳を見ると、ヨーロッパが最も多く(62件)、アジア(26件)、アメリカ(3件)の順となっている。国別では開催地であるギリシャ(15件)を筆頭に、韓国(13件)、イギリス(12件)、日本(10件)、オランダ(6件)と続く。また、主著者の所属機関別に見ると、大学(54件)、企業(25件)、公的研究機関(5件)、船級協会(4件)、船主(2件)、NGO(1件)であった。
 
 
 4日間に渡ってギリシャ・アテネ近郊で行われたIMDC 2003に参加し、船舶・海洋システムに関する設計研究の最近の動向を見ることができた。日本からはアテネヘの直行便がないためイタリアを経由しての長距離の移動となったが、論文やWebからは得難い知見を得られた。また、著者らが取り組んでいる設計知識マネージメントシステムに関する研究についても、この会議の中で紹介し貴重なコメントを得ることができた。今回がIMDCへの初参加となったが、今後も貴重な情報交換の場として捉え、参加していきたいと考えている。また、IMDC 2003を通して、確率論的な視点からの安全評価が、船舶設計にとって一層重要な研究課題となっていくように思われた。
 会議のプログラム、会議の運営メンバーなどについては、IMDC 2003のWebページ2)に掲載されているので参考にして頂きたい。
 最後となるが、会議の運営に尽力された関係各位に心より感謝を申し上げたい。
 
 

* 東京大学大学院新領域創成科学研究科
注1) 中国からの発表など数件の講演がキャンセルとなったが正確な数字は確認していない
 
1)福地信義:国際会議報告 船舶・海洋システム設計に関する国際会議(IMDC)国際委員会出席報告、TECHNO MARINE 日本造船学会誌、Vol.866, pp. 89-90, March 2002.
2)IMDC 2003ホームページ、
 
 
 
 
正員 北澤大輔*
 
 
 2003年6月8日から6月13日まで、メキシコのカンクン(Cancun)にて第22回海洋工学と極地工学に関する国際会議(22nd International Conference on Offshore Mechanics and Arctic Engineering; (OMAE2003))が開催されました。会議の主催は、米国機械学会(The American Society of Mechanical Engineers)の海洋工学部会(Ocean, Offshore and Arctic Engineering)とメキシコ石油研究所(The Mexican Petroleum Institute)であり、日本造船学会は33学協会からなる共催団体の一員となっています。OMAE国際会議は毎年開かれており、日本でも1986年(東京)と1997年(横浜)に本学会の主催で開催されました。会議が行われたカンクンは、ユカタン半島先端のカリブ海とラグーンに挟まれた砂州に位置しており、周辺にはマヤ文明の古代遺跡が今もなお数多く残されています。会議は、ホテルゾーンの一角にあるグラン・メリア・カンクンホテル(Gran Melia Cancun Convention Center, Beach & Spa Resort)で行われました。
 
 
 会議のスケジュールは、初日にウエルカムパーティ、9日から12日までの4日間にテクニカルシンポジウム、13日にテクニカルツアーとなっておりました。テクニカルシンポジウムにはOFT(Offshore Technology), SR(Safety and Reliability), MAT(Materials Technology), PIP(Pipeline Technology), OSU (Ocean Space Utilization), OE (Ocean Engineering), PA (Polar and Arctic), Workshopsの8つの分野が設けられており、各シンポジウムが各会場でパラレルに開催されました。各シンポジウムの投稿論文数は表1に示すとおりです。日本からの投稿論文数は全327件中35件であり、特にMaterials Technology、Ocean Space Utilizationの各分野における日本の貢献度が高くなっております。ただし、全体的には、メキシコ石油研究所が本会議の主催をしていることもあり、海底油田開発に関連する研究発表が目立ちました。特に、大水深海域における石油開発については、現在の技術や課題に関する最新情報が報告され、人気が高いシンポジウムとなっておりました。私は、主にOcean Space UtilizationとOcean Engineeringのセッションに参加し、再生可能エネルギーや空間の利用、海洋環境問題に関する講演を聴きに行きました。再生可能エネルギーや空間の利用における海洋資源への期待の高さが感じられたのとともに、海洋環境と調和のとれた海洋開発を目指すことの重要性を強く認識しました。
 
表1 OMAE2003国際会議のシンポジウム別投稿論文数
シンポジウム名 投稿論文数
Offshore Technology 78
Safety and Reliability 60
Materials Technology 44
Pipeline Technology 37
Ocean Space Utilization 18
Ocean Engineering 47
Polar and Arctic 7
Workshops 36
 
 
 最終日には、テクニカルツアーとしてマヤ文明の遺跡であるチチェン・イッツァ(Chichen-Itza)を訪れました。チチェン・イッツァ遺跡は世界遺産に指定されています。図1はチチェン・イッツァのシンボルであるエル・カスティージョ(el castillo)と呼ばれるピラミッドの写真です。45度の急傾斜の階段を上った後ピラミッドの頂上から周りを眺めてみると、見渡す限りジャングルが広がっていました。四方に設けられた91段の階段と神殿への1段で365日を表すなど暦がすぐに分かる構造となっており、高度な天文学の知識とピラミッドの建造技術に驚かされました。
 
 
 会議開催期間中はほとんど雨が降らず、非常に暑い日が続きましたが、主催者側の様々な配慮もあり、大変有意義に過ごすことができました。最終日のテクニカルツアーを含め、会議では多数の参加者の間で活発な議論が交わされ、今回の会議は成功したと言えます。
 次回のOMAE2004は、2004年6月20日から25日までカナダのバンクーバーで開催される予定であり、詳細についてはhttp://www.ooae.org/omae2004/omae2004.htmを参照してください。
 最後に、本出張は日本財団による造船技術に関する国際会議への派遣事業の一環として行われたものであり、同財団に深く感謝いたします。
 
図1 チチェン・イッツァ遺跡のピラミッド
 

* 東京大学生産技術研究所







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION