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(3)想定6の訓練のまとめ
 油防除訓練の想定6における集油オイルフェンスと油回収装置を組合わせた複合的な防除手法についてまとめると次のとおりである。
 
イ アウトリガーの装着、集油オイルフェンスの展張及び油回収装置の設置等の作業がスムーズであり、短期間で油回収体制が整った。
ロ 「だいおう」に装着した上記の各資機材は、海上における波の上下運動や油回収時の航走、旋回運動に対して追従性が良好であった。
ハ 油回収装置の水回収訓練は、油回収装置の水移送ポンプの操作(プロペラ回転数)が適切であったこと、水流入の可動堰の高さが一定であったことから良好な水回収が行われた。
ニ 「だいおう」乗組員と油防除作業員との連携がスムーズであり、イ項で述べた各作業は無駄なく行われた。
 
(4)今後の課題
 今後の油防除訓練の課題は次のとおりである。
イ 本訓練では、移送された水は海上に放水されていたが、実際は仮貯蔵油回収タンクに移送されるため、今後は仮貯蔵油回収タンクに移送された油水の分離状況及び、回収タンク内の波による油水の挙動を調査し、仮貯蔵タンクの性能を把握する必要がある。
ロ 移送ホース内の流体は油と海水との二層流体であること、また、可動堰から流入する油水量の変動により移送ホースに振動が生じるため、この振動を抑止する方法を検討する必要がある。
ハ 集油オイルフェンス内に集油される厚膜化された流出油の量と移送ポンプの流量との関係から、移送ポンプは間欠運転となる。
 このことから、可動堰の高さが変動し、移送流量が変わるため、間欠運転の技術を習得し、油分を多く回収するためのポンプ操作の技術を習得する必要がある。
 
 以上が、防災船「だいおう」における油回収訓練結果から得た、今後の課題点である。
 
4 民間油防除の独自の油回収訓練
(1)B型オイルフェンスによるU字型展張実験
 伊勢湾防災株式会社は、上述の大量流出油事故対応訓練終了後、集油オイルフェンスの代わりに現存資機材であるB型固定式オイルフェンス20m(1ユニット)を使用してU字型展張による展張形状の検証実験を独自で実施した。
 U字型展張形状実験は、事故対策訓練で使用したアウトリガーにB型オイルフェンスの両端をロープで接続し、オイルフェンス中央部にロープを付けて後方に引っ張ることにより、U字型展張とした。
 B型オイルフェンスのU字型展張の状況を写真VII-2.9に示す。
 
写真VII-2.9 B型オイルフェンスのU字型展張の状況
 
 この実験によりB型オイルフェンスと油回収装置との組合せによる複合の油防除が可能であることが実証された。
 
(4)水回収実験と展張オイルフェンスの挙動
 U字型展張したオイルフェンス内の中央後方位置に油回収装置を配置して水回収実験を実施した。
 航走中における水回収訓練の状況を写真VII-2.10に示す。
 
写真VII-2.10 航走中における水回収訓練の状況
 
 写真で見られるように、展張したB型オイルフェンスのスカート部が水面付近まで浮上している。これは曳航速度が速いことによる現象で、一般的にB型オイルフェンスのスカート部が安定した状態の曳航速力は1knot以下である。
 また、オイルフェンス内に滞留した油は曳航速力が1knot以上になると油層下部から油滴が発生し、スカート下部から漏油する。更に曳航速度が速くなると写真VII-2.10に見られるようにスカート部が水面近くに浮き上がり、油は一気に帯状で漏油する。
 このことにより、油回収の曳航速度は1knot以下で行うことが肝要である。
 民間の油防除訓練も以上のような海上での実証実験を行っており、貴重な資料を得ることが出来た。
VIII まとめ
 流出油事故対応のための一般資機材及び複合的な防除手法に関する調査研究の初年度として、次の6分野に関して調査研究等を実施した。
 
1 油防除各種資機材等の研究・開発の経緯(防除措置の流れ)
 油防除各種資機材等の研究・開発の経緯として、過去29年間にわたる調査研究の項目を調査し、「油防除各種資機材の研究・開発の経緯(副題 油防除措置の流れ)」として図に整理した。
 今年度はその中の項目からモデリング及びオイルフェンスの分野に関して調査を行い、その概略を述べた。
 来年度は他の分野に関する調査を行う予定である。
 
2 流出油の防除訓練に関するシミュレーション
 流出油の防除訓練に関するシミュレーションとして、既存の漂流・拡散シミュレーションを用いて、軽質原油、重質原油及びC重油といった異なる油種の流出油の漂流・拡散・風化状況等について調査を行うとともに、防除シミュレーションを用いてスキマーによる回収防除シミュレーション及び分散剤による防除シミュレーションについて計算を行った。
 その結果、実海域における実験規模を検討する有益な資料を得ることができた。
 来年度は今年度の結果を基に、スキマーの数及び分散剤の散布量を増やして複数による防除シミュレーションを行い、実海域における防除訓練の資料を得ることとする。
 
3 回転翼機による油分散剤散布に関する調査研究
 回転翼機による油分散剤散布に関する調査研究として、野外において回転翼航空機による空中散布実験を行い、気象、散布速度、飛行速度、散布圧力、散布ノズル数、散布流量等に必要となる散布基礎データの取得及び散布幅、散布粒径等の調査を行った。
 その結果、散布高度は9mとするのが散布された油分散剤粒子が風等の外力の影響を受けにくく、パイロットから散布状況を把握しやすいこと、散布速度は20〜30ノットとするのがダウンウオッシュの影響が少なく、海上の油層に自己撹拌型油分散剤(S-7)の粒子を効率的に散布することができること、ノズル数は32個とするのが最も幅広い油種に対して20〜30ノットの速度で散布できることが分かり、S-7を回転翼航空機から散布する場合の最も効果的である散布条件が分かった。
 以上の成果から、回転翼航空機によるノズル数−散布速度−散布高度−散布率−油層厚の関係等のマニュアルを作成する資料を得ることができた。
 
4 海上における回収油の油水分離に関する調査研究
 海上における回収油の油水分離に関する調査研究として、閉鎖型仮貯蔵タンク模型及び開放型簡易油水分離装置模型の2種類の模型を作製し、小型試験水槽内に浮かべ異なる比率の混合油水を注入し、油水分離の状況について調査を行った。
 また、人工的に波浪を発生させ、波浪による模型の動揺及び模型内の油面の挙動の影響について調査を行った。
(1)閉鎖型仮貯蔵タンク模型による油水分離の調査の場合、波を起こさない静水中の条件では、デカンティングホースから排出された分離水にはほとんど油分が含まれておらず、油水分離が良好であることが分かった。また、波浪中では、模型のフロート内部に溜まった油分が波の影響によりフロート部からオーバーフローし、注入を続けても油層が厚くならず、油分の分離及び回収が困難であった。今後、波の影響を低減する方法として、フロート部を大きくすること、または何らかの衝立をフロート部に取り付ける対策が必要である。
 また、今回模型の袋部及びデカンティングホースは、厚さ0.2mmの塩化ビニール製透明シートで作製したが、外気温、水温ともに低い時期に実験を行ったため、透明シート部が水中で硬直し、スムーズな排水が行えなかった時があった。このため、模型の材質についての検討が必要である。
(2)開放型簡易油水分離装置模型による油水分離の調査の場合、油分が増加しても模型の形状は変形することなく良好であった。静水中、波浪中の条件とも、波及び油分の浮力によるスカート部の姿勢に変化はなく、また、回収後の油分には水は含まれておらず、油水分離が良好であることが分かった。
 更に、混合油水注入量に対する油分の回収量は、静水中の方が波浪中よりも油分の回収率が高いこと、混合油水の油分割合が高いほど油分の回収率が高いことが分かった。
 また、今回模型のスカート部は、厚さ0.2mmの塩化ビニール製透明シートで作製したが、外気温、水温ともに低い時期に実験を行ったため、スカート部が水中で硬直し、模型の形が歪んでしまうことがあった。このため、今後、模型の材質についての検討が必要である。
 以上より、開放型簡易油水分離装置による流出油の簡易油水分離の効果が高いことが分かった。来年度は大型の試作機を作製し、実用化のための実験を行う予定である。
 
5 スキマー等の洗浄方法に関する調査研究
 スキマー等の洗浄方法に関する調査研究として、スキマーの内外部を簡易な方法で効果的に洗浄するためのシステムを試作し、洗浄効果について調査を行うとともに、油水移送ホースの洗浄システムについて検討を行った。
(1)スキマー内部洗浄については、重油で汚れたスキマーの実物を用いて内部洗浄効果の試験を行った。
 その結果、5分間の運転でスキマー内部の汚れがほとんど除去され、十分な洗浄効果があることが分かった。
 事故現場で油回収作業に使用したスキマー及び油水移送ホースの内部には高粘度の油塊が残っており、現状の試作機の構造ではそれらを十分に取り除くことができない。実用化にあたっては、ラインの途中にストレーナ(こし器)等の油塊を除去する装置や内部洗浄装置の手前に汚油分離槽を取り付けたシステムを検討する必要がある。
(2)スキマー外部洗浄については、市販の高圧洗浄機を使用して洗浄効果の試験を行い、スプレーガンシステムの検討を行った。その結果、油の粘度が高い場合は、水の噴射だけでは油分を落とすことは難しいことが分かり、あらかじめ汚油面に灯油を塗布した後に水を噴射させて洗浄を行うか、灯油そのものを噴射させて洗浄を行う必要がある。
 市販の高圧洗浄機は設計上、灯油等の使用を想定していないため、新たに耐油性のある材質により洗浄機の試作を検討する必要がある。
(3)油水移送ホースの洗浄システムについては、スキマー及び内部洗浄装置を使用して検討を行った。その結果、ホースの継手を組み合わせることにより、スキマー用の移送ホース以外の異なる口径のホースでも洗浄が可能となることが分かった。
 また、作業現場にスキマー及びパワーパックがない状況も考えなければならないため、スキマーの代替となる簡易移送ホース洗浄システムを新たに検討する必要がある。
 
6 国内外の油防除訓練
 国内の油防除訓練の調査として三重県四日市港で行われた大量流出油事故対策訓練に参加し、実海域実験の計画の立案に必要な事項についての情報を収集した。







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