日本財団 図書館


V-3-4 灯油と海水の混合油水の分離状況の調査
 本実験で用いた混合油水は、灯油と水道水とを混合して作成した油水であるが、実際に流出油事故現場で回収される混合油水は、油と海水とが混合された油水である。そこで、海水と水道水では比重が異なることから、両者と灯油との分離状況等を調査した。
 灯油+海水の混合油水と灯油+水道水の混合油水をそれぞれ作成し、油水分離状況等について観察を行った。
 実験方法及び実験結果は、以下のとおりである。
 
(1)実験方法
1)油性着色剤で着色した灯油を表V-3.6に示した油水比の実験条件に基づいて天然海水又は水道水で攪拌機により撹拌し、混合油水を作成した。
2)混合油水をビーカーにサンプリングした後静置し、油水分離の状況を観察した。
 
表V-3.6 実験条件
水の種類 混合油水の油水比 海水の比重 水道水の比重 灯油の比重
天然海水、水道水 2:8 1.030 1.00 0.787
3:7
4:6
5:5
 
(2)実験結果
 混合油水比3:7の油水分離状況を写真V-3.9abに示す。
1)水道水+灯油の混合油水を採取した直後のビーカー内の状況は、V-3.9a(写真右側)に示すとおり上層が油層で油層の下層では灯油の微粒子の層があり、その下方に水の層と3層に分かれている。混合油水の採取から10分後の油水分離の状況を写真V-3.9bに示すが、中間層の灯油の微粒子はほとんど油層中に浮上して油層と水層の2層に分離した。
2) 天然海水+灯油の混合油水を採取した直後のビーカー内の状況は写真V-3.9a(写真左側)に示すとおり、水道水と比べ油水と水層とがはっきり分離している。
 中間層の灯油の微粒子層の厚みは数cmで、水道水と比べるとかなり薄い層である。この後灯油の微粒子は、1分程度で上層の油層に吸収された。
 
 以上、天然海水及び水道水と灯油との混合油水の分離状況を見ると、天然海水の方がはるかに分離状況が速いこと、また、中間層の灯油の微粒子層の厚さが薄いことが分かった。このことは、天然海水と水道水との比重がそれぞれ1.030と1.00の差があり、灯油との比重差は天然海水で0.243、水道水で0.213で、この比重差が油水分離の時間の長短及び微粒子の発生量の多寡の要因となっていることが分かった。
 なお、実海域の流出油で原油や重油等は流出後、ムース化油となって油の比重が重くなり、比重差による油水分離は悪くなることが予想される。
 
写真V-3.9a 油水比3:7、開始時
 
写真V-3.9b 油水比3:7、10分後
V-4 まとめ
1 閉鎖型仮貯蔵タンク模型による油水分離の調査
 回収油一時貯蔵用ゴムボートの模型を作製し、小型試験水槽内に浮かべて油水分離の状況の調査を行ったが、波を起こさない静水中の条件では、デカンティングホースから排出された分離水にはほとんど油分が含まれておらず、油水分離が良好であることが分かった。
 混合油水の油分濃度が高くなるほど、粘度が高くなることからポンプ及びホース等の移送系統の抵抗が大きくなり、混合油水の注入量が低下することが分かった。
 波浪中では、模型のフロート内部に溜まった油分が波の影響によりフロート部からオーバーフローし、注入を続けても油層が厚くならず、油分の分離及び回収が困難であった。
 今後、波の影響を低減する方法として、フロート部を大きくすること、または何らかの衝立をフロート部に取り付ける対策が必要であると思われる。
 また、今回模型の袋部及びデカンティングホースは、厚さ0.2mmの塩化ビニール製透明シートで作製したが、外気温、水温ともに低い時期に実験を行ったため、透明シート部が水中で硬直し、スムーズな排水が行えなかった時があった。
 このため、模型の材質についての検討が必要である。
 
2 開放型簡易油水分離装置模型による油水分離の調査
 円形のフロート部にスカートを取り付けた底なしの開放型模型を作製し、小型試験水槽内に浮かべて油水分離の状況の調査を行った。
 油水分離の調査に先立ち、注入用ホースの最適設置位置の調査と模型の形状状態に関する調査を行ったが、注入用ホースの最適設置位置の調査については、使用したポンプが比較的能力の低い市販の電池式電動灯油ポンプであったため、大きな振動を起こすことがなく、設置位置における振動の相違はなかった。
 また、模型の形状状態に関する調査については、油分が増加しても形状は変形することなく良好であった。
 静水中、波浪中の条件とも、波及び油分の浮力によるスカート部の姿勢に変化はなく、また、回収後の油分には水は含まれておらず、油水分離が良好であることが分かった。
 更に、混合油水注入量に対する油分の回収量は、静水中の方が波浪中よりも油分の回収率が高いこと、混合油水の油分割合が高いほど油分の回収率が高いことが分かった。
 また、今回模型のスカート部は、厚さ0.2mmの塩化ビニール製透明シートで作製したが、外気温、水温ともに低い時期に実験を行ったため、スカート部が水中で硬直し、模型の形が歪んでしまうことがあった。このため、今後、模型の材質についての検討が必要である。
 以上より、開放型簡易油水分離装置による流出油の簡易油水分離の実用化の目処が立ったため、来年度は大型の実機試作機を作製し、実用化のための実験を行うこととした。
VI スキマー等の洗浄方法に関する調査研究
VI-1 概要
 平成9年に発生したロシアタンカー「ナホトカ号」の重油流出事故のように、厳冬期における流出油の防除作業においては、流出油の粘度が高いため、スキマー本体内部及び油水移送ホース内部に残油が固着し、翌日の防除作業時にスキマーの可動部が固着し運転ができなかったり、移送ホース内部に油水(油は高粘度になり水は凍り付いた状態となる)が詰まり使用不能となる問題が生じた。
 そこで、本調査研究では、スキマーの内外部を簡易な方法で効果的に洗浄するためのシステムを試作し、洗浄効果について調査を行うとともに、油水移送ホース内部の洗浄システムについて検討を行った。
VI-2 スキマーの洗浄
 スキマーの本体内外部を簡易な方法で効果的に洗浄できるシステムを構築するため、スキマー本体に取り付ける内部洗浄用装置等を作製し、洗浄効果について調査を行った。
 なお、今回の検討対象とするスキマーは、独立行政法人海上災害防止センターが保有している堰式油回収機FOILEX TDS200スキマーである。
 
VI-2-1 スキマー内部洗浄装置の試作
 スキマーの本体内部は、ホッパーに接続されたラバー製のジャバラの内側に付着した残油が固着することにより、ジャバラが開かなくなる問題が発生するため、内部を洗浄するに当たってはホッパーを持ち上げる構造とする必要がある。
 このため、スキマー内部洗浄装置(内部洗浄装置)の試作機はホッパーを持ち上げて保持する脚部を取り付けた。
 また、本体内部の洗浄液は比較的安価で入手が容易であり、油の汚れに洗浄効果が高く、再利用が可能である灯油を用いることとした。
 内部洗浄装置の材質は、屋外での使用や洗浄に灯油を用いることから、耐食性、耐久性などに優れたステンレス鋼を採用した。
 内部洗浄装置の製作図を図VI-2.1に、仕様を表VI-2.1に、外観を写真VI-2.1〜3に示す。
 
図VI-2.1 内部洗浄装置
 
表VI-2.1 内部洗浄装置の仕様
外形寸法 W1,070×L1,140×H1,405mm
重量 34kg(循環ホース:6kg含む)
主要材質 SUS(ステンレス鋼)
 
 内部洗浄装置は、次の各部から構成される。
・ケーシング部
・ホース接続部
・循環ホース φ50mm、長さ2m、PVC(ポリ塩化ビニル)製
・クランプ部
・脚部







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION