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(5)風化サブモデル
 油の拡散には油特有の諸課題である風化作用を考慮しなければならない。
 流出直後では拡散の次に蒸発の過程が重要で、数日のオーダーでは乳化(エマルジョン化)が比較的重要な問題となっている。
 更に時間の経過とともに生物的な作用が卓越してくるが、その過程は不明な点が多く単位時間の変化量は少ないが、継続時間が長いという特徴がある。
 本システムでは、対象とする時間スケール(数日)を勘案して、油の風化諸過程のうち蒸発と乳化、粘性の変化までを既往資料を参考に考慮した。油の物性変化の取扱いはRasmussen5)(1985)の論文に基づくこととした。
 本システムの油風化サブモデルの機能を整理すると以下のとおりである。
 
・油の蒸発過程を取り扱える
・油の粘性変化、乳化過程を取り扱える
・油をいくつかの構成要素に分割して各要素毎に風化過程を取り扱える
・蒸発、乳化過程の開始時刻を任意にずらすことができる
・乳化後の油の見かけの体積が計算できる
 
2 入出力部分
 入出力ルーチンは、プログラムを実行する際に実際に目にふれる部分を制御するものであり、OSF Motif(Open Software Foundationの商標)と呼ばれるグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)の部品セットを用いて作成した。
 データ入力・実行等の操作は、極力順を追った対話型のメニュー形式で行えるように設計し、複雑なコマンドを記憶する必要のないようにした。
 プログラムを実際に動かすと画面にメニューが現れ、その指示に沿ってデータを入力する構造となっている。
 メニューの階層構造は図II-2.4に示したとおりである。
 本システムの特徴はメニューにもあるとおり、予測の途中で航空機による観測等によって流出油の状況が確認されたときは、それによって広がった油の全体あるいはその一部の位置を修正して、それ以後高い精度で位置を予測できる。
 出力は、
・図形表示パネルへの出力ルーチン
・経過表示パネルへの出力ルーチン
・物性モニターの出力ルーチン
・プロッター出力ルーチン
の4種類を作成した。
 
図II-2.4 入力ルーチン全体の階層構造(紀伊水道を対象としたシステムの場合)
 

引用文献
5)Rasmussen.D., : Oil Spill Mobeling A Tool for Cleanup Operations, Oil Spill Conference, 1985
 
II-8 オイルフェンスの調査研究
1 オイルフェンスの性能評価 ― 昭和50年 ―(海上保安庁)
 B型オイルフェンスの気象・海象に対する使用限界、オイルフェンスの強度及び展張作業の難易度についての調査を東京湾及び高松沖において、海上実験を実施。
 
2 オイルフェンスの使用法1)(ドレッヂ法)― 昭和53年 ― 日本財団
 オイルフェンスの使用限界を越えた条件下で、有効にオイルフェンスを活用する方法についての調査研究。
 調査研究は、展張オイルフェンスの両端の曳航ロープに抵抗重量物(ドレッヂ方式)をつけて、オイルフェンスにかかる風・潮流による移動速度を低減して、オイルフェンスの滞留性能範囲に留める方法について陸上試験及び海上実験を実施した。
 ドレッヂ法の模式図を図II-8.1に示す。
 
図II-8.1 ドレッヂ法の模式図
 
 調査の結果、ドレッヂ方式は十分に活用できる成果が得られたが、次の要件を必要とする。
 
(1)海底が比較的ゆるやかで、砂、泥等の底質であること
 岩礁等の海底においては、抵抗錨鎖等が海底にひっかかるなどオイルフェンスの両端の張力が大きく変化するような状態の海底においては、オイルフェンスは大きく変形することとなる。
(2)回収装置とのタイアップ
 本来、オイルフェンスの目的は、油の拡散を防止し、流出油層の油層厚化を図り、回収装置等による物理的回収のための手段として用いられるものであるが、この方式では特に風、潮流に減速しながら流すため、早急にオイルフェンスによって補捉した油の回収手段を講じなければ、潮の転流による油の再拡散等の状況を生ずる。
(3)狭い海域では、効果的でない
 地形的に狭い海域でこの方法を用いることは、短時間のうちに陸岸にオイルフェンスが寄せられることとなる。
 今後、一般的な条件とともに実際にこの使用法を用いる場合に、風、潮流等に対し、どの程度の抵抗錨鎖を装着するかの系統的な実験を行なう必要がある。
(4)オイルフェンスの展張法
 本報告書中に、過去に実施したオイルフェンスの展張方法について記載している。この展張方法は、1988年版に発行されたIMOのMANUAL ON OIL POLLUTION SECTION IVの6章2.11にオイルフェンスの展張(Deployment of Boom)として採用されている。
 オイルフェンスの展張方法は、次のとおりである。
1)包囲展張(Encircling)
2)待受展張(Waylaying)
3)閉鎖展張(Staggered boom configuration across a channel)
4)誘導展張(Deflection deployment)
5)曳航展張(”U” shaped towing)
6)流し展張(Free-drift containment)
 上述の各展張の模式図を図II-8.2〜7に、また、展張した事故例の写真を写真II-8.1〜3に示す。
 
図II-8.2 包囲展張
 

引用文献
1)「海上防災の調査研究」、 オイルフェンスの使用法に関する調査研究(ドレッヂ法)
海上災害防止センター、調53-1、昭和54年3月







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