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刊行によせて
 当財団では、我が国の造船関係事業の振興に資するために、競艇交付金による日本財団の助成金を受けて、「造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業」を実施しております。その一環としてジェトロ船舶関係海外事務所を拠点として海外の海事関係の情報収集を実施し、収集した情報の有効活用を図るため各種調査報告書を作成しております。
 
 本書は、社団法人日本舶用工業会及び日本貿易振興機構が共同で運営しているジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部のご協力を得て実施した「天然ガスの新たな輸送方式に関する調査」をとりまとめたものです。
 関係各位に有効にご活用いただければ幸いです。
 
2004年2月
財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団
 
はじめに
 現在、実用化されている天然ガスの輸送手段は、北米に見られるガスパイプラインネットワークにより生産地と消費地を結ぶ方法と、中東、東南アジア等の生産地と極東消費地の間に見られるガス液化施設、LNG船、再ガス化施設を用いるLNG(液化天然ガス)輸送の2通りだけである。
 これはこれまでの天然ガス事業が、大きな初期投資を必要とするパイプライン方式、LNG方式であっても十分に採算が確保される事業だけに特化してきたためである。
 
 しかしながら、最近、天然ガスの需給動向に変化が生じている。
 特にこれまで天然ガスの世界最大の産出国かつ消費国として、国内生産とカナダ、メキシコからのパイプラインを利用した輸入で国内需要を十分に満たすことができると考えられていた米国の事情が変化している。
 ここ数年間、米国の天然ガスの生産量は横ばいもしくは漸減傾向を示しており、カナダの天然ガス産出量も減少傾向にある。一方、天然ガスが環境対策に有利であること、家庭用ガス需要の増加の伸びもあって、天然ガスの需要は増加傾向にあり、価格も堅調に推移している。
 米国では供給量を増加させるために、アラスカでのガス田開発の提案、沿岸部の大水深ガス田の新規開発、カタールを初めとする海外LNGプロジェクトの立ち上げ、多数のLNG受け入れ基地プロジェクトの提案など供給源の多様化に努めている。
 
 このように供給源の多様化が図られるとこれまで規模が十分でないために開発されなかったガス田についても見直される可能性が出てきた。
 これに伴い、輸送形態についても、大規模な初期投資を必要とするこれまでと異なる形態へのニーズが出る可能性がある。今回の調査においては、これまでに提案されている天然ガスの輸送手段について調査するとともに、その中でも、実用化の可能性が高いと考えられるCNG船及び浮体式天然ガス処理施設についてより詳細に調査を行った。
 この報告書で取り上げた、世界の天然ガスの需給動向の変化と新しい輸送形態の開発状況についての情報が、関係各位の一助となれば幸いである。
 
ジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部
(社団法人日本中小型造船工業会共同事務所)
ディレクター 渡邊元尚
アシスタント・リサーチャー 氏家純子
 
1. 天然ガス輸送の動向
 過去10年間に世界のエネルギー需要は年間約1.4%の割合で成長してきた。同時期に天然ガス需要は2.2%の割合で増加している。その結果、1992年には天然ガスが世界のエネルギー需要全体に占める割合は22.4%であったのに対し、2002年では24.3%となっている。エネルギー源として天然ガスヘの依存度が高まったことにより、新たなガス田の発見と開発、そして市場にガスを供給するための輸送方法を考案する必要が出てきた。
 
 一般に、天然ガスの需要は今後数十年間にわたって大幅に増加すると考えられている。IEA1によれば、世界のエネルギー需要は2030年まで年間1.7%の割合で増加し、21世紀初頭と比べて世界のエネルギー消費量は60%増となる。IEAによれば、化石燃料がエネルギー需要の増加分の約90%をまかない、天然ガス需要は同時期に2倍になると予測されている。
 
過去10年間の世界のエネルギー需要の動向
 
エネルギー需要(単位:100万石油換算トン)
Energy Demand in Millions of Tons 0il Equivalent
 
エネルギー需要全体に占めるガスの割合
Gas as a % of Total Energy Demand
出典:BP社
 
 米国エネルギー省のエネルギー情報局(EIA2)の天然ガス需要予測も強含みである。同局は、2001年には90兆cf(約2.5兆m3)であった天然ガスの消費量は、2025年にはほぼ倍増して176兆cf(約5兆m3)に達すると予測している。天然ガスがエネルギー消費量全体に占める割合は、2001年の23%から2025年には28%に増加すると見られている。
 
世界の天然ガス需要予測
出典:EIA Annual Energy Review 2001
 
 大手エネルギー企業もまた、世界のエネルギー供給源として、天然ガスの重要性が次第に高まると考えている。日本で開催された2003年世界ガス会議で、ExxonMobil社の最高経営責任者(CEO)は2020年までに「ガスは世界のエネルギー需要の4分の1を占めることになるであろう。これは石油に次いで第2位である」と語った。彼は、世界のエネルギー需要の増分の3分の1を天然ガスが供給することになる、と述べた。同じ会議で、Royal Dutch Shell社の会長は、「2025年には世界の天然ガス消費量が石油を追い越すであろう」と述べている。BP社のCEOは過去20年間に天然ガスの供給コストが大幅に低減したことを強調したうえで、「世界の天然ガス確認埋蔵量は5,500兆cf(約156兆m3)であり、さらに5,000兆cf(142兆m3)が存在すると推定されている」と指摘した。
 
 天然ガス輸送の観点から、状況はさらに大きな動きを見せている。BP社によれば、世界の天然ガス貿易は過去20年間に年間約9%の割合で成長してきた。現在、世界のガス消費量の23%は国外からの輸入によるものである。1990年にはこの数字は15%であった。天然ガス総貿易量のうち、現在4,314億m3はパイプラインで輸送されており、1,500億m3がLNG船等で輸送されている。
 
 天然ガス貿易量の増加傾向は今後も継続すると考えられている。Royal Dutch Sbell社は、2000年から2030年の間に、パイプラインによる天然ガス貿易量は200%、LNGによる貿易量は500%増加すると予想している。対照的に、同時期の天然ガスの国内自給の増加は75%にとどまると予測している。
 
 今後大幅に増大すると見られている需要を満たすためには、適切な輸送手段がないために開発されていなかった天然ガス資源を利用する必要が生じる。随伴ガスの発生するオフショア油田や、ガス輸送パイプラインやLNG液化・貯蔵・出荷設備の建設に膨大なコストがかかるためこれまで開発の採算が取れなかったような埋蔵量の少ないガス田等が検討の対象となるであろう。英国のオフショア・エンジニアリング会社であるArup Energy社によれば、パイプライン敷設が経済的に成り立たないガス田の埋蔵量は世界で200兆cf(約5.7兆m3)を超えるが、このうちLNG輸送に向いているのはごく一部である。
 
 以上の点から、今後数十年間に天然ガス輸送需要は著しく増大すると考えられる。エネルギー需要全体が成長を続け、ガスがエネルギー需要全体に占める割合が増加することによって、海外からのガス供給量はますます増加し、輸送手段がないために開発が難しかったガス田を活用するための解決策を見出す必要が出てくるだろう。今日、CNG(Compressed Natural Gas: 圧縮天然ガス)輸送を初めとする、新たなガス輸送コンセプトに関心が集まっている背景には、このような状況が存在するのである。
 
天然ガスの主要な荷動き
出典:BP Statistical Review of World Energy 2003
 

1 IEA: International Energy Agency 国際エネルギー局
2 ElA: Energy Information Administration エネルギー情報局







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