日本財団 図書館


まえがき
 
 四面環海である日本は、海岸線の57%が人が親しみ愛する自然海岸であり、25%が岩場や岩礁、崖等で形作られ美しい景観を呈している。
 しかしながら、近年の海岸は海洋ゴミの放置、不法投棄、他国や河川からの流入等によりあらゆる種類のゴミが漂着、散乱し、自然景観を損ない、海を訪れた人々に失望感を与え憩いの場を奪っている。そればかりか、海洋生態系や漁業資源等にも大きな影響を与えている。
 一方、岩場、岩礁、崖等では、危険地帯でもあることから、漂着したゴミは清掃等ができず、再び波間に浮遊し、海岸に漂着あるいはそのまま堆積するという現状である。
 海洋ゴミを無くするということは、世界にとっても放置することができない、今後の海洋環境の向上にとっても重要な問題であるが、それらの実現には多額の費用を要し、必ずしも恒常的な活動ができないという状況である。
 全国の海岸線を持つ地域では、自治体、漁協、環境ボランテア、市民等が、環境を向上させ恒常的に海岸の美化活動を継続させようと努力している人にとって、海岸の清掃費用は大きなアキレス腱となっている。
 財団は、このような海岸ゴミの状況に鑑み、自治体、漁協、環境ボランテア、市民等、地域の人々が相互に協力しあい、海岸の美化活動を恒常的に続けるための活動システムについて調査研究を進めてきたが、平成14年度は、地域にマッチングした「実践的循環型社会活動システム」を立案し、平成15年度には全国各所で「地域の海洋環境貢献活動(健康な海づくり)プロジェクト」を実践した。これは、海洋教育、地域通貨、地域活動参加メリット等の組み合わせも考慮したものである。
 一方、岩場、岩礁、岩場等の危険地帯における海洋ゴミの集積・処理技術等の調査研究を行い、地域の海洋環境貢献活動システムと海洋ゴミ集積・処理システムを組み合わせた、総合的海洋ゴミ清掃処理運用システムの構築について調査研究を行った。
 本報告書は、その成果をとりまとめたものであり、これが全国各地域において一つの実践的なアクションプログラムとして、広域的に展開できる一助となればと期待するものである。
 なお、本調査研究は、競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて実施されたものである。
平成16年3月
(財)シップ・アンド・オーシャン財団
会長 秋山 昌廣
 
平成15年度「海洋及び沿岸域のゴミ問題に関する調査研究」
 
研究担当者 寺島 紘 士 SOF海洋政策研究所 所長
 菅原 一美  SOF海洋政策研究所 研究員
 金 鍾悳   SOF海洋政策研究所 研究員
 
「海洋及び沿岸域のゴミ問題に関する調査研究」事業について
【地域の海洋環境貢献活動プロジェクト(「健康な海づくり」プロジェクト)】
 
はじめに
 SOF海洋政策研究所では、日本財団の助成により平成14年度から「海洋及び沿岸域のゴミ問題に関する調査研究」事業として海のゴミ問題解決のためのプロジェクトを開始した。
 このプロジェクトは、海浜のゴミ対策に苦労している地域の方々と協力して、海浜清掃活動に環境チケット(地域通貨の一種)を取り入れ、地域経済の活性化も視野に入れた実践を伴う循環型プロジェクトである。
 また、海洋環境教育プログラムを通じて、人々(特に子供たち)の海洋のゴミ問題への関心を促し、健康できれいな海を取り戻すことを目的として、SOF海洋政策研究所が提案し、実践している。
 
1. 海洋ゴミ問題についての基本認識と取り組みについて
 海洋をめぐる環境問題解決のためには、各コミュニティでの地道で実践的な取り組み無しには問題の解決ができないと考える。
 その際、最も大事なことは、その取り組みが「継続的」に推進されることである。
 そのためには、個々の地域社会を構成する当事者(行政、企業、NPO、地域住民など)が連携して地域に密着した活動を行うことが必要である。
 この様な社会活動システム作りがまず必要となるが、SOF海洋政策研究所では、その様な地域社会における社会活動システムモデルを開発し、それを地域のニーズに合わせて具体的に実践するプロジェクトを展開しており、大きな成果を上げている。
 
2. モデルの特色
1)海洋環境貢献活動(海浜清掃活動)と環境チケット(地域通貨の一種)の組み合わせ
2)子供たちへの「海洋環境教育」に工夫を凝らしたプログラム 、すなわち
(1)海の工作教室 と
(2)海の生物工作教室
を実施している。
 本「モデル」は、海浜清掃活動や実践を伴う海洋環境教育プログラムを通じて、海洋のゴミ問題への関心を促すことを目的として、SOF海洋政策研究所が提案している。
 
3. プロジェクトの内容
1)海洋環境貢献活動
 海岸で清掃を行いゴミの種類や量、ゴミはどこから来るのか等を教えると共に、海の工作教室の材料として海浜で貝殻や木片等を集める。
 環境貢献活動として、海に限らず河川や道路、公園等での環境保全活動を取り入れている地域もある。
 
2)環境チケット
 地域の環境貢献活動事務局が発行する環境チケットを、海浜清掃の参加者に配布し、環境チケットで海の工作教室や海の生物工作教室に参加する資格を与える仕組みである。(環境教育と環境チケットを結びつける仕組みは全国でも珍しい試みである。)
 これまで活動を実施した地域では、地域のイベントで使える1日限り有効のチケットや、商店、公共施設、レジャー施設等で割引が得られるシステムを取り入れている地域もある。
 
3)2つの工作教室
 工作教室には、海浜の貝殻、木片等の漂流物と砂、小石、植物種子・葉等を用いて木台に絵を書いたり工作を行う「海の工作教室」と、海水魚(ヒラメ)の稚魚をペットボトルで育ててミニ水族館を作る「海の生物工作教室」がある。
 ミニ水族館は、水道水と塩で作った海水と水浄化機能を有する石を2リットルのPETボトルに入れ、海水魚(ヒラメ等)を育てるもので、餌は人工配合飼料を与えている。 このミニ水族館は、特別な装置や手入れ等は不要で、上手に飼うと数ヶ月は水を換えずに飼うことができる。
 
 SOF海洋政策研究所では、本プロジェクトを通じて海洋環境保護に対する市民やボランテア組織、地元商工業者、自治体等の積極的な参加を促し、海洋環境に対する地域社会による自発的で持続可能な取り組みを日本全国に広めたいと考えている。
 日本各地で地域社会が官民一体となった海洋環境問題の解決のための活動を継続的に行い、それを発展させることにより、日本の美しい海岸を取り戻すことを期待する。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION