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海洋白書 2004創刊号 日本の動き 世界の動き

 事業名 海洋シンクタンク事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


3 海洋生態系の保全と海の健康診断
 以上, 沿岸海域を中心に海洋環境モニタリングの現状から見た課題について述べてきたが, もっとも基本的な課題は海洋環境保全の総合的な目標をどう設定するかである。従来は主として人間の健康の保護と生活環境の保全という観点から海洋汚染の防止が図られてきたが, 最近はそれに加えて, 海洋の生態系を保全することの大切さに対する認識が高まってきた。
 最初にも述べたように, 地球の物質循環において重要な役割を担っている海洋生態系の機能(たとえば図1-4-6)を良好な状態に保つことは, 海洋生物のみならず人類の生存にとっても必要不可欠である。そうした生態系保全を視野に入れた海洋環境モニタリングの目標や基準を具体的にどのように設定していくかは, これからの重要な検討課題である。
 最近, 海洋環境の健全性や健康状態を複数の指標で具体的に表現し, ある基準のもとでその現状を診断しようとする新たなモニタリング調査の枠組み(通称「海の健康診断」)の検討が進められている。(注)これは人間活動の影響に対して敏感な閉鎖性の強い海湾を主な対象として, 人間の健康診断を定期的に行うのと同じような形で, 海の環境の変化をたえずチェックできるようにしていこうとするもので, 海の健康さを, 生態系の安定性(復元力)と物質循環の円滑さの2つに関連する諸事項(表1-5参照)を用いて診断することが提案されている。
 「生態系の安定性」は生態系の構造(ストック)の特性を示すもので, 生態系を構成する生物種組成や生物量が急激に変化することのない状態が健康と定義されている。一方, 「物質循環の円滑さ」は, 文字通り生態系の物質循環機能(フロー)の特性を示すもので, 栄養物質などの供給や生産と海水交換, 生物化学的な除去・分解とのバランスが保持された状態が健康と定義されている。参考までにこの「海の健康診断」の手順を図1-4-7に示す。
 
図1-4-6 沿岸域の生態系の基本的な構造と機能
(拡大画面:162KB)
(出典:シップ・アンド・オーシャン財団研究報告書「海の健康診断」)
 
図1-4-7 「海の健康診断」の流れ
 
表1-5 1次検査項目
健康診断のカテゴリー 検査項目 実用的なパラメータ
生態系の安定性(復元力) 生物組成 生態分類群ごとの漁獲割合
生物の出現状況
生息空間 藻場・干潟面積
海岸線延長
生息環境 有害物質
底層水の溶存酸素濃度
物質循環の円滑さ 流入負荷と海水交換 負荷滞留時間
潮位振幅
基礎生産 透明度
プランクトンの異常発生
堆積・分解 底質
底層水の溶存酸素濃度
除去 底生魚介類の漁獲量
 
 人間の健康診断がそうであるように, まず地理や気象条件などの基本的な情報の整理と比較的簡便な方法を用いた1次検査を行い, 健康状態に赤信号が点滅している場合には, その原因究明のために専門的な精密検査(2次検査)を行う。そして最終的に必要があれば, 環境管理あるいは環境改善のための「処方箋」を提示することになる。
 今後さらに, 健康診断の項目・基準などの妥当性や, 診断システムの実用化に向けた検討が必要と考えられるが, 海洋環境を生態系の視点から総合的に診断・評価する方法として注目される。
(中田英昭)
 

 シップ・アンド・オーシャン財団研究報告書「海の健康診断」







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