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海洋白書 2004創刊号 日本の動き 世界の動き

 事業名 海洋シンクタンク事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


第4章 海の健康問題と診断手法の開発
第1節 世界の海の健康状態とGESAMP「苦難の海」報告
 
図1-4-1 GESAMP「Sea of Troubles」の表紙
 
図1-4-2 西表島のマングローブ
 
 海洋環境の科学的側面について多くの権威ある研究や報告書を出している「海洋環境保護の科学的側面に関する合同専門家グループ」(GESAMP)は, 世界の海洋・沿岸域がどの程度健全な状態にあるかについての現状を総合的に分析した報告書を2001年に刊行し, 多くのインパクトをもたらしている。
 “A Sea of Troubles(苦難の海)”と題された同報告書(概要は第3部参照)は, 人類とその生存基盤である海洋の関係が変化しており, 過去10年間の世界的な多くの努力にも拘わらず, 世界の海洋の状態は劣化し続けていることを指摘し, サンゴ礁, 湿地, 海草地, マングローブ, 海岸線, 河川流域, 河口などとともに, 半閉鎖性海域の汚染, 沿岸開発の問題を取り上げている。
 同報告書はこれに関連して, 概略つぎのように述べている。
 
 世界の沿岸地帯と同地帯にある生物の生息地は, 都市や町の拡大, 観光の増大, 工業化, 養殖, 港湾開発, 洪水対策などの, 杜撰な計画と規制のもとでの人間活動によって, どんどん破壊されている。特に, 急速な人口増加と深刻な貧困問題をあわせ持つ途上国の沿岸においてひどい状況にあるが, 先進国の海岸線もしばしば開発されすぎている。
 海洋資源に対する圧迫も大きい。海洋に導入される廃棄物の量も, 世界的に大きくなっている。殺虫剤, 肥料, 農業用化学薬品の使用は世界的に増加しており, 水に流されたり風で飛ばされて陸上から海洋に流れ込む量も増えている。漁業は殆どいたるところで乱獲状態にある。沿岸域は過剰開発されて, 生物の生息地が破壊されている。本来の生息地から遠く離れたところへの生物種の故意または偶然の侵入が大規模に発生しており, 生態系や経済を混乱させている。
 この10年間科学者たちは地球温暖化を予測してきたが, 海は大量の熱を蓄積するので, 地球が温暖化する速度を決定づける。そして, いったん温暖化が始まったら, その過程を食い止めることを非常に難しくする。一方で, 気候変動は海流のパターンを変えると予想されているが, そうなると, 漁業は混乱し, 生態系も変わり, 海面が上昇して標高の低い島や沿岸部を浸水させるなど深刻な影響が及ぶことになる。
 鉛や水銀や油などの汚染物質は, かつてほど脅威だとは思われなくなった。同様に, 放射性核種も, 世論が思うほどには深刻ではない。対照的に, たとえば下水のような他の汚染物質が, 以前認識されていた以上に健康に悪影響を与えることがわかった。
 陸上活動(ないし陸上に基盤をおく活動)こそが主要な汚染源であること, 及び主要な問題は, 沿岸の工場などの点源からくるのではなく, 農業のような広範な活動からくることが, なお一層明確になった。
 
 GESAMP報告書は, こうして数十年前に指摘された問題のほとんどが解決されていないばかりか, その多くはさらに悪化していると指摘する。そして, 部分的には改善も見られるが, 全般的に悪化のペースと規模が常に改善を上回り, また新たな脅威が次々と生まれ, 海洋と沿岸の伝統的利用とそれらから人類が得てきた便益が広汎に損なわれつつある, と警告している。
 同報告書は, これら諸問題の原因は, 一部は諸政府の政治的・財政的コミットメントの不充分性か能力不足, 又はその双方にあるが, それらは強力な社会的・政治経済的原動力にも深く根付いているとする。そして, 将来の対策としては, とくに科学と政策との連携, 予防的アプローチ, 及び統合沿岸管理(ICM)の推進を奨励している。
 同報告書は2002年のWSSDの準備過程においても注目を浴び, WSSD実施計画は, 海洋環境の陸上活動からの保護に関する世界行動計画(GPA)の実施促進, とくに2002〜2006年は都市廃水, 自然変更及び生息地の破壊, 富栄養化対策の重点実施を定めている。また同計画は, 的確な意思決定のための基本的な基盤としての海洋・沿岸域生態系の科学的理解と評価の改善を強調し, 海洋環境の現状についてのグローバルな定期的報告・評価制度を国連の下で2004年までに確立することを呼びかけ, その際, 現存の地域的評価を発展させて社会的・経済的側面も含めるよう求めている。国連総会は2002年12月の決議において, 上記勧告を歓迎し, そのような制度を同期限までに確立することを決定し, 事務総長に対し, GESAMP報告書も考慮しつつそのための準備にとりかかることを要請している。
(林司宣)
 
第2節 海洋環境モニタリングの現状と課題
1 海洋環境保全とモニタリングの現状
 海洋は地球を包む薄い水の膜であり, その水の膜のごく表層で植物プランクトンによって合成される有機物が, 人類を含むさまざまな生物の生命を支えるエネルギー源となっている。こうした海の働きが健全に保たれれば, 海は将来にわたって貴重な蛋白資源を供給し続けてくれる。海の環境を保全し健全な形で将来の世代に引き継ぐことの意義はまさにこの点にある。
 ところが, 地球上の人口やエネルギー消費の急激な増加にともない, 温暖化などさまざまな環境変化が引き起こされ, 海洋を含む地球の物質循環のシステムに大きな影響を与え始めている。また, これまでに自然界に放出された各種の人工化学物質の多くは, さまざまな物質循環の経路をたどりながら海に運び込まれ, 生物の体内に著しく濃縮される。
 
図1-4-3 
気象観測衛星「ひまわり」から見た地球
世界の海はつながっている
 
 一方, 身近な海岸では埋立や護岸の造成などにより, 生物生産や浄化に重要な役割を果たしてきた干潟や藻場などの浅海域が急速に失われ, 陸から負荷される過剰の栄養分や有機物による環境の悪化を加速している。その影響は, 大都市圏を背後に持ち汚濁が進行した内湾域から沖合に向かって拡大する兆しを見せている。
 このような海洋環境の現状に対して, まだ大きなうねりとはならないまでも, 最近いくつか環境の保全と再生に向けた動きが出てきている。たとえば2002年2月には都市再生本部(2001年5月に内閣に設置)に「東京湾再生推進会議」ができ, 大都市圏の海の再生を図るモデルケースとして東京湾の水質改善を推進するための行動計画づくりが開始された(2003年3月に計画の概要を発表)。これまでの縦割り行政の弊害をなくすべく関係省庁や関係自治体が有機的に連携し, NPOや市民の参加・協力体制のもとでさまざまな事業を展開しようとしている点など, 今後の沿岸域における活動のあり方を示している。
 
図1-4-4 行政が実施する定期調査測点の一例:東京湾
における水質モニタリングの基準点
 
 さて, 海洋環境に対する人間活動の影響の程度を適切に診断・評価することがその保全と管理を進める上できわめて重要であることはいうまでもない。そのためにはそうした検討の基礎となる環境変化の実態に関する海洋現場のデータが不可欠であり, 海洋環境のモニタリング体制の強化を図ることが強く求められている。
 上述の東京湾の事例でも, 水質等のモニタリングは行動計画の重要なポイントの一つにあげられている。これまで日本周辺海域に関しては, 各種の法令に基づいて, 「公共用水域水質測定調査」をはじめとする環境省所轄のモニタリング調査, 海上保安庁の「海洋汚染調査」, 気象庁の「海洋バックグラウンド汚染観測」等が継続的に実施されている。しかしながら, その調査の範囲や頻度は海洋の広がりと環境変動の大きさを考えれば十分なものとはいえない。
 また, これらの調査はいずれも水質の汚濁や汚染に着目したものであり, 環境基本法や環境基本計画が求める海洋生態系を含めた総合的な環境保全をめざすためのものとしてはおのずと限界がある。
 
2 沿岸海域の環境モニタリングの課題
 とくに沿岸海域の環境モニタリングの現状に目を向けると, そこでも水質の監視が中心で生物生態に関する情報が著しく不足している点が第1の問題としてあげられる。沿岸の人間活動等に起因する環境変化の影響が累積的にあらわれる生物生態情報を, 長期的・恒常的に蓄積していくためのモニタリング体制を早急に整えていくことが必要であり, それは海を利用しそこから何らかの恵みを得ようとするものの責務である。
 第2に, 現状のモニタリングのほとんどは「点」の環境監視が主体で, これから重要性を増す生態系の物質循環や物質収支の全体像を一つの「構造」としてとらえ, その変化を総合的に監視する視点に欠けていることも問題である。
 たとえば, 各自治体の環境関係の部署で行われている公共用水域水質測定調査では, 上記の観点からもっとも重要な項目の一つと考えられる底層水の溶存酸素濃度の測定が, 特定の海湾を除けばほとんど実施されておらず, そもそも海域の表層以外のデータはどの水質項目についても驚くほど少ない。
 
図1-4-5 沿岸におけるモニタリングの例
 
 また, この調査の海域における測点の配置は, 河川が流入する場所などごく沿岸部に偏っており, 海湾全体の変化を知るにはきわめて不十分である。これからは環境管理の現場でもモニタリングで検出された海の環境変化の原因やその生態系への影響に踏み込んだ検討が求められるようになるものと考えられる。その意味でも, 調査項目や測点配置など計画そのものの再検討が急務である。
 第3には, データの管理や利用の問題がある。モニタリングの目的に応じて個々のデータの質を向上させること, また, 他のデータとの互換性を高め情報のネットワーク化を進めることはもとより, データの利用についても, その迅速な公開と共有化を促すための体制づくりが必要である。
 たとえば, 海に面した各自治体の水産試験場等で続けられている各種の定線調査は, 水産関連の環境情報について, おそらく世界でも類がないモニタリング測点網を長年にわたって維持している。残念なのは, そのデータが誰でも利用できる形で整備・公開されていないことである。海の環境保全の実をあげていくためには, 当事者ばかりでなく広い範囲の人たちがその意義について共通の認識を持つことが必要である。海の現場でデータをとり続けることは大変な労力と経費を要することであり, データの利用に関してその当事者に優先権を与える必要があることに異論はないが, 一定のルールのもとで広くデータを共有できる仕組みを是非とも確立すべきである。
 モニタリングのように幾世代にもわたって調査記録を地道に積み上げていく仕事は, ともすれば蔑ろにされがちである。実際に予算の削減のため, 水産試験場による定線調査の回数や測点数を減らす事例や定線調査そのものを中止する事例が相次いでいる。これはわが国周辺の沿岸海域における環境情報の基盤を揺るがす大変憂慮すべき事態である。モニタリングの意義をさらに強力に訴えていく必要があることは言うまでもないが, これまでのデータや情報をできるだけ分かりやすい形で公開し, その共有化の仕組みを確立していくことはその意味でもきわめて重要である。
 

GESAMP(The Joint Group of Experts on the Scientific Aspects of Marine Environmental Protection)
 国連本部, 国際海事機関(IMO), 国連環境計画(UNEP)等, 海洋問題に関係する国連の8つの機関に対して助言する任務をもつ, 1969年に設置された専門家グループ。そのメンバーは個人の資格でこれらの機関から任命されるが, その典型的作業は, 各問題に関する同グループ外の専門家も加えた作業部会を通じて行われ, 各分野での幅広い研究と英知を結集する。
 
 「アジェンダ21」の陸上起源の海洋環境破壊に関する規定を実施するための具体的行動を掲げた総合的な文書で1995年にワシントンにおいて採択された。国連環境計画(UNEP)がオランダにGPA調整事務所を設置して, その世界的実施を推進している。
 
地球の物質循環
 大気圏, 地球圏を含む地球全体の炭素や窒素などの循環。







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