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第6 電線の引張り試験
 
 がい装電線をがい装なし電線に変えて電装工事をする際、同じように電線を取り扱うことが出来るかどうか確認のため、がい装なし電線及びがい装電線の代表的な電線サイズについて、電線全体及び導体(より線)に引張り荷重(張力)を掛けて、伸び及び電気的特性(導体抵抗)の変化を測定する等の引張り試験を実施した。
 
 次のがい装なし電線及びがい装電線並びにその導体(より線)の9種類の試験体について引張り試験を実施した。
 
種類 がい装なし電線 がい装電線 導体(より線)
規格 JIS C34100.6/1 kV TPY JIS C34100.6/1 kV TPYC  同左の導体(より線)
導体公称断面積
mm2
1.5 4 10 1.5 4 10 1.5 4 10
絶縁体厚さ
mm
1.0 1.0 1.0 1.0 1.0 1.0 - - -
シース厚さ
mm
1.2 1.2 1.4 1.2 1.2 1.4 - - -
あじろがい装線径
mm
- - - 0.3 0.3 0.3 - - -
仕上外径
mm
11.2
±0.5
13.4
±0.6
17.0
±0.6
12.5
±0.5
14.7
±0.6
18.3
±0.6
1.56 2.55 4.06
導体抵抗(20℃)
めっきありΩ/km
12.2 4.70 1.84 12.2 4.70 1.84 12.2 4.70 1.84
概算重量kg/km 150 255 485 245 365 625 13.5 36.0 90.1
注:JIS C3410による。
0.6/1 kV TPY : 0.6/1 kV TPY 耐炎性3心EPゴム絶縁ビニルシースケーブル
0.6/1 kV TPYC: 0.6/1 kV TPYC 耐炎性3心EPゴム絶縁ビニルシースあじろがい装ケーブル
ヒエン電工(株)製を使用した。介在物(充填材)はポリプロピレンの紐を使用している。
 
(1)試験設備及び測定機器
1)引張り試験装置は、図6.1の概略配置に示すように、手動ウインチ(減速機)(1回転で約1mm移動)を利用した引張り機械を使用して、電線及び導体(より線)を水平方向に引張り、電線及び導体(より線)に荷重(張力)を掛け、荷重、伸び及び導体抵抗を測定する仮設の試験装置を用いた。
2)荷重は、ロードセル(共和電業製 形式 LT-500KF 5KN及び形式 LT-2TF 20kN)及びデジタル表示器(共和電業製 形式 SDT-303B)を用いて測定した。
3)伸びは、鋼製スケールを用いて測定した。
4)電線の導体抵抗(増分)は、「携帯用ダブルブリッジ」(横河電機製作所製 形式 2769 計測範囲 0.100mΩ〜110.0Ω)を用いて測定した。
(2)クランプの方法
 試験体の両端のクランプは、当初タルリットクランプを使用することを検討したが、強度測定のほか、導体抵抗を測定することとしたため、また、実際の布設工事に類似したクランプとするのが望ましい等の理由からケーブルグリップを使用することとした。
 次のケーブルグリップを使用した。((株)ぐりっぷ製 )
 
型式 仕様 適用外径
mm
試験電線
ABS-12特 SUS 0.9ψ(3×7)24本
ダブル編み
ソックス部360mm
12〜18 TPYC-1.5、4、10
TPY-4、10
ABS-8特 SUS 0.9ψ(3×7)24本
ダブル編み
ソックス部300mm
8〜12 TPY-1.5
N-1特 SUS 0.8ψ(3×7)8本
ソックス部150mm
2〜5 導(より線)1.5、4、10mm2
 
 導体(より線)の1.5mm2及び4mm2の試験体は、ケーブルグリップのサイズの関係からそれぞれ3本、2本を1組としてクランプして試験した。
 ケーブルグリップの外観及び装着例を写真6.1及び写真6.2に示す。
(3)試験要領
1)引張り荷重(張力)をゼロから設定値(設定荷重)まで上げて、その引張り位置を保持し、伸び及び導体抵抗を測定した。次に荷重をゼロに戻し、伸び及び導体抵抗を測定し、伸びが残るかを確認した。次に荷重を順次増加させて、数点の荷重において繰り返し測定した。
 引張り速度は適宜とした。
 試験は試験体の種類毎に、3回繰り返し実施した。
2)試験体は、ケーブルグリップ間約2mを確保し、標点間は約1mとし、ケーブルグリップのソックス部及び導体抵抗測定引き出し部を含めた試験体の全体長さは約5mとした。
3)がい装なし電線及び導体(より線)の設定荷重は、導体断面積×68.6N/mm2(布設時の導体許容応力、7kg/mm2)相当の荷重を含み、電線の電気的特性(導体抵抗)が変化するところ又は弾性限界を超えたところまでとし、概ね3〜5%の伸びを目処とした。がい装電線の設定荷重は、がい装なし電線に準じた。破断試験は実施しなかった。荷重は10kN(980kgf)以下とした。
4)伸びは、標点間約1mの伸びを目視で0.5mm単位で読みとり、測定し、その増加割合で算出した。
5)電線の導体抵抗は、3心の導体の内1心、2心又は3心を直列に接続して測定し、導体抵抗増分は、ケーブルグリップのソックス部を含む部分が張力の影響を受けたと推定し、その長さ部分の導体抵抗が変化したものと見なして、その増加割合で算出した。
導体抵抗増分%=(Kt(Rx-Ro)/l2)/(Kt・Ro /l1)×100
 Rx=荷重時又は荷重ゼロ戻し時の導体抵抗測定値(mΩ)
 Ro=荷重ゼロ時の(元の)導体抵抗測定値(mΩ)
 l1=延べ導体測定距離=L1×a(m)
 l2=延べ荷重距離(導体抵抗影響距離)=L2 ×a(m)  Kt=温度換算係数
 L1は及びL2は図6.1に示す。 aは導体の直列接続数
 導体(より線)の導体抵抗は、導体の両端を絶縁し、ケーブルグリップのソックス部を含まない2.2mの長さを直接測定し、導体抵抗増分は、その増加割合で算出した。
 導体抵抗の温度換算には室温を用いた。
6)試験後、試験体を解体し、外観を観察した。
 
1)ケーブルグリップと試験体との間には滑り、抜け等は見られず、また、導体・介在物(ポリプロピレン)の滑りも見られず、また、伸びと導体抵抗増分がほぼ比例している傾向から試験体は導体を含めて一体でクランプされていると推定される。
2) 伸び、導体抵抗増分は測定精度の点からは絶対値として評価することは困難であるが、相対的な傾向は推定可能と思われる。伸び(割合)は標点間約1,000mmの伸びを測定していることから、比較的精度が高いと思われるが、導体抵抗増分は、測定器の精度、温度変化、算出方法等から精度はあまり期待できないと思われる。
3)図6.2-1に導体(より線)の伸び−導体公称応力曲線(通常の引張試験での応力−ひずみ曲線に相当する)を、図6.2-3に導体抵抗増分−導体公称応力曲線を示す。また、図6.2-2及び図6.2-4に除荷重時(荷重ゼロ戻し時)の伸び、導体抵抗増分と導体公称応力との関係を示す。
 導体(より線)の強度特性については、図6.2-1から、比例限度は約140〜160N/mm2、弾性係数は約55,000〜70,000N/mm2と推定される。図6.2-2から、弾性限度は約110N/mm2と推定される。
 (なお、電気工学ハンドブックには、軟銅線の場合、引張強度は25〜29.5kg/mm2、弾性限度は4.2〜11.2kg/mm2、弾性係数は5,000〜12,000kg/mm2 と掲載されている。)
 電線の布設工事等に際して推奨・規定されている導体の許容応力68.6N/mm2(7kg/mm2)相当の荷重(1.5 mm2 3心309N、4 mm2 3心824N 、10 mm2 3心2059N )における伸びは約0.1%、導体抵抗増分は約0.15%と推定される。また、除荷重時(荷重をゼロに戻した時)は、いずれも元に戻ることが確認された。
4)電線の荷重と伸び、荷重と導体抵抗増分の関係を示す曲線を導体公称断面積別に図6.3〜図6.5に示す。
 図6.3-1、図6.4-1及び図6.5-1から、がい装なし電線及びがい装電線の比例限度は、導体(より線)の比例限度とあまり変わらないことが読みとれる。これは、導体以外の電線構成物(シース・介在物等、あじろがい装)の弾性係数が、導体の弾性係数より小さい(導体に比較して伸びやすい)ことから、電線の弾性係数は導体の弾性係数に依存し、比例限度の増加にはそれほど寄与していないことを示している。
 なお、比例限度を超えた伸びが大きい範囲(概ね、0.4〜0.5%以上)では、導体(より線)、がい装なし電線及びがい装電線のそれぞれの曲線が明瞭に分かれて、導体(より線)の曲線とがい装なし電線の曲線の間は介在物・シース等が強度分担し、がい装なし電線の曲線とがい装電線の曲線の間はあじろがい装が強度分担していることが明瞭に現れている。これは、当然布設工事に使用してはならない張力範囲であるが、がい装なし電線とがい装電線の強度の違いを読みとることが出来る。
5)電線の弾性限度は、図6.6及び図6.7から、概ね、110N/mm2 程度と推定される。
6)がい装電線及びがい装なし電線の導体の引張応力が68.6N/mm2(7kg/mm2)となる荷重は、測定精度等の点から、推定できなかったが、導体(より線)の場合に比較して、あまり大きくないと推測される。
7)グラフに関する注記
(1)データは3回の試験の平均値を示す。
(2)(荷重時)とは、設定荷重に上げて、引張り位置を保持して測定した値。(時間経過とともに荷重は若干低下する。)
(3)(荷重ゼロ戻し時)とは、荷重をゼロに戻した直後に測定した値。
(4)導体(より線)の荷重は、3心相当に換算した値。
(5)導体公称応力は、荷重/導体公称断面積で算出した値。
8)表6.1から表6.9にそれぞれの試験体の試験記録の一部を示す。
9)引張り試験後、試験体を解体し、外観を調査した結果は次のとおりであった。
 なお、試験の最終荷重及び伸びは次のとおりである。
 
電線の種類 最終荷重
(N)
伸び
(%)
異常の有無
TPY-1.5 2,500 8.3 導体にキンク発生
TPY-4 3,750 6.2  
TPY-10 8,200 5.5  
TPYC-1.5 4,000 5.5 導体にキンク発生
TPYC-4 7,000 6.1  
TPYC-10 10,000 3.9  
 
 TPY-1.5(最終荷重2,500N、伸び8.3%)及びTPYC-1.5(最終荷重4,000N、伸び5.5%)において、導体にキンク(変形屈曲)の発生が見られた。その状況を写真6.3及び写真6.4に示す。キンクは、電線の引張り荷重をゼロに戻した時(除荷重時)、ビニールシース等が元に戻ろうとする力(収縮力)が導体に圧縮力として作用し、導体が抗しきれなくなり、導体が座屈し、烈しく変形屈曲する現象である。キンクは導体が絶縁体から露出する程度のものまであり、ほぼ一定の間隔で発生している。
 1.5mm2以外の電線には目視では異常な点は見られなかった。
 
1)ケーブルグリップの形式、サイズ、ソックス長さ、強度(線径編み数等)等を選定することにより、ケーブルグリップを使用して、抜け、滑り等を起こさずに、導体を含めて電線全体に目的の荷重を掛けて、引張り試験を実施することが出来た。
2)電線の布設工事等に際して推奨・規定されている導体の許容応力の68.6N/mm2(7kg/mm2)における導体(より線)の伸びは、約0.1%と推定され、荷重をゼロに戻すと元に戻ることが確認された。また、導体抵抗増分は約0.15%と推定される。
3)がい装なし電線の布設工事等に際しての引張りについては、今回の引張り試験の結果からは、適切なケーブルグリップを使用すれば導体をビニルシース等と一体で引張ることが可能であることが確認された。
 なお、がい装電線の場合は、外表面のあじろがい装を引張れば、あじろがい装が今回試験に使用したケーブルグリップと同様に機能し、導体を含めて一体として、引張ることが可能であるが、がい装なし電線の場合は、外表面のビニルシースを引張るとビニルシース部分のみが伸びて不具合である。
4)がい装なし電線の引張り強度は、電線の布設工事で使用してはならない張力の範囲では、がい装電線と比較して、弱いと言えるが、電線の布設工事で使用する張力の範囲では、がい装の強度はあまり寄与していなく、両者の引張り強度にはそれほど差がないことが確認された。
5)がい装なし電線及びがい装電線の比例限度及び弾性限度は、導体(より線)のそれらとはあまり変わらないことが確認された。概ね、比例限度は140N/mm2 程度、弾性限度は110N/mm2 程度と推定される。
6)電線に過度の張力を掛けた場合、外観上は異常がなくとも、電線内部において、導体がキンク(変形屈曲)等の不具合を起こしている場合があるので、推奨・規定の許容限度(導体応力68.6N/mm2(7kg/mm2))内の張力で引張ることを厳守する必要がある。
7)がい装なし電線の布設工事等に際しての取扱については、張力の観点からは、がい装電線と異なることはないが、導体に張力が掛かる方法(適切なサイズのケーブルグリップを使用する等)で、推奨の許容限度内の張力で引張ることが肝要と言える。
 
図6.1 電線引張試験装置 概略配置







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